【トゥバ共和国への旅4】 草原にて
☀☀☀ 興味深い話 ☀☀☀
チベット仏教の読経の声は日本のそれと違ってとっても重厚なんだわ。喉を強くふるわせてるんだね。現地の住職さんに聞くと、チベットに伝えたのはトゥバのお坊さんらしい。裏がとれた話でもないので、そうですか、と聞くしかないんだけど、それってありそうと思うのが、トゥバの喉歌「ホーメイ」の歌唱法の中に「カルグラー」というスタイルがあって、ボクは前から関連性が気になっていたのです。チベット仏教の一つの源流、トゥバにあり、というわけだね。ちなみに般若心経をホーメイで唱えるとこんな感じ。
現地の友人に案内されて何日目かなあ、向こうの方までずっと平原の公園、エニセイ川=地理で習ったよね。名前しか知らんけど=のほとりにあるんだけど、そこでのんびりしていたら、向こうの方から大きな音を出し、車を連ねて行進してきます。トランペットにホルンと、かなり派手な楽団なので、なんじゃ、と同行の地元の人に聞くと、野辺の送りじゃ、と。葬列も所変われば、です。落語の「地獄八景」みたいなにぎやかなあの世行き。おいおい、勝手に地獄ってなんでえ。極楽行きなんかもしれませんが、なんしかにぎやか。
☀☀☀ 断念、それも ☀☀☀
所変われば、といえば、その後、ワタシらの車は草原の中を行くのですが、そのスピードが半端じゃない。メーターをのぞき込むと120キロ。むちゃなのは彼だけか、と思っていたら、当地の標準的な運転のようで、彼の友人の実業家もそうでした。いかすオフロード車なんですが、シートベルトをしようとすると「そないなもん、ええがな」と。草原の中の道なき道、体が跳んだり跳ねたりするのに、ええがな、って、いかんがな。
昼食後、向かったのは「修行者が座っていた岩」。トゥバの友人は「おまえさん、草履だけど、どうかなあ」と言うので、何事かいな、といぶかしんでいたら到着して納得。目指す岩は断崖絶壁、山の頂の上にありました。「あそこまで、って、ちょっと待ってえな。聞いてないよ」
でもね、取りあえず、山にとりつきました。無理かなあ、と思っても、連れてきてもらった手前、やってる感をださんとあきません。石と砂と急勾配。歩くというより、はい上がっていく感じですわ。そのうえ、ボクは極度の高所恐怖症なので、めちゃめちゃ怖い。岩には接近したのであるが、とうとう到達できず、登山隊から離脱いたしましてござる。
一人、山からおり、大きな岩の上で休憩。ボクの眼前には、はるかサヤン山脈の山々が広がっています。雲の切れ間からとても柔らかな日差しが大地に降り注ぎます。ほおをなでるのは雄大な大地をわたってきた優しい風。日々のわずらわしさを、ふっとどこかへ連れて行ってくれる。気持ちがどんどん軽くなるんです。自然はやっぱり素晴らしい。
そんな体験も山に登れんかったからこそです。挫折も悪くはありません。頂上からの風景は格別だったかもしれないが、そちらの方は考えてもしょうがないから考えない。ここはやはり「挫折も悪くはない」と、まとめときまひょ。
☀☀☀ カエル坊主 ☀☀☀
午後7時。といってもトゥバの太陽は地平線がよほど嫌いらしいのです。いつまでたっても沈みません。実業家氏の農場に立ち寄り遊びました。広いのなんの、草原の中、どこからどこまでがそうなのか見当が付きません。放牧されているのは羊に山羊、馬。地元の友人は馬に乗って駆け回っている。勧められたが、落馬しかねん、と考えて断りました。
午後8時。なのにまだ明るい。みんなでホーメイを歌って、今度は夕食じゃ。さすが金持ち、ごちそうにワイン。お礼にワタクシのトレードマークでもあるカエルの帽子をプレゼントしましたら、「パガのラマさん、ね」と、トゥバの人たち。バナナラマとは違います。I’m your Venusってバブリーですね。トゥバのパガというのはカエルのことらしく、「カエルの坊さん」ぐらいの意味らしい。そうだろなとは思っておったわけですが、やっぱりそのままやんけ。
農場をおいとまし、全速力で帰る。途中でパンクで時間ロス。真っ暗なんで作業がはかどりまへん。埋め合わせというわけでもないのでしょうが、車は暗黒の闇夜をかっとばす。メーターをのぞいたら冗談やない、150キロを超えている。突然のパンク、素人の応急措置、タイヤが外れるのがはやいか、ホテルに着くのがはやいか。ドキドキしながら首都クズルのホテルに帰ったのが翌午前2時。