ちびたの本棚 読書記録「墨のゆらめき」三浦しをん
かび臭いような清々しいような墨の香りが全編を通してまとわりつく。
書家の遠田と、ホテルマンの力(チカラ)。それぞれに己の仕事に真摯に向き合う姿が描かれている。
三浦しをんさんの真骨頂、男の友情と仕事の物語だ。
端正な外見とは裏腹に豪放磊落な遠田。彼は時おりヒヤリとした心の一部をのぞかせる。まるで深く暗い穴にうっかり手を入れてしまったかのような。
次第にチカラは遠田の心の奥に隠されたものに惹かれていく。
この作品はAudibleが先行して発表されたと知り、なるほどと思った。あれ?三浦しをんさんのいつもの文章のリズムと違う、と感じる箇所がいくつかあったから。
言葉の数が少し多いというか、表現が重複するというか、朗読のための文章と目で文字を追う文章との違いなのだろうか。
いずれにしてもAudibleは新しい試みだ。
お手本の「風」はどのような風だと思う?子どもたちに考えさせようと、遠田は書道教室のすべての窓を開け放つ。エアコンで冷えた室内に突然入り込んできた真夏の風。生徒たちは思い思いの「風」を書き始める。
わたし自身、子供の頃に書道教室に通っていたが、文字に対して思いをめぐらせた記憶はない。ただハネやトメ、ハライなど、お手本と見比べて形ばかりを気にかけていた気がする。
さて、墨と硯はどこにしまったかな。たしか押し入れのどこかにあったはず…。
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