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11月前半に読んだ本、飲んだコンソメスープ

気温に振り回され、最近は師走がはやくもアップを始めだした。
安息の地は布団のなかぐらいである。冷ややかな指先でページをめくる。

BAR追分/伊吹有喜

先月の流れで、ネガティブ・ケイパビリティ(※1)に関する本を読んでいたなかで、リトリートということばに目がとまる。そして図書館で「リトリート」でタイトル検索したら、出てきたシリーズの第一作目。
(リトリートに関してはBAR追分シリーズの第二巻『オムライス日和』にて登場する)。
わが区の図書館の書名検索は、本の目次も拾ってくれて、思わぬ本との出会いがある。猫にカレーということわざになりそうな表紙の佇まいにも後押しされて手にとった。

※1 結論づけず、モヤモヤした状態で留めておく能力


追分。道が右と左に分かれる場。きっと今が分岐点。
どちらに行こうと、追われるのではなく、自分の意志で選びたい。

BAR追分 p31

新宿三丁目の交差点近くの、ねこみち横丁の奥にあるお店「BAR追分」に出入りしているひとたちの物語。
このお店のたたずまいが、読んでるだけで居心地がよかった。
昼はバール追分として軽食を提供し、夜はバー追分としてお酒を提供しているのだけど、どちらも魅力的なメニューを出しているのだ。たとえば、牛すじカレー温玉乗せとか、C.C.ジンジャーとか。大人のたしなみというか、20代後半ぐらいからそそられる世界がひろがっている。

カレー、黄身、白飯の三層になった部分をスプーンですくって食べると、再び頬がゆるんだ。
牛スジのカレーは、他のカレーにくらべて、スジがとけた分、ルーがぽってりとしてコクがある。そこに黄身が合わさって、深いコクが晴れやかな味わいに広がっていく。

BAR追分 p131

登場するひとたちのやりとりも、軽快な連想ゲームのような会話だったり、時につらさを分かち合い、折り合いをつけたりと、その日常のなかに興味がひかれるものがたくさんあった。
心地よい空間ってのは、そこにいる人で醸し出されるのだなあと思った。
空間つくりを30代のテーマにしているわたしにとってもいいヒントをもらった気がする。



愛のエネルギー家事/加茂谷真紀

引っ越しの準備で、片付けなどしている生活をしている中で、家事への機運が高まっている。しかし準備が長期化してくるとテンションは下がる。そんななか小説家の宇野碧さんがnoteの記事で、家事の本を紹介していたような・・・と思い出した。それが『エネルギー家事 すてきメモ303』だった。それの前作が先に手に入ったのでながめるように読んだ。

購読記事ですが興味のある方はぜひに。宇野さんの著作『キッチンセラピー』も2023年トップクラスでめちゃくちゃ、よかったので今度noteでもう一度咀嚼したい。

掃除や料理、入浴、片付け、買い物といった家事のなかで、加茂谷さんがこころがけていることをまとめた本。

「なんとなく」こそが、もっとも信頼できる感覚です。心のこもった思いというのは目に見えないものです。(中略)24時間のなかで「なんとなくいいな」をどれだけ連打できるか。「なんとなくいいな」の連打が、「すごくいいな」という喜びにたどり着かせてくれます。

愛のエネルギー家事 p16

文章がかがやいていて、家事が文学になるなんてという感動があった。
家事についての本の多くは、テクニック的なものが先行して、置いてかれてぐったりすることがあった(もちろん役立っている技もある)。驚嘆はあっても、なんだか共感がなく目から入ってはウロコとともに抜けていっているような。
しかし、この本は染み入ってきて、寄り添って背中をさすってくれる力を持ち合わせていた。

オーガニックをおすすめする私ですが、「オーガニック刑務所」に入ってはダメだと警告します。オーガニック刑務所とは、「オーガニック以外を食べたら悪いことが起こる」という呪いの檻のことです。オーガニックを理由に自分を隔離することは、オーガニックの恩恵である冴えた直観力を鈍らせます。

愛のエネルギー家事 p100

すばらしいネーミングの連打でうなってばかりだった。



2冊の本に感化されたわたしは、コンソメスープを作ることにした。BAR追分の作中でお通しとして差し出されていて、こんな寒い日にあったまりたくなったのだ。

冷蔵庫から取り出したウインナーと玉ねぎを切って、キャベツは手でちぎって、鍋の中にいれる。油でしばらく炒めてから、醤油で少し焦がす。そして水とコンソメを投入して、煮立つまで待つ。換気扇も調子が悪く、窓も開けたので、なかなか冷えた室内のなかで猫背になる。
湯気とともに、食欲をそそるにおいがやってきた。それだけでもう元気がわいてくる。そういえばかつて就活中にネットカフェでも頼りしていた存在だったなと思い出す。ご無沙汰。

雰囲気を高めるためにデミタスカップにスープをそそぐ。フーフーしながら口にいれる。具材焦がし炒めたことでさらにパンチのあるコンソメになった。落ち着く。「なんとなく」だけど、いつもよりあったまった気がした。

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