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飲食店のボトルネックを打破する「ファストパス」の試み〜流れの改善があらゆるビジネスの基本
需要によって値段が変わる「ダイナミックプライシング」が当たり前になってきました。ただゴールデンウィークに通常8,000円のホテルが40,000円になっていて、さすがにひるんでしまった若林です。
さて、時間や季節によって、需要に供給が追いつかず、大渋滞(滞留)してしまうのはよくある光景です。
つまり「ボトルネック」が発生する訳ですが、お盆やゴールデンウィークのような瞬間的な需要増加に合わせて、キャパを増やしてしまうと、それ以外の時期には、余剰な固定費を抱えてしまうことになります。
だからといってボトルネックによる大渋滞を放置してしまうと、お客さんからのクレームが増えたり、「あそこはいつも混んでいてサービスが悪い」という悪評がついてイメージが悪化するリスクもあります。
例えば、大人気ラーメン店が行列を放置しているとどうなるでしょうか?
あふれたお客様の行列で入口を塞がれた近所のお店からクレームが増えたり、十分な駐車場がなければ、客の違法駐車(駐輪)問題が頻発して、警察から「なんとかしてくれ」と注意を受けるかも知れません。
待っている間にゴミを道端に平気で捨てる人もいますし、客同士がお互いにイライラして喧嘩に発展することもあります。夏場なら熱中症などによる体調不良のリスクも心配しなければなりません。
待っているのは、お客様の勝手かも知れませんが、お店がそれを無視するわけにはいないのです。
ファストパスはボトルネックの解消策になるか
そこで、この行列問題を「TOC(制約理論)」を使って、どのように解決できるか考えてみます。
「つながり(Interdependency)とばらつき(Variabilty)」があれば、必ずそこにボトルネックが存在し、そのボトルネックを解消すること(のみ)が、成果(スループット)の向上に繋がる」
というのがTOCのシンプルな説明です。
ボトルネック解消の具体的な手段として、特定のシーズンや時間帯の需要変動に対応するやり方が、冒頭でもご紹介した「ダイナミックプライシング」です。値段が上がるほど、一定の割合で諦める人がいるからです。
もう一つのメジャーな方法が、有料の「ファストパス」です。以前、富士急ハイランドに行ったときに、行列をスキップできる「絶叫優先券」を1アトラクションあたり2,000円で買いましたが、旅行者にとって限られた滞在時間と体力を有効に使うために、1時間の待ち時間を2,000円で買ったと思えば、極めて合理的だなと思いました。
USJのエクスプレスパスや、ディズニーのプレミアアクセス(DPA)でも同じですが、長い行列をスキップできるファストパスは、お店側にとっては、客単価の向上に繋がります。
さらに行列があったら並ばなかったであろう顧客を獲得することもできます(機会損失の防止)。また行列を整理をするためのベルトパーティションや、係員さんの人件費などの経費もカットできます。
お客様側は、本来は行列で待たなければならなかった時間をセーブするために、能動的にオプションを買うわけですから、価格に対する納得度も上がります。
「1000円の壁」を巡るジレンマ解消
このレジャー施設でのファストパスの実績と効果を考えば、街中にある人気レストランや飲食店でも、ファストパスを導入するメリットは十分ありそうです。
もちろん独自にファストパスシステムを開発するのはコストがかかるので、「ボトルネック」解消のためのクラウドサービスがどんどん登場してきています。
そして、この”飲食店ファストパス”は、お店が抱えるあるジレンマの解消策にもなる可能性があります。それは通称
「1000円の壁」
と呼ばれる問題です。
飲食店経営の経験のない人は「そんなに人気のある店なら、単に通常価格を上げればよいだけでは」と思いがちですが、そう単純ではないのです。
例えばラーメン店において1000円は一つの目安になっており、1000円以上の価格設定にするには、大きな決断が必要です。
昨今、原材料費や人件費などのコスト高騰が進む中、ほとんどの飲食店は客離れのリスクを懸念して、コスト高騰に見合った値上げができていないのが実情です。経営が逼迫している企業が多く、飲食企業の倒産件数はこれまでにないほど高い水準で推移している危機的状況です。繁閑差などの需給バランスの変化に関係なく同一価格で商品・サービスを提供する飲食店のビジネスモデルでは、利益獲得の機会損失が多く発生してしまっています。
これをTOC思考プロセスの「クラウド」で書き出してみます。
![](https://assets.st-note.com/img/1716876470064-4uSGwwVWA6.png?width=1200)
値段を上げたくても上げられない。このようなジレンマを解決するために、飲食店ファストパスがうまく機能する可能性があるというわけです。
ちなみにクラウドの作り方はこちらの番組が参考になります。
精神論ではなく、ロジックで問題を解決する
行列によって、機会損失しているビジネスは、世の中に有象無象にあります。もちろん、レア感(希少価値)を演出するために、あえて品薄にしたり、わざと行列を作らせたりするマーケティング戦略もありますが、そうでないなら、ボトルネックの改善に集中すればよいだけです。
「ボトルネック」を予想してピークシフトさせる方法として、値段を上げるファストパスのようなやり方とは逆に、ディスカウント時間を設けて、空いている時間に誘導する「ハッピーアワー」のようなやり方もあります。
最近は円安の影響もあって
「外国人観光客によるオーバーツーリズムをどうする?」
といったテーマがテレビや雑誌で取り上げられることも多いのですが「おもてなしの精神でなんとかできる」といった大雑把な議論でははなく、渋滞を発生させているボトルネックを特定して改善すれば、自然に流れは良くなります。
いずれにしろ、ボトルネックの解消が、今後もビジネスのキーになることは間違いありませんし、ITの活用によって、その対象範囲はどんどん拡大していきます。
さて、世の中のどんな「ボトルネック」を解消すれば、ムダな行列が減り、世の中のストレスが減り、価値を創出できるでしょうか?
ファストパスがまだ導入されていないブルーオーシャンな市場はないでしょか?ぜひ街を歩きながら思考実験してみると、新しいビジネスヒントの発見につながるかも知れません。
執筆者プロフィール:
若林計志 (Kazushi Wakabayashi)
「ザ・ゴール研修(法人向け)」「ザ・ゴール エッセンシャル講座(個人向け)」開発運営責任者、ゴールドラットチャンネル総合演出。学生時代、予備校のオンライン授業のあまりの面白さに大きなショックを受けて以来、世の中の「つまらない授業」の撲滅を目指し、MBAプログラムをはじめ、様々なオンライン講座プロデュースを手掛ける。著書に『プロフェッショナル演じる仕事術』『MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み』(PHPビジネス新書)などがある。