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本に出会ったとき、頭の中で起きていること

『昼の家、夜の家』という小説を読み始めました。オルガ・トカチュルクというポーランドの作家が書いた本です。本のカバーを外すと(カバーが素敵な本は、読書中汚してしまわないように、カバーを本から外して金庫に保管します)、表紙に"DOM DZIENNY,DOM NOCNY"とあります。

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ポーランド語のタイトルでしょうか。2回繰り返す”DOM”はたぶん『家』という意味でしょう。”NOCNY”は『夜』でしょうか。”NOC”が『ノクターン〈夜想曲〉』の『ノク』を思わせるので。とすると、”DZIENNY”は『昼』でしょう。どう発音するのか想像もつきませんね。

1ページ目を読みました。ひょっとすると、この本は面白い本かもしれないという予感がしました。

2ページ目を読みました。これは私にとってお気入りの本になるかもしれないと思いました。

2ページ半ばで、これは面白い本でまあ間違いないだろうと確信します。

3ページ目が終わる頃には、どうしよう、読めば読むほど残りが少なくなる、面白いのにもったいない。といういつもの焦り、とりあえず深呼吸でもしようかと思い、本を閉じ、でも深呼吸はせず、部屋をうろうろしはじめます。

再び本を開いて4ページ目、いいでしょう、これは面白い本だと認めてあげましょう、となぜか上目線になって、私の中の何かが吹っ切れます。

5ページ目、部屋の窓を開けて、近隣住民に向けて「みなさまご存知でしょうか。この本はとてもおもしろいです。とてもおもしろいんですよ」と大声で叫びたくなる衝動に駆られて、そわそわしはじめます。

けれども、実際に大声で叫んだりはしません。近所迷惑ですから。部屋の窓を開けたりすることもありません。まだ夜風が冷たい季節ですし。

でも本当は、部屋の窓を開けて大声で叫ばない本当の理由は、もし私が叫んだとして、万が一、万が一ですよ、その声を聞いた近隣住民が私の部屋のベランダの周りにわらわらと集まってきて、「それどんな本なんですか?」「どんなところが面白いですか?」と興味津々に聞かれでもしたら、困ってしまうことを知っているからです。私はいま、というより面白い本を読んでうーん、面白い…と思った瞬間はいつも、その本がなんで面白いのか自分でもよくわかっていません。よくわからないけれど、なぜか面白い、そういう瞬間を求めて、次から次へと本を買います。

いつか、この本がなぜ面白いのか、自分なりに咀嚼して、その魅力を自分の言葉で表現することができればと夢見て、たいていは夢のまま終わります。夢のあとには、読み終わった本だけが本棚に残ります。本棚に並べられたその本を見ると、なんだか、自分の部屋の窓を開けて、大声を出して叫びたくなる例の衝動に襲われます。

その衝動を抑えるために、というより、発散させるために、私は本の中の好きな文章を書き写すのかもしれません。PCのキーボードに文字をキーパンチしていると、そういうやっかいな衝動が薄れてきて、なんなら自分のことさえ忘れてしまうようで、とても良い感じです。

ノヴァ・ルダの図書館は、かつてビール工場だった建物のなかにある。いつもあらゆるものからホップとビールのにおいがした。壁にも、床にも、天井にも、あの酸っぱいにおいがしみついていた。本のページからでさえ、ビールをこぼしたみたいな悪臭がたちのぼっていた。マレク・マレクはこのにおいが気に入った。十五のとき、彼は人生で初めて酔っぱらった。いい気分だった。薄明かりのことは記憶からふっとび、光だろうが闇だろうが、もうどうでもよくなった。彼の身体は彼のいうことをきかず、のろのろとしか動けない。これも彼の気に入った。まるで自分が身体から抜け出して、その身体の傍らで、考えることも感じることもせず、のんびりと暮らせるような気がした。

オルガ トカルチュク (著), 小椋 彩 (翻訳)『昼の家、夜の家 』白水社,p.20

この本を知ったのは、ある方のブログの記事です。その方がどなたかは存じ上げません。ブログの存在を知ったのは1年前(おそらく、何かの本を読んで感動して、この感動をわかちあえる人がいないか探したあのGoogleの窓、その窓の中から偶然見つけだしたように記憶してます)、それ以来、更新を楽しみにしています。でも、いつ更新が途絶えてしまうかはわかりません。

ブログもそうですし、あるいはAmazonの魅力的なレビューの数々によって、私は今までたくさんの魅力的な本を知ることができました。ちなみに私は新入社員の研修中、隣の席の同期に「休日は何をしてるの?」と聞かれて、「Amazonのレビューを読んでるよ」と満面の笑みで答えたら、「そうなんだ…」と、かなり明らかにどんびきされた経験があります。

今までブックマークしてきた個人のブログやAmazonのレビュワーの履歴ページはおそらく1000はいくでしょう。でもそのほとんどは、突然、更新が途絶えてしまいます。なかには、全ての記事が削除されて、二度と見れなくなってしまうことも。その度に、ああ、あの文章がもう一度読みたいのに、もう二度と読めないんだ…とがっかりします。

もし、今度時間が出来たら、そういう魅力的なブログ記事やAmazonレビュー、私に面白い本を出会わせてくれたきっかけとなる他の方の文章をちゃんとメモに残して、整理してみようかと思っています。

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