「猟奇的な彼女」胸打つラブコメの傑作!(2001年韓国映画)
チョン・ジヒョン(全智賢)演じる「彼女」には名前がない。韓国語の「猟奇」はヨプキと発音するらしい。だから、ヨプキの彼女、と呼ぶ。
この猟奇的な彼女、韓国人の男には評判が悪い。「コピ マショ!(コーヒー飲め!)」と男に言うような女が好きか?と逆に問い返される。「俺の彼女だったら絶対殴る」。
韓国人の男は想像以上にマッチョだ。この映画の中でも「彼女」のお父さんが、一家で力を握っている描写がある。母親がいろいろ言いたくても、父親を差し置いて客である男(キョヌと言う名前だ)に直接話しかけたりすることはない。
酒は目上の人の前では横を向いて飲む。儒教の礼節が生きている。親を大事にし目上を立てる。
男はメンツを重んじる。実質はオモニ(お母さん)が仕切っているのだが、とにかく男を立てる社会なのだ。
そのような国で、「ヨプキ(猟奇的)な彼女」は受けた!!
あんなキャラクターはいままで見たことがない。韓国語の「パンマル(ため口よりもさらに柄が悪い言い回し)」を使って男を振り回す可愛い女の子!
スポーツ万能、ピアノも弾く。やることなすこと自信満々に見える彼女だが、シナリオを書くのが「弱点」だ(笑)
いくつも書いて来るシナリオは、彼女の精神状態そのままに混乱の極みの筋書き。大真面目に映像化されているのが大笑いだ。
なぜ「彼女」が「ヨプキ」な行動をとるのか解らない。何か苦しんでいることが解るけれどその行動は予測できず突拍子もない。
なかなか二人の関係は進まない。そこがまたいい。淡い恋愛の陶酔感が過不足なく描かれる。二人は手を握りあうこともしない。
「こうなるかな?」と言う期待を少しずつ裏切りながら話は進む。
2人の切ない気持ちが迫ってくる。
彼女から「これからお見合いがあるからすぐ来て」と、いきなり言われ、あわてるキョヌ。先に着いて相手の男に彼女のことを話す。彼女が着いたときにはキョヌはいない。
男からキョヌの話した内容を聞かされて、ハッとする彼女。
キョヌぐらい彼女のありのままをわかっている人はいないのだ。
そこからの場面が素晴らしい。「I Believe」のバラードが流れ、2人がすれ違って行く。
地下鉄の駅で彼女らしいやり方で、「キョヌ、キョヌ」と呼びかける場面。胸がいっぱいになり涙なくしては見られません。
そのエピソードのなかで、唯一抱き合う二人。
でも「ヨプキな彼女」は「誰が抱きついていいって言った!」とキョヌにパンチを浴びせる。
殴られてこの上なく嬉しそうなキョヌ♪。泣き笑いが押し寄せてくる素晴らしい場面だ。
チョン・ジヒョン。(全智賢)
この人の姿の美しさに惹かれる。韓国人が好む前髪をたらさない髪型。手足が長く抜群のスタイル。整形が当たり前の韓国芸能界で整形をしていない女優ということでも有名だ。
韓国ではもちろん、香港、上海でもこの映画は大人気だったという。特に韓国の女子に絶大な人気を博し、当時、チョン・ジヒョンはテレビのCMクイーンだった。
相手役のテ・ヒョンも優しく面白いキャラで女子に人気がある。当時知り合いだった韓国人の女子大生が、テ・ヒョンが一番好き♪と目を輝かせていた。
韓国の社会では女子が「ヨプキ」に振る舞うことは絶対のタブーだ。だから大胆で痛快な「ヨプキの彼女」に支持が集まったのだ。
この作品は爽やかなラブ・コメディだ。奔放で大胆な可愛い女の子に振り回されるマッチョではない、お人よしの男子。
<ミヤネ、キョヌ!と山の頂で叫ぶ「彼女」。この場面がいいんだ!>
彼女と別れることになり、硬い約束を結ぶが、その約束もあっけなく破られ、何もない数年が虚しく過ぎ去る。この肩透かしされたようなアンチクライマックスからの結末がまた素晴らしい。
この映画が大好きだ。劇場で三回見た。今回、この記事を書くにあたり少し見てみよう、と思って見始めたら、笑って泣いてやめられなくなり最後まで見てしまった。
古い映画になったが今でも色褪せることのない傑作だ。