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噂 感想
1999年に女子高生をしたかった
自分は1994年生まれなので、世間が世紀末だ、魔王だなんだと言っている頃はまだ5歳だった事になる。5歳の頃の記憶は殆ど皆無だし、世紀末という言葉も当時は知らなかった。
自分の中の平成初期のイメージはこんな感じ
NANA
ルーズソックス、アムラーの女子高生
ヴィジュアル系バンド全盛期
浜崎あゆみ
あとは何となく退廃的でみんな病んでいて、どうでもいいやだって世界終わるし??といった何処か諦めモード、楽観的なイメージを持っている。
これを読んだお姉様お兄様の中には、『いやいやそんな事はなかったよ』『自分や周囲は健全だったよ』という方も勿論居るのだろうけど、イメージとして軽く受け取って欲しい。
とにかく、ある種の諦念を持ちつつも膿んだ世界でガングロギャルが踊りまくるイメージを持っている。そんなの楽し過ぎるだろ。女子高生やりたかったー!その反面猟奇的な未解決事件が多かったり、ハラスメントが未だ横行していたり、危うい時代だったように思う。インターネットもまだオタク文化の域を出ていなかったような。パソコンもでっかい箱だったし。
平成初期について、私のイメージは上記だけれど、間違っていても特に気にしないで欲しい。ヴィジュアル系バンドの全盛期は昭和だろ!とか。すみません…。
今回読んだ『噂』(荻原浩)は、そういった時代のギャルを一番主題に置いた作品のように思った。よし。やっと作品紹介に辿り着いたぞ。
『噂』 荻原浩
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。
個人的に序盤が冗長に感じたけれど、読み進めていく内にまずキャラクターに夢中になっていった。
名取という女性警部補が兎に角良い味を出している。小動物の様な小柄で可愛らしい外見ながら、経験からくる凄まじい観察眼を持っており、被害者達の部屋から故人がどんな人物だったか、彼女たちの人物像を予想していく。
何となく、本棚をイメージした。本棚から、ある程度の人柄がわかるような気がする。
どんな並びか、内容はどんな物が多いか。
私の本棚はサイコサスペンスかホラーばかり並んでいるけれど、では私自身が連続殺人犯に憧れを持っているかと訊かれると、まぁそんな事はない。それでもそこに強い興味関心がある事は間違いない。
そのように、名取は人物(本作では故人)の最たるプライベートな空間、女子高生の居室を見て彼女らの共通項を探っていく。
名取の事ばかり話してしまったが、主人公である小暮もなかなか味がある。昭和の刑事ドラマさながら貫禄を感じる、暴対にいる刑事をイメージしながら読んだ。
女子高生の娘がいるが、事件が立て込んでいない間は彼女のお弁当を作っている。娘に家事を任せきりにしないカッケー父ちゃんだ。
彼は頑固そうに見えるが、物語が進んでいくにつれ、今作の鍵となる渋谷に毎日足を運び、トレンド最先端のギャルと親しく話す等、徐々に心を開いていく。
思春期の子どもというのは頑なだ。自分らのスペースを犯す者を決して許しはしない。小暮が警察官と知るやいなや、逃げ出す者、舐められないよう虚勢をはる者、様々な対応を見せる。
小暮は彼らに舐められず、けれど無駄に威圧したりもしない。そういった対応を、彼は先述した名取からも学んでいく。
衝撃のラスト一行
これは実際に読んでみて、そして息を飲んで欲しいと思う。
なにぶん昔の作品なのと、名作である為、そこら中にネタバレが転がっている。
是非、それ等のネタバレを一切読まずに体感して欲しい。
人間というものは、本当にわからないものだな。
今作で少し違和感を感じたのは、小暮と名取の関係性が必ずしも恋愛(再婚)に向かってしまいそうな空気を、小暮視点から感じた事だった……。
良い相棒のままではダメだったのか、『良い雰囲気』とやらが、小暮の自信過剰でない事を祈る……。(小説なのに)
ラスト一行でひっくり返る話が好きなのと、フェティズムを感じた、良い作品だった。是非読んで欲しい。