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#2 江戸川乱歩「心理試験」(春陽堂 2015)

日本近代文学で私が最も好きな作家は江戸川乱歩だ。明智小五郎などによる華麗な推理ショーやトリックもさることながら、時にグロテスクともいえる乱歩の描写に惹かれてしまう。

今回紹介する「心理試験」は1925年に発表された小説でかなり短い作品だ。ドストエフスキーの「罪と罰」を参考にしたとされる。また、「怪人二十面相」シリーズでお馴染みの明智小五郎も登場する。

完全犯罪を実行しようとした青年のトリックを判事と明智が見破るというストーリーでさほど派手なものではないが、完全犯罪の魅力に取り憑かれる主人公の心情描写と軽妙なトリックに初期の乱歩が詰まっている。

乱歩の初期の小説には本書や「屋根裏の散歩者」など犯罪の魅力に取り憑かれた話が多い。彼らはいわば犯罪行為をを手段としてではなく目的として行ったわけだが、そのような一見常人には理解不能な心理を扱った小説がここまで長く愛されるというのも乱歩が持つ特性の一つなのかもしれない。

本書はグロテスクな描写は少なく、非常に短いので読みやすい。全集や短編集にも収録されているほか、春陽堂の江戸川乱歩文庫のリニューアル版にも収録されていて、新刊書店で販売されているほか、青空文庫でも読むことができる。


紹介した本

心理試験 江戸川乱歩著 春陽堂(2015)文庫
292頁 800円

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