見ている人が、ひとりでいるのを不安に思わないような人になりたい。 自分からひとりになっているだけのとき、そう思いたいだけかもしれないけど、「ひとりにささせてる」と誰かが思っていたら、ほんとうに消えたくなる 誰かが、なにかがみているとか、もういい ひとりでいること、気にしたくも気にされたくもない。ただ淡々と、当たり前にひとりでいればよくて、そこに他者はいらない。でも誰かが気にかけてくれたとき、一緒にいようとしてくれたとき、それを突っぱねたくはない。もう誰のことも傷つけたくな
そろそろです。別れが近づいています。いつか来ることはわかっていて、はじまりから、いつだって別れはそこにありました。真に純粋なものなどないのかとわかりはじめた頃だったでしょうか。そしてこういうものが本物なのかもしれないと。完全な統一などなく、そこに渋みを感じつつも幾つもの要素が、情感が混濁し渦を巻くものなのだと。 救われた分遠さがありありと感じられ、わたしとの親和性の限界がすぐそこにあることもいつか必要でなくなることも、はじめからわかっていました。それでいて、何度もわたしの手を
ずうっと歳上の方が泣いているところをはじめて見た気がする。どうしてかはわからないけど、次から次にこぼれる涙をしずかに手でぬぐっていて、後でわたしの父の名前がその方のお父さん(旦那さん?)の名前と一緒だと言っていた 別れ際、何度も会釈し合った もう会うことはないでしょう
人の手が好きだ。 その人がかたちを持って生きていて日々生活しているんだとわかる。 人の手をさわるのはもっと好き。 その生きている実感にゼロ距離で触れさせてほしい。爪切り過ぎてさぁ。ここ昔ケガしちゃって。そんなことを、日々生活している手に触れている間に教えてほしい。 手をぎゅっとにぎって腕も肩もくっついているとき、自分より少しだけ大きな岩陰に隠れている感じがする。 ぎゅうっと抱きついているときもそう。 切実なくらい抱きついて肩に顔を埋めているとき。全身でその人がここにいる
純粋な時期はとうに過ぎ 抱えるのは不純、不純 ちらつく黒い気もちを目の隅に 刃を振り回して好き好き好き 世界は薔薇色にはならなかった いろんな絵の具を混ぜたマーブル 混ざりきらないままマーブル 遠い追憶からしか語れない でもひとたび会えば追体験 蘇る感覚には「過去」のラベルが 心身の繋縛 、操られるわワンツースリー 下手に踊ってみせましょう 歪んだ心に映るぎらつきは 少し色褪せたみたい ごめんね君は思い出の中 薄まらないよう 遠目で黙って追憶するのは さながら死者の影を
霞立つ春の日に 頬を撫でていく微風に連れられて 遠くから光がやって来る 光はあの日のままそこにある あれはいつだったか どんな光だったか 夢だったか 手を伸ばし続けて 触れたかと思えばするすると解け また向こうに浮かんでいる 白く霞んだその向こうに 風が鼻腔を撫でていく どこかで触れた光の気配が揺れ それは見つめようとするほど朧げになり ぜったいに触れられないままそこにある 瞑った目に熱を溜め 零れそうなかけらを一筋にあずけて目を開く はっきり輪郭のある世界に 微かな
春は歩き出すと帰れなくなる。
とりあえず急がなきゃ急がなきゃいそがなきゃ いそげいそげいそげいそげ いそげいそげいそげいそげいそげいそげ やばい やばいやばい間に合わない どうしようどうしようまにあわない どうしようどうしよう いそげいそげいそげいそがんと なにかを追っているような なにかから逃げているような そんな気もするしどっちでもない気もする ただただいそがなきゃ、という脅迫めいた思いにだけ押されてその他のことはなにも考えられず半泣きで走っているような、その場で必死に焦っているだけのような そ
あんなに輝いてみえたものたちは 近づくと輝きを失って 通り過ぎた風を感じて空をみつめる 理想を熱烈に追うのなんてきらいだ、きらいだ なのに辞められない 自分の外にあるものを 自分にはないものを目の隅で追い続けてきた そんな自分を恥じて斬り殺そうとして 切り落としてはまた出てくる芽を放置して 手に入りそうになくて恥じてまた切り落として と思ったら手に刃は持っていなくて ただ手で捻り切ろうとしていただけで まだまだ生きていて ならいっそ真っ直ぐ伸ばせばいいなんて、もう言えない
たまにうずくまって 泣いて 笑って 喜んで でもあるときは なにも苦しくない 悲しくない 楽しくない うれしくない すうっと遠ざかる あると思っていたものたちが気づいたらいない その残像がおぼろげで あれは自分のもとにあったものかどうかと思う あそこには確かにあったと思うんだ これすら幻か ほんとうは薄々わかっている 今ここになにがあるのか まさぐるゆびにはなにも触れない なにも、なんてあるのかと あるなしで考えること自体、かもしれない 大した問題でもなくて でもなに
これ、ぜんぶぜんぶ宝石なんだよ。 ねぇわかる? ほんとにぜんぶだよ ここもあそこも、ずっと向こうも 終わりがなくてさ、 こころがうんと広がったり縮こまったりするの どうしたらいいか、わからないよ きらきら光って 、さ ほんとう? ほんとうって、なんだろう とってもきれいだね ふれられないね 帰れなくなっちゃうね ねぇ
冬のうちは記憶が霞んでた 半そでの季節が来たようで 心がぱちぱちはずんでる まだ空は暗くなりきってない ベランダに出て 風を感じてみたくて 頭を振ってみたり 身を乗り出してみたり 紺色の空に 人の明かりがにじんでる ぼんやりと かすんで、やさしい おふろあがりに 半そでを着るのがうれしいの
いつの世も苦しく いつの世も美しく いつの世も洋々と いつの世も流れゆく そこにはいつも輝きがあった 落ちては二度と上がれない溝があった 涙の出ない哀しみがあった 言葉のぬくもりが あたためきれない寒さが 共鳴の音が 人里の孤独が 深い祈りがあった 今日か昨日か十年前か 足元おぼつかなく気がつけば 流れ流され泳ぎ溺れ 水面に浮かべば 目のつぶれそうな光にまた来る波 耐え難い苦しみがここにあるから 雲間の光がまぶしいから やはり 生きていかねばならぬと
リボンを持った子がひとり 広い野原を公園を まんまるおめめで 吸い込んだ リボンを持った子がひとり もういいよ もういいよって繰り返し ざあざあ雨に飛び出した リボンを持った子がひとり たゆたう綿毛をつかもうと 風をのぼって落っこちた 飽かずぽかんと 風をみつめて リボンを持った子がひとり へたくそちょうちょをそっと撫で 風をあつめて駆けてった どこまでも どこまでも 駆けてった
そんなに降るなら わたしごと 埋めてくれはしないか その大きなしずけさに 溶けさせてくれないか 大きく深い生の真ん中で しんしん音に満たされて 生死を吸い込み 溶け合って わたしもそこにいれてください 声が聞こえたような 聞こう聞きたいとおもっているのです きこえるはずだとおもうのに もうそろそろ、 雪の消える前に 春に約束をしたのだった
指で挟んで 強めに引っ張る 長く出た毛 抜いた毛は どこにも紛れられず 居場所をなくした顔をして 地に足つかず 切ればいいのに と言われた 切れば すぐに切ったところは わからなくなるだろう それも怖くって やっぱり抜いてしまうのです この積み重ねで だんだんほどけていくのでしょうか 取り返しのつかないことに 手を懸けたかと思う 思っては抜き、思っては やっぱり抜く