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忘れられない物語
おはようございます。
本好きライターのりえです。
読み終わった後、何日もその物語の余韻が残る作品というのがあります。
最近読んだこちらの本も、そういう作品でした。
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。
見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。
あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という”実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。
そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。
だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日━━
直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。
あまりにも残酷で悲しくて、でもこの作品から目をそらすことはできませんでした。
山田なぎさの前に現れた不思議な転校生、海野藻屑。
「ぼくはですね、人魚なんです」
藻屑の登場シーンがまず衝撃的だった。
美少女なのに、自分をぼくと呼び、ましてや人魚だなんて。
藻屑の言うことは嘘ばっかりだった。
だけど読み進めていくと、
藻屑はそうやって嘘の世界を生きることでしか、現実と向き合えなかったんだって、後になって分かって、胸を締め付けられました。
父親を亡くし、兄は引きこもり。
自分の境遇に絶望していた山田なぎさは、自分よりももっと不幸かもしれない海野藻屑の登場によって、激しく混乱するんですよね。
自分が認識していた世界から、はみ出す人間が現れたから。
13歳の少女のその不安定さが痛いくらいに伝わってきて、わたしは余計にこの作品から目が離せなくなってしまいました。
13歳の山田なぎさと海野藻屑。
ふたりはまだ13歳で、あまりにも頼りなくて、まだ自分の運命を自分で切り開く力がなかった。
その事実があまりにも残酷な結末に繋がって、わたしの心を落ち込ませました。
父親のことが大好きだと言った藻屑。
好きって絶望だよね、と言った藻屑。
こんな人生、ほんとじゃない。きっと全部、誰かの嘘なんだ。だから平気。と言った藻屑。
残酷で、かわいそうで、美しい藻屑のことをわたしも忘れられないだろうと思います。
こういう作品に出会ったのは、本当に久しぶりでした。
軽く読める作品ではないけれど、出会えて良かった作品でした。
気になった方がいたら、ぜひ。
では、また。
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