見出し画像

【ザ・会社改造編11:経営統合で業態革新〜そりゃ、いろんな壁ありますよ〜】

本マガジンのこれまでの投稿は上記リンクに入っています。

本マガジンでは、本noteの最初に出てきた健が登場します。元々工場の課長だった健は本社に異動し、新規事業部長となり2年が経ちました。そして今回、既存事業の関連子会社に社長として出向するようになります。内示は本社副社長の哲也からです。 健の出向する子会社は、近年の中国競合企業による市場の価格破壊からシェアの激減・業績不振が続いているようです。健のミッションはその事業の立て直しと長期的な成長です。そのため出向前に哲也から三枝匡氏の「ザ・会社改造~340人からグローバル1万人企業へ~」解説してもらいます。今回は第5章の「買収を仕掛けて業態革新を図る」を解説します。

・・・・・・・

👨‍🦳;おはよう。

🧒‍;おはようございます。本日は5章になりますね。

◆衝撃の経営統合

👨‍🦳;ああ、そうだ。5章のタイトルは「買収を仕掛けて業態革新を図る」だ。ミスミが駿河精機と経営統合していくものがたりが記載されているんだ。三枝さん社長就任から2年4か月後にミスミは臨時取締役会を開いて、統合を承認した。

🧒‍;中国プロジェクトが立ち上がってすぐということですね。ものすごいスピードでの仕掛け方ですね。しかし、なぜ経営統合をしたのでしょうか?規模の拡大でしょうか?

👨‍🦳;そこが結構興味深いんだよね。まず、規模の拡大ではない。実際、当時のミスミの売り上げは、815億、駿河精機が139億。前年度の売り上げの伸び率もミスミのほうが高い。そして、駿河精機は何を隠そう、いくつかあるうちの協力メーカーの一つであり駿河電機の60%の売り上げはミスミへの納入なんだ。

🧒‍;ということは、統合したとしても50置く程度しか規模には影響しないということですね。そりゃ規模の拡大が目的ではないですね。では、何が目的だったのでしょうか?

👨‍🦳;中国の経験を踏まえて下記の懸念点を見出していた。

・ミスミが「短納期、 1個流し」の生産を協力メーカー群に 100%依存し続けるなら、中国から先の世界展開では体制が整わず、行き詰まりが見えている。

・ミスミと協力メーカーは微妙な緊張関係にあり、ミスミの迅速な戦略展開には無理がある。

・ミスミの社員がもっと「生産」に馴染まないと、ビジネスプロセス改革や生産戦略を熱心に推進する企業にはなれない。

・《創る、作る、売る》のトータルで事業をとらえる世界的な「事業革新のメガトレンド」からすると、「生産」へのコントロールを欠いていることが、企業としての大きな欠陥となる可能性が高い。

🧒‍;やはり、協力メーカーと商社の緊張関係というのは、ミスミでも起こりえるのですね。あるあるなのですね。なるほど。協力メーカをマネジメントしながらの更なる世界展開は非常に難しい。体制が整うにも時間がかかりすぎてしまう。そしてなにより、生産自体をミスミが持っていないと迅速な対応もできないし、今後のトレンドにも乗り遅れてしまうということですね。

👨‍🦳;その通りだ。だが、この経営統合というのは非常に大きい歴史的な意味を持っていた。ビジネス自体の転換ともいえる。商社からメーカーになるということだ。そこでは大きな判断が必要であった。三枝さんは、単純にメーカになるということではなく、今後ミスミが自分で生産技術を磨く「鍛錬場」が欲しいと考えのだ。要するにものづくりを自分たちで成長させることができる場が必要だったんだ。そうして、メーカー買収に向けて三枝さんは動き出す。

🧒‍;なるほど。大きな意思決定はした。そしてどう進めるかということですね。何せ相手があることですからね。

👨‍🦳;買収を仕掛ける方針は、経営企画長だけに打ち明け検討を始めた。社長就任から1年3か月後だ。中国ビジネスを立ち上げるのと並行してこれをやっていたことになるね。買収候補先として、駿河精機の名前は常に挙げられていた。なぜならばミスミと30年近い取引実績があり、ミスミQTCモデルの回し方を十分に理解しているからだ。

🧒‍;ただ、海外戦略前提ですよね。駿河精機は海外の経験はあったのでしょうか?

👨‍🦳;ああ、あったんだよ。ベトナム、中国、アメリカに小さな工場を持っていたんだ。

🧒‍;なるほど、それは確かに統合にはもってこいですね。でも、どう話を持ち掛けるか。

👨‍🦳;そうだな。だが、まずは当たって砕けろということで、駿河精機を狙いに定め、浜川昭雄社長に連絡をとり、料亭で会食を行ったんだ。そこで、買収の意思を明かす、包み隠さず上述の理由を話した。

🧒‍;で、どうなったのでしょうか?

👨‍🦳;意外な返事が返ってきた。「お考えは理解できます。よいのではないでしょうか。ただ一つ条件があります。買収という印象を社員や世間に与えることは避けたいと思います。経営統合という形なら話は可能だと思います。子会社でなく両立で並ぶような形を希望します。」とね。

🧒‍;そんな良い回答がいきなり得られたのですね。経営統合でも三枝さんは目的が達成されるのであれば問題ないはずです。でも、ほかの駿河精機の役員が反対するかもしれませんね。通常受け入れにくい話かと思います。

👨‍🦳;そこで、浜川社長は「まあ、そうなるかもしれませんが、最終的には私がまとめますよ。」といったんだ。だが、それを社内に伝えた際は、快く思わない人もいたとのことだ。そして、様々な意見もありながらトップの合意があり、最終的に経営統合は三枝さんの思惑通りに実現した。最初の会合から11か月後、それぞれの社内で経営統合の発表が行われたんだ。ミスミは、ミスミグループ本社という名前になり、社長は三枝さん、副社長が浜川さんという布陣だった。(最終的に2005年に完全子会社している。)

◆経営統合の壁

🧒‍;そして、一気に文化融合するように三枝さんはマネジメントしていったのでしょうか?

👨‍🦳;いや、ちがう、経営統合が行われてても、大きな変化を拙速には求めるつもりはなかったそうだ。やはり、元々協力していたとはいえ、緊張関係を保っていた両社の社員は複雑な感情を持っている。会社の規模が小さく商売上の力関係も弱い駿河精機のほうがその感情は強かったという。

🧒‍;確かにわかります。なんだよって感じにはなります。

👨‍🦳;そうだな。まずは、時間をかけてその関係をやわらげ、両者の融合を実現することが最優先と三枝さんは言う。PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、買収後の統合)を90位置で完了させるという話を聞いたことがあるかもしれないが、短期的な統合は現実味がない。私もそう思う。

🧒‍;なるほど。

👨‍🦳;それでも、取締役会でも一触即発な状態も起きていた。初めての経営会議が開かれたとき、両者の幹部が一堂に会する第一回目の会議があったそうだ。その時、最初のミスミからの議案での質疑に入ったとき、真っ先に駿河精機の執行役員の一人が手を上げ、「ミスミはレベルが低い」と見下すような質問を行ったそうだ。

🧒‍;それは、まずい雰囲気ですね。世界戦略を進めていこうって時に内輪もめしている場合じゃないですからね。こんな時リーダーの発現が重要になりますね。三枝さんはどうしたのでしょうか?

👨‍🦳;それが三枝さんのすごいところで、一言、低く太い声で「ちょっと待った。君・・ここにケンカを売りに来たのか」といったんだ。そうしたら、その役員は目線を下げる。そこにかぶせるように、落ち着いた声で「力を合わせてこれから頑張ろうという出発の場だ・・。建設的にやろうじゃないか」といってその場を収めたんだ。ここで、はっきりと止められるリーダーでないといけない。駿河精機とミスミがお互いに意気のあった会社になるまで今後どれほどの時間がかかるか、それは経営者としての腕が問われたんだ。

🧒‍;そうですね。そこには将来の国際戦略の成否がかかっていますね。

◆駿河精機の社長交代

👨‍🦳;ああ、このころ、三枝さんは何かと理由をつけて駿河精機の本社がある静岡に頻繁に通い始めていた。最初はお客さん扱いだったそうで、離れた場所にある応接室に通され、社員と自由に接することもできなかったそうだ。

🧒‍;それだけ、まだ拒絶反応があったということですかね。

👨‍🦳;それはわからないが、三枝さんはそれではいけないということで、すぐに社員と同じフロアに部屋を作ってもらい、用がなくても作業服を着て工場内や社内を歩きまわったという。

🧒‍;きっと社員はびっくりしたでしょうね。

👨‍🦳;いや、最初は誰だかわからず、だれ?だれ?という感じだっただろう。そこから社長だよって話になり皆に浸透していったんではないかな。

🧒‍;なるほど。そうやって懐に入っていくわけですね。

👨‍🦳;その後、駿河精機の国際展開は一挙に加速された。ミスミの国際戦略に呼応し、最終加工を行う工場が各国に新設されていく。経営統合が実現した年度には、ベトナム第二工場。対抗上、中国広州工場の立ち上げ、さらには米国工場増設を行った。

🧒‍;ものすごい勢いですね・・。中国を立ち上げた後に統合して、さらに統合した駿河精機が複数国で国際展開とは・・。

👨‍🦳;そうだね。自力では無理と踏んで、そして見事に駿河精機が成し遂げてくれたってことだね。しかし、経営統合から1年が経過したときに予想外の事件が起きた。駿河精機の浜川社長が辞任を申し出てきたというんだ。

🧒‍;どうして・・。処遇に不満でもあったのでしょうか?

👨‍🦳;そうではない。「残りの人跡でやりたいことがほかにある」という理由だったそうだ。

🧒‍;それなら仕方ないですね。でも、それも見込んで、統合を受けたのでしょうか・・・。

👨‍🦳;それはわからないし、人生に介入することはできない。でも社長をどうするかだ。そこで、三枝さんが兼務することになったんだ。足しげく静岡に通っていたおかげでそれは静かに受け入れられたようだ。しかし、ここからさらに静岡に行く頻度を上げ、体制一致を目論んだ。その成果もあり、グループの連結決算や情報システムの連携などで、ミスミの部門長が駿河精機の応援に行くなどして、両者の交流がさらに促進されるようになっていったようだ。

🧒‍;改めて、三枝さんが融合を慎重に進めているように見えますね。これが大事なのですね。

👨‍🦳;ああそうだ。三枝さんは5章の最後を下記のように締めくくっているよ。

「「会社改造」とは、リスクを伴う「改革の連鎖」を積み重ね、企業競争力を以前とはまったく違う次元に押し上げようというものだ。とりわけ、会社の「業態革新」は、経営トップの大きな決断を必要とする。また、そこには、戦略上のリスクだけでなく、移行期の「抵抗」や「死の谷」のリスクもある。いまあなたの会社が「業態革新」を狙うとすれば、どんなかたちがありうるだろうか。それによって、あなたは、どんな戦略効果を狙うのか。また、想定するリスクは何か。三枝にとってこれは演習ではなく、彼が経営現場で答えを出すことを迫られたナマの課題である。」

🧒‍;はい。わかりました。

👨‍🦳;今回で5章は終了だ。次回は、この本の本丸の一つである生産改革について話していく。

・・・・・・・・・・・・・・

今回は、ミスミの買収劇の裏側を解説しました。ここでのポイントは、文化の統合を拙速にせずじっくりと丁寧にやっていくということなのですね。これはトップの性格にもよると思いますが、人の歴史や想いというのは、いかに上司や会社が介入してもそう簡単に融合するものではないと私も思っています。そして一方、買収の狙いと実行という意味でのストーリーも勉強になったかと思います。さて、次回は、いよいよミスミに取り入れたトヨタ生産方式の解説です。トヨタ生産に関しては過去マガジンでも解説していますし、実例を確認しながら解説していくのが楽しみです。ぜひ、スキ・フォローお願いします!

なお、下記の固定記事に、このnoteのコンセプト、これまでのマガジンについて解説しています。

番外編マガジンもあります。是非覗いてみてください💁‍♂️

#製造
#理論と実践
#ものづくり
#成長
#5S
#トヨタ生産方式
#ジャストインタイム
#自働化
#リーンプロダクション
#ザゴール
#制約理論
#ドラッガー
#ビジョナリーカンパニー
#アドラー
#コーチング
#情報リテラシー
#要件定義
#会計
#損益計算書
#決算書
#損益分岐点
#原価低減
#平準化
#両利きの経営
#両利きの組織
#心理的安全性
#グーグル
#推薦図書
#システム
#発注側
#会社改造
#事業再生



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集