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売上が伸びないのはなぜ?→『ボトルネック』を徹底活用せよ! ~ストーリーで学ぶ、ビジネスに役立つ問題解決プロセス➁~

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティング(GSC)の但田(たじた)です。今回の「ストーリーで学ぶ、ビジネスに役立つ問題プロセス」シリーズでは、私たちがコンサルティングの場面で行っている会話のリアルイメージをお伝えし、「問題解決に向けたアプローチ」の実際をご紹介していきます。


イントロダクション

売上を決める『ボトルネック』とは?

さて、前回のシリーズ1回目では、関係者を巻き込むために「問題をちゃんと言葉にする」プロセスについて、会話形式でお伝えしました。
そして、会話を通じて自分たちの問題は「新規のお客様の数が増えない」ことだと気付いたワタナベ営業本部長に、宿題が2つ出されました。

■ ワタナベ本部長に課せられた宿題
1.『ボトルネック(制約)』が何かを見付ける
2.『ボトルネック(制約)を活用できているかどうか』を考えてくる

前回の対話のなかで、ボトルネック(制約)は「パフォーマンスの上限を制限しているもので、実体があるもの」と説明されていました。これだけだとイメージしにくいかもしれないので、具体例でご紹介しておきます。

”飲食店”でイメージする『ボトルネック(制約)』

ボトルネックは、仕事の「流れ」を良くして、もっとうまく儲けるために、とても大切な着眼点です。イメージしやすい飲食店の例で考えてみましょう。

飲食店「Aカフェ」は、パンケーキの専門店です。3段重ねのパンケーキはもっちりした食感が人気で、甘いパンケーキだけでなく、サラダやチーズと合わせた、食事向けのパンケーキも人気があります。

Aカフェは公園に面したオープンテラスのお店で、オフィス街からも近く、テイクアウトも提供しています。持ち帰りやすいようにクリームを別添えにしているのも好評で、お昼時にはオフィスや公園で食べるためにテイクアウトするお客様も多いです。

ただし、カフェ自慢の美味しいパンケーキをじっくり焼き上げるのに20分掛かります。簡単にまとめると、パンケーキをお客様に出すまでの、Aカフェの仕事の流れは次の通りです。

■ Aカフェでパンケーキを提供するまでの仕事の流れ
① パンケーキの生地を作っておく
➁ パンケーキに追加する材料や果物を用意しておく
③ パンケーキをフライパンで焼く ☆ボトルネック☆
④ お皿に盛りつけて、お客様に提供する

①と➁は、注文が入る前に準備しておくことができます。また、④の盛り付けは1分もあればできるので、焼きあがったパンケーキはすぐにお客様に出すことができます。ただし、③のパンケーキを焼く時には、1人分3枚を焼くのに20分かかりますし、コンロは3つしかありません。つまり20分の間に、作れるパンケーキは3人前だけです。

このケースでは、「パフォーマンスの上限を制限しているもので、実体があるもの」は、コンロだと考えられます。つまり、このAカフェのボトルネック(制約)はパンケーキを焼くための設備(コンロ)です。

Aカフェは、スイーツだけでなく、食事利用でも人気がありますが、多くの会社のお昼休みの12時~13時の間で、パンケーキは9人分しか作れません。せっかくお昼時に来店するお客様が数十人いても、皆さん、焼きあがるまでの見込時間を伝えると、他の店に行ってしまいます。つまり、Aカフェの売上(パフォーマンスの上限)は、コンロというボトルネック(制約)によって制限されてしまっています。

ちなみに「ボトルネック」という言葉は、ワインボトルなどの瓶(ボトル)の首(ネック)の部分に由来します。ボトルのネックは胴体よりも細く、そこから一度に流せる量は、ネックの太さによって決まるからです。

もしも『ボトルネック(制約)』をもっと上手に活用できたなら

もしも何かの工夫をして、焼きあがるまでの20分間を半分に減らすことができたら、お昼時のAカフェの売上は倍になるはずです。このように、流れに沿って仕事を進めている場合、ボトルネックがどこかを見付けて、ボトルネックを徹底的に活用する工夫をすることは、売上増加に直結する大事なポイントになるのです。

ちなみに、Aカフェの状態で、生地の仕込を工夫して、もっとたくさんのパンケーキの生地を用意できたとしても、結局は、コンロの前に、焼くのを待っているパンケーキ生地が渋滞するだけ、ということになります。これでは売上増加にとって意味が無いだけでなく、「キッチンの動線が悪くなり、余計に効率が悪化する」とか、「仕込みすぎた生地が廃棄になる」など、逆効果になることも少なくありません。

このため、「みんな頑張れ」と言って、すべてのプロセスを同じように改善しようとするのではなく、ボトルネックを集中的に改善した方が、売上に直結する成果が得られます。

ボトルネックは工場やレストランだけでなく、デスクワークにも存在する

さて、このようにボトルネック(制約)について説明すると、ボトルネックは機械や設備の話なのかな?とお感じになるかもしれません。しかし、仕事を「分業」していれば、ボトルネックが「人」であることもよくあります。

たとえば、いくつかの担当者を経由して書類の手続きが完了する、という時に、途中の担当者のところで書類が山積みになっていて、なかなか仕事が進まない、という経験をされた方も多いでしょう。

製造業の会社に行くと、製品の設計を担当するエンジニアが忙しすぎて、設計の工程で仕事が止まっている、という状況が割とよくあります。この場合は、ボトルネックは設計エンジニアの時間、と考えられます。

このように、仕事が発生してから完成するまでの「流れ」に着目し、ボトルネック、つまり、仕事の流れを渋滞させているのはどこかを見付けて、ボトルネックを集中的に改善をするというのは、とても役に立つ着眼点です。

ストーリーで学ぶ問題解決プロセス➁『ボトルネック』を見付けて、その活用状況を調べる

さて、前置きが長くなりましたが、ここからは前回の続き、ストーリー仕立てでお伝えします。このストーリーは、GSCの渡辺薫が作成しています。なお、前回の記事が気になる方は、こちらからご覧いただけます。

ストーリーの登場人物とあらすじ

■登場人物(仮名)
✔ ワタナベ(以下、ワタナ)…BtoB(法人向け)製造業の営業本部長。営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入したい。
✔ タジタ(以下、タジ)…ワタナと同じ会社の経営企画室に所属し、様々な改革活動でファシリテーションを手伝っている。
■あらすじ
ワタナは営業力強化のために、営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入しようと考えています。が、なかなか根回しがうまくいかず、一人で考えていても展望が開けません。そこで、社内の改革活動で活躍していて、趣味のサークルの仲間でもあるタジに相談することにしました。
■ストーリーのポイント
今回のお話は「DX」を題材にしています。DXとは「デジタル技術を活用してビジネスを改革すること」です。ビジネスを改革することが目的で、デジタル技術はそのための手段です。ですが、改革を検討するなかで、いつのまにかデジタル技術を導入することがゴールになってしまう「手段の目的化」が起きてしまうことがあります。問題解決アプローチを使うことで、手段の目的化に陥らずに、関係者の合意が得られる変革の道筋を描くことができます。

ストーリー作成 GSC 渡辺薫

1.前回のおさらい: 「問題をちゃんと言葉にする」大切さ

ワタナ:タジ、この前はありがとう、本当に助かったよ。「手段の目的化は良くない」って分かってたつもりだし、部下にもそう教えてるつもりだった。それでも、自分で考えているうちに、ついやってしまうんだよね。

この前の相談を通して気が付いたことがある。自分のことになるとつい、かっこつけた、大きな表現をしちゃうみたいだ。例えば「営業力が弱い」とか。これが課題解決を遅らせる元凶なんだなということが、よくわかった。

タジ:分かります。私も、自分自身の問題になると、あいまいな表現でごまかしたくなります。

ワタナ:そこで、タジが教えてくれた二つの視点…、一つ目は「“望ましくない状態”と、“望ましい状態”が区別できるか」という視点。それから、二つ目は「改善したことが測定できるようにする」という視点。

この視点を自分がファシリテータをする時にも使ってみたんだ。そしたら、堂々巡りばかりしていた議論が、目の前の霧が晴れるように、スッキリしてきた。本当にありがとう。

タジ:さっそく使いこなしてるなんて、渡辺さん、流石です。

ワタナ:とはいえ、僕自身の営業力強化の問題はまだまだこれからだね。

 タジ:そうですね。では、早速今日のテーマに入りましょう。前回の内容はこの通りです。宿題のご準備はいかがですか?

前回の振り返り
■ 営業本部の問題…「新規のお客様の数が増えないこと」
■ ワタナベ本部長に課せられた宿題
1.新規のお客様を増やすというパフォーマンスの上限を決めている制約(ボトルネック)は何か?
2.その制約(ボトルネック)を十分活用できているか、無駄遣いしていないか?

ワタナ:この二週間で、しっかりヒアリング・ディスカッションができたよ。さっそく始めよう。

2.営業本部の「制約(ボトルネック)」とは?

ワタナ:まず、新規のお客様を増やすというパフォーマンスの条件を決めている「制約」なんだが、本部内でいろいろ議論した結果「営業担当者の時間」が制約ではないか、ということになった。これで合っているかな?

 タジ:選んだ制約が正しいかどうかは、基本的には第三者が判断できるものじゃありません。ただひとつだけチェックして欲しいのは、その制約は「物理的な実体があるもの」であることです。
そこさえチェックできたら、あとは、現場の皆さんで議論して、合理的で、皆さんが納得していることであればOKです。

ワタナ:「制約(ボトルネック)は物理的な実体があるもの」って、ちょっと分かりにくいな…。例えば、どういうものだとダメなの?

 タジ:そうですね、ありがちなのは「営業担当者の意欲」とかです。「ヤル気」とかは物理的な実体がないので、制約にすべきではありません。面積や重量、時間など、数量に置き換えられるようなものをイメージすると、考えやすいです。

ワタナ:なるほど、「営業担当者の時間」は物理的な実体があるものだから、チェックポイントはOKだな。それから、「営業担当者の時間が制約」というのは、僕一人で考えたものではなくて、本部内のメンバーとの議論の結果、みんなが納得してくれたものだから、みんなの合意という点でも大丈夫そうだ。

 タジ:では「営業担当者の時間」がパフォーマンスの上限を決めている制約(ボトルネック)である、ということで話を進めましょう。

3.営業本部の「制約(ボトルネック)」は、徹底活用されているのか?

 タジ:では、二つめの宿題です。営業本部では「制約を十分活用できているか、もしくは無駄遣いしていないか?」こちらは、いかがでしたか?

ワタナ:そっちね。これはもう、全然うまく活用できてない。時間の無駄遣いばっかりだ。営業はお客様のところに行くのが仕事なのに、机に向かって長いこと事務作業している。お客様のところに行っても漫然と話をしてるだけで、商談を前に進めることにちゃんと時間を使えてない。なんか愚痴みたいになってきたけど。

 タジ:愚痴みたいな表現で良いですよ。抽象的な表現よりも、生々しい愚痴の方がリアリティがはっきりわかるので、ありがたいです。「机に向かって事務作業をしている時間が長い」「商談を前に進めることにちゃんと時間を使えていない」ということが事実としてあるんですね。それにしても、全然ダメって言っている割には、渡辺さんの声が明るいのは何でですか?

 ワタナ:それはね、議論の中から解決の糸口が見つかったから。「制約(ボトルネック)を徹底活用できているか、無駄遣いしていないか」っていう視点は、本当に役に立つね。

4.営業本部の「制約の徹底活用」を考える

タジ:そうだったんですね。解決の糸口ってどんなことが見付かったんですか?

ワタナ:まず「新規のお客様の獲得が伸び悩んでいる」と言ったけど、全員ができていないわけじゃない。数は少ないんだけど、予算以上に新規のお客様を獲得している営業担当者もいる。

それで、そういう営業担当者が、どういうやり方をしているかっていうと、自分で契約獲得までのプロセスとマイルストーンを設定して、計画的にお客様を訪問していることがわかったんだ。それに、お客様の状況によって商談を打ち切る、つまりあきらめるタイミングもうまい。言ってみれば自分で営業のパイプライン管理をしていたんだ。

この優秀な営業担当者のやり方を見える化して、営業パイプライン管理ソリューションを使って、全員が真似できるようになれば、新規のお客様の獲得を伸ばせるんじゃないか、と気付いたんだ。

 タジ:「営業担当者の時間」という制約を徹底的に活用した事例が社内にあったんですね。だからデジタルソリューションも、ただ営業の進め方を外から買ってくるのではない、ということですね。
「自社の優れた営業担当者の手法を、みんなで実践するために使う道具だ」という考え方であれば、社内の納得も、得られやすくなると思います。

 ワタナ:そう、でも、それだけじゃないんだ。実は、今回導入を検討しているソリューションは、商談の状況をスマホから登録できるし、社内スタッフへの見積書作成依頼とか、事務作業もスマホからできるんだ。これで、机にかじりついての事務作業を減らして、お客様へ行く時間を増やすこともできる。

 タジ:なるほど、「営業担当者の時間」という制約を徹底活用するために、今回のデジタルソリューションを使えば、「自社メンバーの優れた営業手法をマネすること」と、「営業担当者の事務作業時間を削減すること」の両方に効いてくるってことなんですね。いい感じですね!

ワタナ:ということで、優秀な営業担当者の仕事の進め方の見える化を、来週からはじめることにした。本当にありがとう。

タジ:あ、でもちょっと待ってください。優秀な営業担当者の仕事の進め方の見える化に取り組むんだっだら、ご紹介したい考え方が…。あ、でももうお昼休みですね、とりあえず、ランチに行ってからですね! (次回に続く)

今回のまとめ

今回のストーリーでは、前回明らかにした「新規のお客様の数が増えない」という問題を解決するために、営業本部の「制約(ボトルネック)」が何かを明らかにしました。今回は、工場の工程の改善などではなく、営業本部の問題解決でしたので、ワタナベ本部長は、部内のメンバーにヒアリングやディスカッションを重ねて、制約(ボトルネック)は「営業担当者の時間」ということで合意しています。

もしも、制約に着目しないで、漠然と「新規のお客様の数が増えない」という問題の解決策だけをディスカッションしていたら、ひたすら思い付きで解決策を出すことになり、出てきたアイデアの是非を判断することも難しくなっていたことでしょう。

「制約(ボトルネック)を見付けて、徹底活用する」という着眼点を使うと、今回のストーリーのように、メンバーでのディスカッションの焦点を合わせることができ、また、合意形成もしやすくなります。さらに、「制約を徹底活用する」という着眼点があるので、有効な解決策のアイデアが出やすくなります。

今回のストーリーの背後にある考え方

さて、今回ご紹介している「制約(ボトルネック)を見付けて、徹底活用する」という考え方は、TOC(制約理論)という考え方のなかで一番大切な、基本原理と言えるものです。

TOC(制約理論)は、ベストセラーになったビジネス小説『ザ・ゴール』で最初に示された考え方です。3カ月で工場を立て直さなければならなくなった主人公が、ボトルネックを見付けて、鮮やかに問題解決していくストーリーは多くのビジネスパーソンに示唆を与え、著名人が座右の書として挙げることも多い名著です。

工場改善の印象が強い小説『ザ・ゴール』ですが、2020年代の現在も読み継がれ、例えば2019年に出版された、BtoB営業プロセスのバイブルとも言われる、福田康隆氏の書籍『ザ・モデル』にも登場するように、決して、製造業だけに限定した考え方ではありません。今では「ボトルネック」という用語についても、聞いたことがあるという方が多いのではないでしょうか。

今回はシンプルにご紹介していますが、小説『ザ・ゴール』において、「制約(ボトルネック)の徹底活用」には、5つのステップが提示されています。

継続的改善の5ステップ(POOGI= Process Of On-Going Improvement)
1.システムの制約を見つける(Identify)
2.制約を徹底的に活用する(Exploit)
3.その決定にシステムの他の機能が従属する(Subordinate)
4.制約の能力を向上させる(Elevate)
5.惰性に注意してステップ1に戻る(Inertia)

今回のストーリーとつながるところだけ説明しておくと、「制約(ボトルネック)」を活用していくに当たっては、まずは「制約の能力を100%」使えるようにする(徹底活用する)ステップがあり、さらにその先に、「制約の能力を向上させる」というステップがあります。

冒頭で例示したパンケーキのAカフェに例えると、ボトルネックになっている「3つのコンロ」が休むことなくフル活用できるようにすることが、「制約の徹底活用」です。コンロがフル活用されると、1時間で20分×3回、3つのコンロで9人分のパンケーキを焼くことができます。

けれども実際は、コンロが空いているのに、他の作業をしている時間が生じたりして、1時間で9人分も作れていないことも良くあります。まずは、コンロを休まずフル活用できるように、オペレーションを見直したりする改善が考えられます。

コンロをフル活用しても、まだまだ需要に対する、供給能力が足りないのであれば、お金をかけてコンロを増設するなどの「制約の能力の向上」というステップが出てきます。

この「制約(ボトルネック)」に注目した改善のステップ「継続的改善の5ステップ」は、とても役に立つ考え方なので、ぜひ参考にしてみてください。また、5ステップについて詳しく知りたい場合は、以下の記事もご覧ください!

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