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「無職転生」は王道ライトノベルの香りがする

「なろう系」という言葉をあなたは知っているだろうか?
なろう系とは主に「小説家になろう」という投稿サイトに掲載されているネット小説のことを指す。近年は毎クールのように、なろう系作品がアニメ化されていることでグングン知名度を上げている。特に「転生したらスライムだった件」「盾の勇者の成り上がり」「Re:ゼロから始める異世界生活」などは、原作・アニメ共に人気を博しており、知っている人も多いはず。これらの作品の特徴としては

・「主人公異世界に転生する」
・「チートといわれるような能力を持っている」
・「とにかく作品名が長い」
・「ハーレムを築くことが多い」

等が挙げられる。似通った設定・展開の作品が流行りを形成する事が多く、所謂「テンプレ」要素を含んでいることが特徴である。テンプレ要素が強く、作品が書きやすいことも関係して、小説投稿投稿サイトには大量の作品が掲載されている。中には質の低い作品もあり「面白くない」と批判されることもしばしばある。個人的には確かに面白くない作品もたくさんあるのだが、ランキング上位に長く食い込んでいるものは、何かしら面白いポイントのある小説であることが多い。

というわけで、今回はやり玉に挙げられることも多い「なろう系」の中で、実際に読んで面白かった「無職転生 ~異世界行ったら本気出す~」について紹介していきたいと思う。

・作品の概要

「無職転生 ~異世界行ったら本気出す~」は、理不尽な孫の手が「小説家になろう」に2012年9月から2015年4月まで連載していたオンライン小説。2013年10月から2019年2月まで小説家になろう累計ランキング1位を維持していた人気作品である。

・あらすじ

日本に暮らす34歳引きこもり無職の主人公は、親が死去したのに伴い兄弟に見限られて家を追い出されてしまう。家を出た後、トラックに轢かれかけた高校生3人を助けようとして事故死してしまう。死んだと思っていた彼が目を覚ますとそこは、剣や魔法が存在する異世界だった。

一言でいうと「引きこもりの無職が、異世界に転生して第二の人生を頑張って生きていく」という作品。


・一見すると…

「あらすじ」だけ読んでもらうと、所謂「なろう系」のテンプレが詰め込まれた作品であることが分かると思う。「タイトルの長さ」「異世界転生」「現実ではオチこぼれが転生して活躍する」等々。この段階で「なろう系」が好きでない人は、興味をなくしてしまうかもしれない。

・無職転生の魅力①

 なろう系が、しばしばやり玉に挙げられる原因は「描写の不自然さ」にあると僕は考えている。登場人物の不可解な行動・不相応な能力・何故主人公に惚れたのか分からないヒロイン等、なろう系では描写が上手くされないために不自然な展開になることがしばしばある。「なろう系」と一般に販売されている小説を分けるラインはこの「描写」にあるように思う。。その点において「無職転生」は、描写が比較的丁寧であり、明らかに不自然な心理描写や不可解な登場人物の動きはほとんど見られない。その点は安心して読むことができる。

 しかし、描写が丁寧なだけで小説が面白くなるわけではない。そもそも「無職転生」の「描写」はネット小説の中では丁寧、というだけで決して巧みという程ではない。では「無職転生」は何が面白いのか?

「無職転生」の最大の魅力は「伏線の巧みさ」にある。無職転生はとにかく、伏線の散りばめ方と回収の仕方が上手い。序盤こそ物語の展開がゆっくりではあるが、伏線が上手く動き始める中盤辺りからは一気に面白くなる。特に、後半では作中の大きな謎が明らかになり、敵が明確になっていくシーンはとても印象に残っている。また、死に設定があまりなく無意味な描写が、ほとんど見られないのも読んでいて好印象だった。


・無職転生の魅力②

 「無職転生」の面白さをもう一つ上げるとすると「主人公がずっと苦戦している」点にある。なろう系のテンプレとして「主人公が規格外に強い」「主人公が無双する」という展開があるが「無職転生」は主人公が最強ではない。主人公よりも明らかに強いキャラクターが何人も登場するし、何度も闘いに負けている。今回はどうにもならないのでは?という展開もしばしばあって、それを工夫と努力で乗り切っていくのは読んでいてワクワクさせられる。

 主人公が無双する展開を求められる、なろう系において主人公が苦戦するのは必ずしも良いことではない。嘘か真か「小説家になろう」では、主人公が苦戦する話を書くと、閲覧数が減ることすらあるらしい。そんな中で「無職転生」は上手く主人公を追い込んで、ストーリーをドラマチックにしている。

・イマイチなポイント①

 ここまで「無職転生」を褒めては来たが、勿論イマイチだなと思う点もいくつかある。特に悪目立ちしているのは、メタネタ・パロディの多さである。ネット小説を読む層であればおおむね理解ができるので、悪くはないのだが数も多く好みが分かれるところだと思う。個人的には、ストーリーが魅力的なので、メタネタ・パロディはもっと控え目でも良かったように思う。

・イマイチなポイント②

 もう一つのイマイチポイントは、結構安易にハーレム展開になること。勿論、意味もなくハーレムになるわけでもないし、ヒロインが主人公に惚れる描写にも違和感はない。ただ、主人公の自分勝手さにモヤモヤする人も少なからずいると思う。ハーレム的であることと、主人公の中身がオッサンである点を加味すると、女性ウケはあまり良くない作品であることは間違いない。

・総評

 無職転生は間違いなく面白い。でも読む人は選ぶかな…という感じ。ただ、なろう系というだけで敬遠している人には一度読んでもらいたい小説である。「無職転生」は、いわゆる「なろう系作品」よりも「ファンタジー系のライトノベル」に近いと僕は思っている。僕は「ゼロの使い魔」というライトノベルが好きなのだが、無職転生はそれに近いテイストだと感じる。主人公が何度も窮地に陥り、仲間に支えられて危機を脱するというストーリーはライトノベルや少年漫画では王道だが「なろう系」では意外とない展開である。なので「ゼロの使い魔」とか「ロードス島戦記」のような王道ライトノベルが好きな人は、是非一度手に取って頂きたい。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。


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