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不安の正体とは?映画「ファーザー」

ファーザー(2020年製作)

本人の「不安」の正体がわかった気がした

ほんとうに怖い。見終わってしばらく経っても怖い。
と言っても、ホラーでもゾンビでもなく、まるで「認知症の当事者になった」かのような不安を感じることが怖いのである。

認知症になると認知が低下すると言いますが、本人にしたら時系列もばらばらの認知でやって来る。

時系列がばらばらっていうことは、映画の視聴者でさえ意味が分からないことばかり起こる。知らない人がいきなり表れて意味わかんない失礼なことを言う、これはとにかく不安でいっぱい。

この役でアカデミー賞のアンソニー・ホプキンスの名演技っていうけど、まるで私の91歳の叔母の行動そのものなんですけど…

特に具体的な理由は無いけれど、不安で電話をかけて来ては小一時間話を止めない叔母の「不安」の正体が少しわかった気がした。

介護者の「不安」もある

私はいま、84歳の母、91歳の叔母、60歳代だけど重度肢体不自由の姉の3人の面倒を見ながらフルタイムで働いています。(1人で3人見ることは到底不可能なので、叔母と姉の介護は外だししてプロに任せています)

そのせいか、娘アン(オリヴィア・コールマン)の立場になりきって映画を観てしまった。

ウチの3婆たちはこの映画のお父さんみたいに認知症ではなく、緩やかな老いがそれぞれの段階とスピードで進行中、みたいな感じなので、今のところ映画ほどの困難はありません。

でも「きっといつかこうなるかも?」という漠然とした不安がある。

でもこの映画で感じたのは、「いつか3婆がこの段階になるかも?」という介護者としての不安よりも、「いつか自分がこうなるかも」という不安のほうが大きい、ということ。

私はアンのように優しくなれない。まずは「自分のエゴ」なんだな。そこにも気づかされます。
でも、それは誰にでもある気持ちかもしれません。介護というのは、常に「いつか自分がこうなるかも」という自分の気持ちとの戦い。

介護を協力しあっている従兄は、優しい人なのだけど、アンのパートナー同様、本人の「不安」に寄り添えず、いつも介護者の理屈を通そうとしてイライラしている。

「そんな余計に不安にさせることを言ってどうするんじゃい?」
とついつい思ってしまうけど…(笑)。寄り添うことの難しさよ。

イラついている従兄を見ると、映画「ファーザー」を勧めたい。noteでは映画を勧めまくっているくせに、身内には難しいものです。

そして介護専門職の方の在り方も、面白く見ました。
「専門職のかかわりは、当事者からはこんな感じで見えているんだ」ということも分かりやすく描かれていました。

オリヴィア・コールマンの複雑な表情から目が離せない

アンソニー・ホプキンスは、もう演技とは思えない演技でしたけれど、オリヴィア・コールマンがなんとも普通っぽい娘。複雑な気持ちをうまく表現していて共感を覚えました。

この方、「女王陛下のお気に入り」(2018年製作の映画)で女王役だった女優さんですね。これも別の意味で怖かったよ~

長いお別れ(2019年製作の映画)

こちらは、認知症になった父だけでなく妻と娘たちの人生それぞれから描かれていて、とても好きな映画です。
特に竹内結子が心に残っています。

この映画を観たときは、まだ3婆の介護が遠隔だったのでもっと不安が強く、身につまされていました。
今見たら、また違った感想があるのかな。


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