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【ザ・会社改造編7:シナリオを描く】
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本マガジンでは、本noteの最初に出てきた健が登場します。元々工場の課長だった健は本社に異動し、新規事業部長となり2年が経ちました。そして今回、既存事業の関連子会社に社長として出向するようになります。内示は本社副社長の哲也からです。 健の出向する子会社は、近年の中国競合企業による市場の価格破壊からシェアの激減・業績不振が続いているようです。健のミッションはその事業の立て直しと長期的な成長です。そのため出向前に哲也から三枝匡氏の「ザ・会社改造~340人からグローバル1万人企業へ~」解説してもらいます。今回は第二章「事業部組織に「戦略思考」を吹き込む」の後半を解説します。
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◆問題の把握
🧒;おはようございます。
👨🦳;おはよう。今日は、ここまで戦略に関して三枝さんからダメだしされていた。FA事業部のリーダーがどう戦略を描いていったか解説していこう。
🧒:よろしくお願いします。
👨🦳;前回の最後に、リーダーの長尾さんは自分で道具・フレームワークを身に着けなければならないと気づいた。そして三枝さんの「V字回復の経営」を読んだんだ。そして、その中からヒントを得て実践することになる。まさに理論と実践を実行したんだな。
🧒:すばらしい。
👨🦳;そのV字回復の経営の中では、最初に徹底的な<現実直視>をしていた。それと同様に、長尾さんはチームメンバーに対して、「原点に戻って、自分たちは何がわかっていないのか書き出そう。テーマは、「ユーザー」、「ミスミ」、「コスト」、「競合」、「商品開発」、「協力メーカー」だ。といって、ブレストを行ったんだ。そのブレストを行っていくうちに問題のくくり方が、「商品開発」、「協力メーカー」「顧客の開拓」、「商品別の利益性」「市場と成長性」「サプライチェーン」の6項目となった。だが、ここでも長尾さんはこの先どう進めていくべきかは見えていなかったという。
🧒;なるほど。まず現実直視、問題点の見える化ということなのですね。ただ、その後どうすかはまだ見えていないと。そういうものなのですね。
👨🦳:そこから考え抜くってことだね。長尾さんはまだ、本質の問題が見えていない気がしていて考える。そして、昼夜問わず考えているなかで気づく。「これらの現象は目標を持たずに行動してきたことで起きている。」とね。
🧒;でも、すみません。。ちょっとそれって改善で言う対策ジャンプというか、、問題を並べて考えて、本質は「目標設定だ!」っていうのはちょっと論理が飛躍するように聞こえますね。
👨🦳;そうかもしれない。でも、三枝さんは、「問題のボトムに迫る」「混沌を単純化し、抽象化する」といったリーダー思考は、必ずこのような飛躍した気づきによって前進すると言っている。
🧒:そうなのですか。これは、製造や技術系の人は理解しにくい発想かもしれませんね。
👨🦳;その通りだ。日本企業の技術系の管理者のほとんどがそうなんじゃないか。あのデータ、このデータ、根拠は?論理が飛躍しているんじゃないか?って決めごとのようにいう場合は注意が必要だね。まあバランスなんだがな。確かになんのデータもなくて決めるなんてできないから。まあ、話を戻そう、そして、長尾さんは下記の図を作り、皆に説明した。この問題が放置されていたのは事業部長である自分の責任であるということも含めてね。
経営者の謎解き 個に迫る
《 1枚目》の原因整理では、《個に迫る》ことによって問題を《自分の手に負える大きさ》にまで分解すると、ようやく具体的な反省が起きる。大分類や中分類の合計で論じるのではなく、個々の商品や顧客、社員、行動(アクティビティー)などに迫り、「なぜ」を繰り返す。謎解きは「しつこく迫る」ことが必須だ。
🧒;なるほどです。それと自分の責任だというポイントは面白いですね。心理的安全性編でやった「弱みを見せるリーダー」というところに結びつく気がします。
◆ABC導入
👨🦳;そうだな。そして、その上でまず長尾さんは、「商品ごとの利益がわからないと戦略なんて見えてこない」と考える。そして、三枝さんに相談をすると、「いいね。間違っていない。だけどその商品別損益をどうやって計算するの?商品別の最終損益って簡単には計算できることじゃないよ」とね。
🧒;私もそう思いました。経費を、売上高や原価の比率え配布するという簡単なやり方では、戦略判断を間違えますよね。どう配布するかはすごく奥深いです。
👨🦳;そう。そこで、三枝さんはABC(Activity Based Costing 活動基準原価計算)という原価計算一つの手法を提案するんだ。(下記参照)
🧒;なるほど。過去勉強したことがあります。顧客の注文を受けた時点から、顧客に届くまでの全プロセスで受注処理や発注業務、配送での集荷・出荷、その後の物流、クレーム処理などすべてのコストのかかり方を調べて、ここの商品の収益性を算出していくんですよね。もちろん製造工程を持っていたら、製造の難しさや手間の違いも考慮してコスト算出しなければならない。これを調べて完全なものにしていくのはだいぶ力がいります。
👨🦳;その通り。だが、相当な苦難を乗り越え、長尾さんたちはABCプロジェクトを完遂させるんだ。(ABCについては、独立した戦略テーマとして第三章にて解説を行う。)
🧒:ABCを環椎させるというのはすごいですね・・。ただ、その後どうすかですね。
◆戦いのシナリオを描く
👨🦳:その通りだ。ABCを終えただけれでは、戦略として何が問題なのか具体的なうち手は何かといった疑問は何も見えない。引き続きABCも終えた後もなかなか的を得た戦略を見いだせなったのが実際だそうだ。ABCをしたうえでも「競合との勝ち負け」が判断できる戦略ではなかった。
経営者の謎解き 戦略とは
戦略とは何か。その定義を問われたら三枝はこう言う。戦略とは、 ①「戦場・敵」の動きを、 ②「俯瞰」し、 ③自分の「強み弱み」から、 ④「勝負のカギ」と、 ⑤「選択肢」を見極め、 ⑥「リスクバランス」を図りつつ、 ⑦「絞りと集中」によって、 ⑧所定の「時間軸」内で勝ち戦を収めるための、 ⑨「ロジック」である。そして、 ⑩その戦略の「実行手順」を、 ⑪「長期シナリオ」として、 ⑫「組織内に示すもの」である。まだ実行していないことを描く戦略は常に「仮説」であり、その良し悪し(勝ち戦の可能性が高いか低いか)を判断する決め手は「論理(ロジック)の強さ」である。
🧒:なかなか難しいですね。三枝さんはどのように方向性を示したのでしょうか?
👨🦳:PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)を教えたんだ。
🧒:PPMって経営の教科書に載っているものですよね。実際に使えるのですかね?
👨🦳:三枝さん最も重要な考え方、そして実践できるツールであると言っている。彼自身使い倒してきたとね。実際に下記をミスミ社内の戦略研修講座で魅せているという。
これを使って長尾さんもPPMを作成していった。
🧒:なるほど。実践していくものなのですね。
◆経営リテラシーが生んだ変化
👨🦳:もちろんそうだ。そして、FA事業部初のPPMが完成した。そこで、大きな変化が起きたという。三枝さんとの会話が始まったというんだ。
🧒:おお、、会話。具体的どんな内容だったのでしょうか?
👨🦳;“負けゾーンにいる商品が多いので、撤退を検討したほうがいい”とか、“シナジーはPPMでは見ることができないからこれだけで決めないほうがいい”、“負けゾーンに来たと言って負けではない場合がある。”“創造ボックスにもたくさんの商品群があるからここは伸ばすことを検討する”など三枝さんからコメントされ、それに対して長尾さんも回答をどんどんしていく。
🧒:なるほど。これまでは大人と子供のような会話だったのが、大人同士の会話、いや経営者同士の会話になっていったのですね。つまり、ABCで事実をつかみ、PMMで戦略や思考を見える化する。フレームワークを持っていない限りできないことでしたね。なるほど、このPPMを使えば三枝さんとも会話ができて、FA事業部の戦略商品を決めることができるということですね。
👨🦳;そう思いたいが、まだ足りないんだ。
🧒:え?
👨🦳:長尾さんがこれでいけそうだと思ったとき、三枝さんはもう一度質問をする。「聞くけどさ、そもそもミスミの商品が市場で「勝ち戦」をしていく場合、その原動力となる「ミスミの強さ」とは一体何なんだ?お客様はどうしてミスミから買ってくれるの?なぜ、競合相手から買うの?」とね。
🧒:基本的な質問ではありますが、なかなか考えない内容ですね。。でも、買ってくれるということは、ミスミに何かしらの価値があるということですよね。
👨🦳:そうなんだ。ここを何となくではなく、ここを強くすること、そして弱みを減らすことを戦略の課題・方策として整理が出来れば、商品を伸ばすためのうち手となる。そこが戦略を組み立てる上で重要なんだ。そして、ミスミがどんな価値を提供できているかを明確に調査していくことにしたんだ。例えば下記だ。
🧒:なるほどです。これを明確にしていき、活かす方法を考える。そして、PPMの方向性と組み合わせるということですね。
👨🦳:そうだ。この価値のことを「相対顧客メリット」と名付けたようだ。大したことないかもしれないが、こうしてコンセプトを自分たちで作れるということ次第大きな進歩を表しているんだ。
🧒:なるほどです。ただ、ABCもPPMも相対顧客メリットのわかったのですが、そしてこの概念もチャートにしていく戦略を明確化していけばいいのですね。
👨🦳:そうだな。
-PPMの「相対シェア」と「市場成長性」
-<ABC>がもたらす「商品別損益」
-顧客がミスミから受け取る商品・サービスの価値
この三つだ。そして、長尾さんたちはチャートを作成した。その上で商品分析を行、推測数値も使って戦略を描いていかなければならい。そして、経営フォーラムでのプレゼンを迎えることになった。
🧒:これは、三枝さんにとっても決戦の場ですね。社員全員を納得させなければならないですからね。今後の改革に向けての1歩なわけですから。
👨🦳:そうだ。一発目の仕掛け花火といったところだ。
◆全社経営フォーラム
🧒:なるほど。でもプレゼントなるとストーリーの起承転結が必要になりますよね。
👨🦳;そう。そのプレゼンの修正は、三枝さん自ら長尾さんたちと共同して作成したんだ。プレゼンのうまい下手の分かれ目は話し方や書き方でなくロジックなんだけど、その部分の肝をサポートしたんだ。長尾さんの資料は最初三枝さんに指導されたんだ。その後三枝さん自身がその資料をハサミで切っては貼り、また修正するときは切っては貼りという作業を繰り返していったようだ。
🧒;え、社長がそんなことを?
👨🦳:そうなんだ。きっとメンバーはこんなことを社長にさせてしまっては情けないと思っていただろうね。最終的に三枝さんが20枚にわたるカードを作った。そして、後は任せたと言って去っていたそうだ。
🧒:なんとまさに赤ペン先生ですね・・。後は長尾さんたちが自分たちでスライドを最終的なものにしていくと。最後の画竜点睛は部下に任せるということなのですね。
👨🦳:そして、全社経営フォーラムを迎える。地方営業その社員や海外駐在者も全員が招集され、出席者は300人だった(今や1万人だが当時はその程度。この時はだれも1万人になるなんて想像できなかった。)そして、長尾さんがプレゼンしたが、それはミスミの社員が初めて戦略に触れる機会だったんだ。そして、多くの社員が衝撃的な内容だと受け止めたそうだ。そして会社が変わっていくことを強く感じだと三枝さんは言っている。ちなみに下記の図表を長尾さんは使った。
🧒;なるほど。プレゼンは成功したというわけですね。その後の戦略実行の結果はどうだったのでしょうか?
👨🦳:ああ。そうだ、そして、FA事業戦略が実行されて、翌年度には早朝依頼ミスミのカンバン事業だった金型事業の売上高を4半期ベースで追い抜き、その後差を広げていった。5年後に410億円という当初の目標を上回る国内売上高447億円という数字になったそうだ。そして国際戦略に沿って海外売上高も伸ばした。最終的に長尾さんが事業部長に就任して13年目にはグローバル連結で、1100億円を超えたのだ。
🧒:一発目の花火は大成功だったということですね。
👨🦳:戦略の話なんてどこでも聞くと思う。ここで伝えたいのは考え抜くという重要性だ。ABCだって大変だし、PPMを考えるのだって大変、さらに価値も考え、そしてシンプルにまとめるのも大変。ここまでやり切れるか。そしてそれを実行することだって並大抵の努力じゃない。要するに一朝一夕にはできないんだ。戦略立案というのは簡単なことではないけど、考え抜いてやらなければいけない。それをわかってほしい。
🧒;わかりました。ありがとうございます。
👨🦳:では、これで2章は終わりだ。次回から第3章「戦略のご判断を生む「原価システム」を正す」を解説していくよ。ABCの説明も入る。
🧒;よろしくお願いします!
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今回は、第二章の後半を解説しました。指導しながら、じっくり粘って考え抜いてもらう、そこを我慢してサポートするリーダーの姿勢が見て取れた章だったかと思います。そして、当事者が考え抜いてその上でシンプルにしいくという過程もわかったかと思います。その方法として、ABC、PPM、相対顧客メリットがありましたね。さて、次回は、第三章の前半に入っていきます。ABCの解説も入ってきます。ぜひ、スキ・フォローよろしくお願いします。
なお、下記の固定記事に、このnoteのコンセプト、これまでのマガジンについて解説しています。
番外編マガジンもあります。是非覗いてみてください💁♂️
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