第21景 感性で描く:榎木孝明氏の水彩画の世界@Misakiのアート万華鏡
代々木上原のギャラリー『アートスペース・Cuore(クオーレ)』に着いたとき、まるでパリの街角に迷い込んだような気分になった。ギャラリーは洗練され温かな雰囲気が漂っていた。日々のストレスを忘れ、贅沢な時間を楽しめることに心がウキウキしていた。
ギャラリーに入ると、榎木孝明さんご本人がいらっしゃって驚いた。緊張しながらも、榎木さんの優しい笑顔と礼儀正しい接し方に心が温かくなった。心地よい笑顔で来訪者と対話する姿に、アーティストとしての温もりを感じた。他の来客の方との対話にいれていただき、「犬と猫、どちらがお好きですか?」なんて、さりげない会話の中にもあたたかみを感じた。
印象に残った作品たちー2025年榎木孝明水彩画カレンダー“四季こもごも”より
展示されていたのは、2025年榎木孝明水彩画カレンダー『四季こもごも』の原画。筆の跡一つ一つに、榎木さんの楽しそうな様子が生き生きと描かれており、まるでその場に立って絵を描いているかのような感覚に陥った。やはり、本物の原画を直に見ることは良い。絵を描いたときの、画家榎木さんが気の向くまま、自由に描いた瞬間、楽しみながら描いたその空気が感じ取られるからだ。彼は思い立ったら絵筆を持って、旅に出て、絵を描くという話をどこかで読んだことがある。その枠にとらわれない自由な表現に心が躍った。
榎木さんの作品には、どの絵にも鳥が描かれているのも特徴だ。鳥は自由に旅をする象徴。現代社会の制約を超え、自分を解き放つ榎木さん自身の姿が投影されているのかもしれない。
一月の《にぎわいの街角》では、京都の三年阪から八坂の塔に広がる景色と人々の活気が、画面いっぱいに広がっている。そのエネルギーに触れると、大学生だった息子と京都を訪れた懐かしい記憶が蘇り、思わず笑顔になった。人々の動きが、街のエネルギーそのものを表現している。
《地球の伝言》は、濃いコバルトブルーの空に、真っ白な噴煙が力強く立ち昇り、まるで生きている地球の息づかいを感じさせる。これは鹿児島県の桜島を題材にした壮大な一枚。青い空と白い噴煙、そして桜島のふもとに広がる街並みが、自然と人間の共存を静かに語りかけるようだ。噴煙の力強さの中に感じる静けさ――この対比が印象深い。
《高原の風》は福島県の尾瀬の風景だ。季節の高原植物が咲き誇り、燧ケ岳が穏やかに佇む風景。空と水面が重なり合うブルーの美しさが、見る者の心を癒す。桜島とは対照的な様子である。
私が特に好きなのは《水辺の邸宅》。これは福井県の養浩館を描いたもので、かつて福井藩主松平家の別邸だった。養浩館庭園の北西には、動物が座っているように見える岩島がある。榎木さんの画にも岩島が存在感を示している。水面を注意深く見るとういろいろなものがものが映りこんでみえる。建物や、木立や空の色、それらが水面に映るものの風をいかして表情豊かな水の景色になっている。歴史的遺産も楽しめて嬉しい。庭園の気配をこの水彩画から感じた。
榎木さんの水彩画を観て最初に感じたのは、サッパリとした印象の中に濃淡があり、水墨画のようでありながらも、多面的な魅力があるということだ。榎木さんはさまざまな場所を訪れて絵を描かれているので、作品にはその時々の気持ちが生き生きと反映されている。絵に命が宿っているように感じた
榎木氏の芸術哲学
「いい加減は良い加減」。これは榎木さんの著書『もっといい加減なスケッチのすすめ』に込められた、彼の芸術哲学の本質である。技巧や完璧さにとらわれず、感性に従って自由に描くことの大切さを説いている。
この考え方は、現代社会に生きる私たちに、心の解放を促すメッセージのように感じた。型にはまらない自由さ、自分らしさの表現を大切にする姿勢は、絵を描くことに限らず、人生そのものへのヒントとなりそうだ。
現代の何かとストレスフルな社会で生きている私たちに自分を解放してくれる最良の時になることを教えてくれる。
私は絵の観る専で、描くことはしていない。絵を描くこと自体、今は少し敷居が高いと感じていた。そこで、最近、図書館に行って榎木孝明さんの『もっといい加減なスケッチのすすめ』を借りてページをめくって読んでいたのだ。
感性で描く、感性で観る
榎木孝明さんの水彩画は、単なる風景画を超えている。各作品は、描かれた場所の息吹、その瞬間の感情、そして作家の繊細な感性が織り込まれている。山水画を思わせる日本的な奥ゆかしさと、現代的な自由な表現が見事に融合している。日本人のDNAにピッタリとくるものがある。
「最近は現代アートを鑑賞する機会が多くて、どうしてもロジックで絵を解釈しがちなんですが、今日、榎木さんの作品を拝見して、感性でその場のエネルギーを受け止めるという楽しみ方を改めて実感しました」と榎木さんにお話しすると、榎木さんは、静かに微笑みながら、こう話された。「その通りなんです。僕は感性を大事にしています。今の教育だと、どうしてもみんな同じような絵を描くようになりがちですが、もっと自由でいいんですよ。写実的である必要なんてまったくないんです。空を描かなくてもいいし、自分の好きな色で描けばいい。それが絵を描く本来の楽しみ方だと思いますね。」と答えてくださった。
そうだ。最近、美術館やギャラリーを訪れることは、私にとって長年の夢のひとつだった。長い間、子育てや特に次男の療育に追われ、さらには家事と仕事の両立に精いっぱいで、美術鑑賞の時間などとても取れなかったからだ。だからこそ、今はそれらから解放され、自分自身を楽しませること、そして原画が放つエネルギーを感性で受け止めるひとときを大切にしている。
ただ最近は、現代アートを理解しようと方法論や歴史にこだわりすぎて、自分の感性で作品を楽しむことを忘れていた気がする。そんな中で出会った『2025年 榎木孝明水彩画カレンダー 四季こもごも』は、単なるカレンダーではない。一枚一枚に日本各地の風景と榎木氏の感性が溶け込み、私に新たな扉を開いてくれたように感じる。
最後に
カレンダーは榎木孝明オフィシャルサイトにて購入可能。日々の生活に、彼の描く癒しと自由の息吹を。
ぜひカレンダーを購入して、じっくりご覧いただきたい。
購入はこちら:
カレンダーを購入すると、榎木さんは快くサインしてくれた。「お名前は?」と聞かれ、「美咲です」と答えると、丁寧にサインをしてくださり、その後、先客か近所のご友人がツーショットの写真を撮ってくれた。その写真は家宝にするので、公開は控えます。
榎木さんから学んだのは、何より「自分らしさ」を素直に表現する大切さ。絵を描くこと、鑑賞すること、書くこと。それぞれが自分を解放する貴重な時間であり、それが心の豊かさに繋がるのだと感じた。榎木さんの水彩画との出会いは、私にとって心のリフレッシュだけでなく、新しい世界への扉を開いてくれた。感性で描き、感性で感じ取ることの重要さを実感し、これからもさまざまなアートに触れながら、自分自身を豊かに育んでいきたいと強く感じている。