仕上げ磨きで寝る前のふれあいを
「仕上げ磨きは10歳くらいまでしてあげてくださいね」
子どもを連れて訪れた乳幼児歯科検診での歯科医の言葉に、私はおののいた。
「できれば12歳まで。大人の歯に生え変わるくらいまではね」
衝撃的だった。
物心ついた頃から私は一人で歯磨きをしていた。
もちろん記憶にないくらい幼い頃には、きっと親も仕上げ磨きをしてくれていたと思う。
けれど、まがいなりにも一人で磨けるようになったら、仕上げ磨きという習慣はなくなっていた。
だから、10歳まで親が仕上げ磨きをするなんて思いもよらなかった。
子どもの立場で想像するだけで、照れくさいような気がした。
基本的にまじめな私は歯科医の助言を守り、今も子どもへの仕上げ磨きを続けている。
現在、上の子は9歳。
歯並びや咬合に問題があって矯正治療をしていることもあり、仕上げ磨きは不可欠だ。
かつては小さな頭がひざにのり、必死に口を開けていた子ども。
今ではひざにのった頭はずしりと重い。
小さなつぶつぶの乳歯が生えるのみであったのが、現在は奥歯を除いては乳歯も抜けて、立派な歯が生えている。
そのたびに時の流れを感じて切なくもなるが、そんなに大きくなってもまだ母のひざに頭をあずけて口を開けている姿はかわいらしく愛おしい。
親としては仕上げ磨きは面倒なのだけれど、実はこれはとても良い習慣なのではと感じている。
まずなんといっても虫歯予防の効果を感じている。
私自身は先述のとおり、物心ついた頃には自分で歯磨きをしていたけれど、歯医者には3歳ころからデビューしていた。
小さな虫歯は何度もできたし、歯が痛くなって泣き叫ぶほどの虫歯ができた記憶もある。
一生懸命磨いていたつもりだけれど、やはり子どもが磨くには限界があるのかも知れない。
しかし、今のところ我が子(9歳、6歳)は一度も虫歯にならずに済んでいる。
そして何より注目したいのは、スキンシップとしての側面だ。
夜寝る前、たいてい我が家は親子げんかになる。
早く寝て欲しい母VSまだ動画を見ていたい子どもたちとのバトルが繰り広げられるのだ。
「いい加減にして」とタブレットを取り上げられて、子どもは泣いてかんしゃくを起こしたりするのだが、寝る前には必ず歯磨きが待っている。
お互いイライラしたり泣いたりしながらも、しぶしぶでも膝に頭を乗せて仕上げ磨きをすることで必然的にスキンシップが図られる。
そして仲直りとまではいかなくとも、わだかまりを残したままその日を終えるのではなく、なんとなく肌が触れ合い、なんとなく必要な会話をして、仕切り直しができるのだ。
いつまでこれが続くのか、仕上げ磨きが終わる日もそう遠くはないかもしれない。
それまではしっかりとその時間を噛みしめ楽しみたいと思う。
大切な歯と、触れ合う時間のために。
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