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【読書感想】『時間の香り』〜50人の著名人が綴る香りの思い出〜

こんにちは。AMBER BOTTLEの坂田です。
マガジン『aroma & books』では、アロマや香りに関連する本のレビューをまとめています。アロマセラピーを学ぶのに役立つ本、香りについてさまざまな気づきを与えてくれる本などを取り上げます。

今回は、私にとって、やっとここまでたどり着いた一冊である『時間ときの香り』を紹介します。

本書は、香料メーカー、高砂香料工業の広報室が同社のPR誌を編集し、書籍化したものです。有名人がこのPR誌に寄稿した、香りにまつわるエッセイが一冊にまとまっています。

この本は書店ではなかなか見つからず、某新オンライン古書店で買いました。目を付けて「お気に入り」に登録してから入手できるまで、実に3年かかりました。そして、入手してから数年放置(苦笑)したのち、やっとこの本を読む順番が回ってきました。

この本に目を付けたのは、有名人が香りにどんな想いを抱いているのかを知りたくなったからです。寄稿したのは、作家、映画監督、エッセイスト、画家、俳人、など総勢50人。そのうち私がわかるのは幸田シャーミン、阿刀田高、兼高かおる、ジェームス三木、阿久悠くらい。文芸作品や映画、芸術と縁遠いのがバレバレです。

さて、これら有名人は、それぞれの香りの思い出を綴っています。多くはその人達が幼少の頃の話で、花や食べ物の香りとその思い出がつづられています。記憶も香りも人それぞれで、その表現もその人らしさが出ているのだと思います。「雪の匂い」というタイトルが付いたエッセイが2つありますが、描かれている情景や出来事は似ても似つかぬものです。それでも、両方ともその中に雪の匂いを感じたというところが興味深いです。

ひとつ印象的だったエッセイがあります。病気で体が壊れていき、嗅覚も失ってしまった人の話です。嗅覚を失い無味乾燥な無臭の世界で生きることになったわけですが、香りの記憶をたどりながら、香りを想うようになったといいます。香りはイメージの世界でつくる・感じることができる。だから、匂いは嗅覚を必要とするが、香りは必ずしも嗅覚を必要としない、と。

人間の嗅覚の不思議さを表す話だと思います。香りの記憶が残っていれば、元々そなわっていた嗅覚を失っても香りをイメージできる。実際にその匂いを嗅いでいなくても、なんとなく香りのイメージを感じることができる。

たしかにそうですね。人と食べ物の話をしていると、その食べ物の香りのイメージができて食欲が起こるという経験はまさにこのことです。本書の中にカレーにまつわるエッセイがありますが、その話を読んでいてカレーのスパイスの香りをイメージできました。

そう考えると、いろんな匂いを嗅いで香りのイメージをたくさん持っておくことは、人間という生き物として大切だと思った一冊です。

Book Profile
時間(とき)の香り
1997年9月30日 初版発行
高砂香料工業株式会社 広報室・編
八坂書房・刊

見出しタイトルは、蒼aoiさんのイラストを拝借しました。ありがとうございます。

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