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詩 トンボと少年

夕暮れの住宅街を自転車で走っていると
トンボが一匹飛んで来た
僕はふとなにを思ったか
蜻蛉を追いかけるように自転車を早く走らせた

その途端

その場所は住宅街ではなく田んぼの畦道で
僕は大人ではなく麦わら帽子の少年で
握りしめるのはハンドルではなく虫取り網で
纏うのは湿った風ではなく虹色の風で
見つめるのは今日ではなく遠い未来で

それらはすべて
きらきら輝くあの頃抱えたものだった

トンボは一時わたしを過去へ誘うと
やがて夕暮れの空に消えていった

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