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双葉荘

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心温まる不思議なお話。
運営しているクリエイター

#双葉荘の友人

『双葉荘』を掲載し終えて…

『双葉荘』を掲載し終えて…

『双葉荘』は、実在したテラスハウスで、タイトルの絵の通りの外観でした。
私が30歳前後の頃、横浜の白楽の高台の住宅地で実際に住んでいた賃貸住宅です。
周囲には白楽公園があり、高台を駅に向かって下ると六角橋商店街… まさに物語通りの環境でした。

当時私は駆け出しのTVディレクター兼プランナーでしたが、TV業界がどうも肌に合わず、大手広告代理店と契約してCMディレクターの道も模索し始めていました。

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双葉荘 最終章

双葉荘 最終章

九、証あの日から、もう2年と4ヵ月の月日が流れた。坂の途中から見る風景は、あの頃と少しも変わっていない。『双葉荘』はあの頃の私にとって、一体何だったのか…何故私はあの不思議な体験に導かれたのか…もう一度、何かを確認したいと思うようになっていた。

坂の途中に、当時と全く変わらぬ『双葉荘』の姿があった。道から見える二階のベランダ…雨戸が閉められている。懐かしさが胸に込み上げる…小さな石の階段を上がる

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双葉荘 8

双葉荘 8

八、別離

その後、私が双葉荘に留まったのは僅かに10日間。電気、水道、ガス、電話の解約、さらに家具の引き揚げもある。美江と話し合い、お互い暫くはそれぞれの実家に身を寄せることにしたのだ。

この1年、2人の関係をどう進めていったらいいのか、お互い探り合いの状態が続いていたので、ちょうど良い機会だった。暫く別々に暮らし、良く考えた上で2人の次のステップを見出そうということになったのだ。

外見上は

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双葉荘 7

双葉荘 7

七、目撃者

翌年の2月だった…この春、私は最後の舞台の仕事を終えることになる。コラムライターとしてのレギュラーの仕事が2本増えたのだ。思い切って執筆を仕事の中心にし、どこまでできるか挑戦してみようと決断したところだった。もちろん美江も賛成してくれた。

いつもの様に2人でコーヒーと朝食を摂り、出勤する美江を見送ると、1人で残ったコーヒーを啜りながらひと息入れていた。そろそろ原稿に取り掛かろうかと

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双葉荘 6

双葉荘 6

六、真実あれ以来、私と美江の関係はこれといって特に改善されることなく春を迎えた。

2人の間から夫婦らしい営みはすっかり消え去ってしまっていた。かといって、ぎくしゃくとした気まずい生活が続いていた訳ではなく、2人の関係はいたって良好で、同じ空間を共有する親友同士といったところだ。

徐々にではあるが、私のライターとしての仕事も増え続けている。先月には別の出版社から執筆依頼があり、こちらも隔週レギュ

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双葉荘 2

双葉荘 2

二、出会い暫く曇天や雨天が続いていたので心配したが、『双葉荘』への入居当日、横浜の空は朝から晴れ渡っていた。3月の年度末時期を控えて、私も美江も仕事が立て込んでおり、週末はほぼ塞がっていたので、初旬の平日に二人合わせて休みを取った。ほんの一駅の距離だ。運送屋の手伝いを借りて荷物の運び込みも午前中にはほぼ片付いた。

美江と二人駅前で昼食を済ませると、まずは挨拶に隣を訪ねる…扉横の呼び鈴を押すと、3

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双葉荘 1

双葉荘 1

一、 百葉今朝、妻と二人で実家近くの区役所に離婚届を提出してきた。2年もの別居生活中、幾度も二人で話し合ってきたが、やはりお互い別々の人生を歩もうという結論に達したのだ。二人には子供もいなかったし、特に憎しみ合っていた訳ではないので、円満な結論と言えるだろう。

今や妻はコラムライターである私の担当編集者。夫婦としては紆余曲折あったが、仕事上では良き仲間である。届け出の後、もう妻でなくなった美江と

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