【書籍紹介】イシューからはじめよ
著者 安宅 和人
学問的に超エリートのみならず実務でもエリート、かつ教える事もできるという万能の人ですね。
「イシューからはじめよ」
納得せざるを得ないのですが、なかなかできる事ではありません。
私事ですが、昨年新しい職務についてやったことは「犬の道」です。この本を読んでいたにも関わらずです。仮説を立てるといっても、全く経験のない職務について最初の課題設定では、想定に自信がもてませんでした。結局定量的な分析を片っ端から進めた結果、自分の想像とは違うところに意外と大きなイシューをみつけました。
やはり、安宅先生くらいに相当に頭が良くないと、イシューから始めるってなかなか実践では難しいんじゃないの?と思ってしまいますが、
改めてまとめながら理解を深めていこうかなと思います。
脱「犬の道」
様々な分析から100の仕事があるとして、本当に必要な仕事というのは2~3だそうです。
この2~3の仕事を先に見つけて集中するのが生産性の高い人であり、
100の仕事をやってしまう人と圧倒的な差があります。片っ端から100の分析をしてしまうことを、著者は「犬の道」と呼んで、ほぼ価値のない仕事に時間のほとんどを費やしていると言い切っています。
本当に必要な2~3の仕事をバリューのある仕事としています。バリューのある仕事は2つの軸から成り立っていて、横軸は「イシュー度」、自分のおかれた局面で答えを出す必要性の高さ、縦軸は「解の質」、そのイシューに対してどれだけ明確に答えを出せているか」の度合いです。
ではあるテーマを与えられたとき、典型的な「犬の道」ワーカーではどうなるでしょうか
月曜日:やり方がわからず途方にくれる
火曜日:まだ途方にくれている
水曜日:ひとまず役に立ちそうな情報・資料をかき集める
木曜日:引き続きかき集める
金曜日:山のような資料に埋もれ、再び途方にくれる
・・・耳が痛いです。心当たりがあります。
これがバリューの高い仕事をするプロフェッショナルならどうなるか
①第1章イシュードリブン 今本当に答えを出すべき問題=イシューを見極める(月曜日)
②第2章仮説ドリブン イシューと解けるところまで小さく砕き、それに基づきストーリーの流れを整理する(火曜日)
③第3章仮説ドリブン ストーリーを検証するために必要なアウトプットのイメージを描き、分析を設計する(火曜日)
④第4章アウトプットドリブン ストーリーの骨格を踏まえつつ段取り良く検証する(水・木曜日)
⑤第5章メッセージドリブン論拠と構造を磨きつつ、報告書や論文をまとめる(金曜日)
なんて建設的なんでしょう!
それにやっていることが私と逆なんですね。まず手当たり次第に定量的な分析を進め論拠を設定し、半ば誘導的にイシューを同定する。結局課題は昨年、一昨年とほぼ同じで、かつ不要な分析が多く何が言いたいかわからない、これが私のやり方です、残念です。
一方このやり方ではイシューから始めるので、ストーリーが一本になりわかりやすい。ストーリーに必要な分析を定めて検証するので説得力があり、ムダな作業がない。
これが、この本の骨格です。
序章に言いたい事の趣旨は全て含まれており、本章では、具体的どう進めていくのかを解説しています。
第1章 イシュードリブン
最初に私のような人間の気持ちを汲んだことが書かれています。
そうなんです。わたしがきちんとものを考える人間だとは言いませんが、普通、そう思うんじゃないでしょうか。
そこでまず第一段階として経験が浅い分野では相談相手を持つことを勧めています。現実の仕事では全く分からないことをたった一人で進める事はまずありません。その道の経験者や、定評のある専門家がいます。
つまり、その分野の常識的なところまでは経験者に聞けばいいじゃん、ということです。自分が考えるのはそこから先だというわけです。
なるほどそうですよね。まず得られる情報は先人に聞く。その業界の常識的な情報はまず学ぼう!
納得です。
仮説ドリブン
その上でまず仮説を立てるところからスタートします。
スタートで重要なことは「スタンスをとる」ことです。
よくある例として、項目だけを挙げてなにに答え出せばいいか判然としない「〇〇の市場規模はどうなっているか」のような課題です。
「〇〇の市場規模は縮小に向かっているのではないか」これで答えがだせる仮説になります。スタンスをとるということですね。
それから、漠然と項目を考えるのではなく「言葉に落とし込むこと」の重要性も説明しています。
良いイシューの3条件
①本質的な選択肢である
どちらかに選択することによって、その後に大きな影響を与えるものです
②深い仮説がある
常識を覆すようなもの、新しい構造で世の中をとらえている
③答えを出せる
現在の技術・科学で答えが出せる
スタンスをとったら、それが良いイシューであるかどうかを検討していきます。まず3条件として上記の3つを挙げています。
第2章 仮説ドリブン①
第1章で入念にイシューを見極めて設定したら、イシューを分解してストーリーラインを組み立てる工程に入ります。
イシューを分解する
まずはイシューを分解します。ここでMECEです。ロジカルシンキングの第一歩で必ず触れますね。「もれなくダブりなく」です。
しかし、単純に売り上げなら 「個数」×「単価」、「市場」×「シェア」など、よくある切り口でとりあえず分解するということはしません。
イシューを起点にして、意味のある切り分けをします。有効な分解例として例えば、下記ような切り口が提案されています。
「WHERE」どのような領域を担うべきか
「WHAT」具体的にどのような勝ちパターンを築くべきか
「HOW」具体的に取り組みをどのように実現していくべきか
ほかにも、戦略的トライアングル(3C)、7S、ビジネスシステム(バリューチェーン)、などフレームワークはいくつか存在しています。
また、新しい分野で既存の切り口がない場合は、イシューから逆算して、自分で切り口を作り出すことを推奨しています
ストーリーラインを組み立てる
イシューの分解ができたら、次にストーリーラインを組み立てます。
ストーリーラインの基本形として、有名な「空・雨・傘」の構造や、「Why」の構造が紹介されています。
「空・雨・傘」は
「空」:雲が厚くなってきた(状況・課題の確認)
「雨」:だから雨が降りそうだ(見極め)
「傘」:そうだとすると傘が必要だ(結論)
日常会話はほとんどこのような構造になっています。
「WHY」の構造は、結論に対して並列的に理由や根拠を示していく方法です。
仮説ドリブン② ストーリーを絵コンテにする
イシューを分解して並べたストーリーラインに沿って、必要な分析のイメージを並べていったものが絵コンテです。
ここで重要なのは「どんなデータが取れそうか」ではなく、「どんな分析結果がほしいのか」を起点に分析イメージをつくることです。
とれる結果でストーリーを考えるのではなく、思い切って大胆に分析結果をイメージします。
分析そのものは基本的な型があります。「比較」「構成」「変化」です。ただそれぞれ、比較なら比較でコラム、バー、分析図、ヒストグラムなど表現型には様々な亜型がありますので、組み合わせることで多様な表現が可能になります
アウトプットドリブン
ここでは実際に分析を進めていく過程において、うまくいかない場合、どのように乗り越えていったらいいかを論じています。
まず、結論にとって一番重要なイシューから手をつけます。結論にとって最も重要な前提となる部分が必ずあるものです。そこから手を付けます。それからカギとなる洞察ありそれを検証します。
例えばシンデレラのストーリーなら、「シンデレラが継母の娘たちより圧倒的に魅力的である」ある前提が話を成り立たせています。事業方針の転換をせまる場合であれば「このままでいくと当該事業は大幅に落ち込む」というような前提です。
シンデレラの話に戻りますと、この物語にはガラスの靴を履けるのはシンデレラだけである」というカギになる洞察があります。こうした洞察はどんなストーリーにもあってプレゼンや論文のタイトルになることも多いです。
・このビタミンは、特定のイオンがある濃度を超さないと効果を発揮しない
・この事業モデルは、3つの条件を満たさないと成功しない
といったものです。
これらの基本となる前提、カギとなる洞察から初めに手をつけます
次にトラブルをさばきます。ほしい数字が出ない場合や自分の知識・技では埒が明かない場合をとりあげ、対処法を説明しています。
メッセージドリブン
いよいよ最終的なアウトレットですが、ビジネスならプレゼンということになるでしょう。ここまででかなり質の高い内容になっているはずですが、ここから、磨き上げてさらに質を高めます
ストーリーラインを磨きこむ
・論理構造を磨きこむ
・流れを磨く
・エレベーターテストに備える
論理構造は「空・雨・傘」、あるいは「WHYの並べ立て」になっているはずですが、不要なものがないか、「空・雨・傘」の論理が崩れていないかどうかなど確認します。「空・雨・傘」にならない場合には「WHYの並び立て」に変えられないかどうかなど検討します。
流れを磨くとは、人を相手にした練習です。
エレベーターテストとは、仮にCEOとエレベーターに乗り合わせたとして、その間にプロジェクトの概要を簡潔に説明できるか」というものです。これはトップマネジメントをクライアントとして仕事を行うコンサルタントや大規模プロジェクトの責任者には必須のスキルだそうです。
チャートを磨きこむ
ストーリーラインができたら、次はチャートを磨きこみます。
・1チャート・1メッセージを徹底する
・タテとヨコの比較軸を磨く
・メッセージと分析表現を揃える
それぞれについて、コツや取り組み方を説明しています。
感想
イシューから始めるって、もしかしたら本当はわかっていたことかもしれません。わかっているんだけど、思考を進めるのが難しくて、考えるのではなく「悩む」状態になり、避けていたんだと思えてきました。
本書ではイシューを特定するところに最もページ数が割かれています。そして、オリジナリティが詰め込まれているのも第1章イシュードリブンです。
なにがイシューなのかを考え抜くことを避けて通らないことが、質の高い解を出す唯一の道です。
本書は決して効率的な方法を指南するものではなく、質の高い仕事に対して、逃げずに正面から向き合い、終章にあるように「Complete work」をしようというのがメッセージです。
イシューを特定する作業は本書を読んだだけでは、まだ雲をつかむような感覚が残るかもしれませんが、実際に課題にあたって実践を重ねていけば、こういうことか、と理解できようです。この感覚は自転車に乗れない人に、乗れる感覚を教えることに似ていると表現しています。
仕事に対する厳しさを強烈に教えてくれる本でした。
本を読んで刺激を受けたらコーチングで行動を変えてみませんか!