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音楽最高◇スティーヴン・キング印のサイコ・スリラー「シークレット ウィンドウ」(2004年アメリカ映画)

「俺の小説を盗んだな」。

突然の訪問客。墓場から来たような南部訛りの忌まわしい男、シューター。

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作家であるモート(ジョニー・デップ)は、妻の不倫の現場を目撃し失意のうちに湖畔の山小屋に引き籠もる。モートは謂われのない突然の盗作疑惑の追求に苛立つ。身の潔白を示すため離婚した妻に連絡を取ろうとするが身体が動かない。

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何者かに飼っていた老犬を惨殺されるに及び行動を起こすモート。作品が盗作ではないと証明できる過去の掲載紙があるはずだ。別荘を出て自宅に戻ると自宅は何者かの放火により全焼してしまう。

すべてが行き詰まり窮地に追い込まれる。身の回りの人間が次々に殺される。すべてあの忌まわしい男シューターの仕業だ。

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スティーヴィン・キングの小説が好きだ。この映画の原作が含まれる「Four Past Midnight」も翻訳が待ち遠しくて、ペーパーバックを買って英文を眺めた。

中編集「Four Past Midnight」は、正体不明の怪物に襲われる「ランゴリアーズ」「秘密の窓、秘密の園」「図書館警察」「サン・ドッグ」の四編で構成されている。短編より分量のあるキング自ら「中編」と呼ぶ言うジャンルだ。

「スタンド・バイ・ミー」「ショーシャンクの空」「ゴールデン・ボーイ」の原作が含まれる「Different Seasons」もこのカテゴリーである。


キングは自作の映画化に寛容で、素晴らしい作品から低予算のしょうもない作品までたくさんある。本人もよく自作の映画に嬉々として出演している。

映画化作品がたくさんありすぎて全部見切れない。マニアの楽しみはつきない。それ以上にキングは小説を発表し続ける。キング自身、交通事故で生死の境をさまよったが、決して衰えを見せない。デッド・ゾーンを見てしまったのかも知れない。

キングの小説は「ホラー」というジャンルになる。ストーリーを言えば、ありふれた馬鹿馬鹿しいネタばかりだ。吸血鬼、超能力者、異星人、幽霊、魔物。

どの作品にもキング独特の「悲しみ」が含まれていて、読者の心を捉えて離さない。

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「Secret Window」も、激しく愛し、それ故に傷ついた悲しみが生み出した物語だ。ジョニー・デップが繊細に演じる主人公の苦しみは想像を超える。結末もあのようでなくてはいけない。

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この映画の最後の場面、モートが、熱い、もぎたて、ゆでたてのとうもろこしを、小さな専用フォークを使って、左右から突き刺して食べるのがいい。ピカピカの笑顔が怖いのだが。あのフォークはアメリカでは普通に売っているのだろうか。

この作品には、いっぱい小ネタが入っている。

管理人の名前「トム・グリーンリーフ」。パトリシア・ハイスミスの小説「リプリー」(「太陽がいっぱい」の原作) その登場人物、リプリーとディッキーの名前を合わせたものだ。トム・リプリーとディッキー・グリーンリーフ。ミステリ好きにはすぐわかるネタ。

モートが、私立探偵に相談に行ったときの会話。「前回のストーカーより始末が悪い」。小説「ミザリー」を暗示している。バーボンの名前「ジャック・ダニエル」。「シャイニング」を思い出す。探偵のデスクにあったタイマーも欲しい。金にうるさいアメリカの弁護士が使う物だという。

そして特筆すべきは音楽。フィリップ・グラスの作品だ。

コンテンポラリー・シリアス・ミュージック(クラシックの分野の「現代音楽」のことです)で、すでに超有名な作曲家だ。40年も前に「ミニマル・ミュージック」といわれるジャンルを形成した天才。昔のピュアーな音楽が熟成して、独特の美しさ厳しさを聞かせてくれる。

俺はこの映画の音楽を聞いて震え上がった。素晴らしい!いまも「フィリップ・グラス・アンサンブル」のレコードを持っている。輸入盤だ。また聞きたくなった。CDはあるのかな?

スティーヴン・キング、ジョニー・デップ、フィリップ・グラスと、俺をこれだけ興奮させる要素満載な映画は珍しい。

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「Secret Wondow」を見て、キングの小説を猛然と読みたくなった。「秘密の窓、秘密の庭」を読み返す。それで気づいたのだがキングの小説は読み続けることが至福なのだ。映画で見た直後なのに、本を読んだ方がイメージがふくらむ。不思議な体験だ。それだけキングの小説は含みが多い。

「秘密の窓。秘密の庭」に興味深い一節がある。まさに俺がキングの小説に感じていることを、作中のモートが言い表している。

「もしかしたらシューターはほんとうの作家なのかもしれない。彼は主要な必須条件をふたつとも具えている。最後まで聞きたいと思わせるような話し上手だ。たとえ結末がどうなるか見当はつくにせよだ。それから口から出まかせのホラ話をきいきいと甲高い声でしゃべりまくる。」(文春文庫「ランゴリアーズ」507ページ小尾芙佐 訳)

誰かに、何読んでるの?と聞かれ、どんな話?と言われて、ストーリィを説明すると困ったことになる。たとえば「ペット・セメタリ」。「インディアンの呪 いが・・・・」。あるいは、「やせる男」。「ジプシーの呪いで、食べても食べても・・・・」。「セイラムズ・ロット(呪われた町)」。「吸血鬼 が・・・・」。

子供も笑う設定を、東京に住んでいる俺が今も夢中になって読みふけるのはなぜか?物語が面白いから?サスペンスがあるから?実はそうではないことに気がついた。

主人公の感じ方、話し方、さまざまな物の名前、比喩、表現、固有名詞の数々に圧倒されながら読み続けることが楽しい。自分だけ特別な能力をもってしま う超能力者の「孤独」と「悲しみ」。人間の血を吸うことによってしか生きていけない吸血鬼の「怒り」と「悲しみ」。最愛の子供を、交通事故で失う「恐怖」 と「悲しみ」。

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饒舌に語られるディテイルこそキングの命だ。細かい部分の積み重ねが、とんでもない物語と登場人物に親近感を抱かせ、読者自身の物語となる。

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'You stole my story,' the man on the doorstep said.

これが冒頭の一文。ここからモートと男の描写がペーパーバックの1ページ分ぎっしりあって、男の次の言葉、'Well,' そのあとやっとモートの台詞、'I don't know you'。

目の色、服装、しわ、髪型の想像(テリー・サラヴァスみたいな禿げ頭)、帽子(クェーカー教徒の帽子みたい)、ボタンの止め方、ジーンズのだぶだぶ具合、靴の色・・・・。描写の限りに、こまかく書き込む、ひとつひとつの表現自体が面白い。これがキングの小説の味わいだ。本人曰く、「ビッグ・マックとフライのラージの文体」。 口語中心で、下品な言葉も擬音もオノマトベもいとわない。

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シューターの原稿にかけてしまった飲み物は原作では「ペプシ」と書かれているのを見るのも楽しい。映画には、マウンテンデューのボトルが出てきた。どの場面だったかな?ダイナーで話しているような場面だった。緑色の日本で見たことのない形のボトルに「Moutain Dew」の緑と赤のロゴが見える。この映画もキングのようなこだわりを持って作られている。

細部こそ楽しい。筋を追うことは二の次。先読みしても意味がない。ミステリではないから。サイコ・スリラーなのだ。モートの視点から見た世界を味わい尽くすのがこの作品の楽しみだ。

ぜひ原作を読んで欲しい。どれだけ映画「Secret Window」が、原作に敬意を払いその世界を忠実に表そうとしたかがよく分かる。

キング作品の映画化は、駄目な作品も多いが、この「Secret Window」は、監督の優秀さと、ジョニー・デップ、ジョン・タトゥーロの演技によって、キングおたくも満足できる作品になっている。

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