【BOOK】ギフテッド 山田宗樹:著 人はなぜ分かり合えないのか
全くの予備知識なしで読み始めたが、ページをめくる手が止まらなかった。
久々に一気読みした。
初版は2014年ということだが、勉強不足で知らなかった。
あの『嫌われ松子の一生』の著者らしい。
体内に未知の臓器を持つ者を「ギフテッド」と呼ぶ世界。
ただ臓器があるだけではなく、実は特殊な能力を持っていることが分かり、国が制度としてギフテッドを保護している、という冒頭の件から、一気にこの物語の世界線に引き込まれていく。
ミステリー要素たっぷりのSFだ。
現実世界での一般的な「ギフテッド」の意味としては、神からある特殊な才能を授けられた者を指すように思う。
生まれつき記憶力がすごいとか、集中力がすごいとか。
アインシュタイン、ダヴィンチ、ビルゲイツなどもそうだと言われているらしい。
あとは、端的に言えば障害を想定することが多いと思う。
例えば記憶力が飛び抜けている「サヴァン症候群」などだ。
ーーーーー以下、ネタバレご注意!!ーーーーー
本書でのギフテッドはもっと分かりやすい。
シンプルに「超能力者」を指している。
スプーン曲げの、あの、超能力である。
物語が進むにつれて、スプーンを曲げるだけでなく、人間を破裂させたり、いろんなものが曲がったり、テレポーテーションまでできてしまう。
こうしたなんでもありな設定で、整合性を保ちつつ、破綻無くストーリーを進めていく構成、スピード感のある筆致は、シンプルにすごい。
ギフテッド自身でも、能力を使えるレベルに個体差があり、人によってはまだ覚醒していなかったり。
テレポーテーションは、自分も相手も知っている間柄じゃないとダメとか、なんでもありな世界の中でも、リアルな制約があったりして、設定がうまくできていると感じた。
ギフテッドと非ギフテッドとの対立という構図で物語は進む。
これは、「能力を持つ者と持たざる者」という構図だが、この構図を少しずらしてみると、「ある教科が得意な者と不得意な者」「足が速い者と遅い者」「お金持ちと貧乏人」「先進国と発展途上国」「核兵器を持つ国と持っていない国」など、我々の世界にもある対立構図の、最も根底にある「原理」だということが分かる。
古代から人間はこれを繰り返してきた。
能力や権力や財産の「差異」が「格差」に変わっていくにつれて、対立の構図が鮮明になり、ちょっとしたきっかけで争いに発展してしまう。
そのとき、話し合うことでは良い方向には向かわない。
争い、血を流し合わなければ収束しない。
読者は、その絶望感、焦燥感を「達川颯人」ほか主人公たちを通して見ることになる。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をこれと重ねずにはいられない。
国はいったんはギフテッドを保護する政策をとりつつも、研究が進んでいない途中の段階で保護政策を辞めてしまう。それは研究が進まないのに税金だけは投入され続けていたからで、そうした国民の世論から、簡単にぐらついてしまったから。
かと思えば、戦犯として扱われていた「村山直美=村やん」が起こした「東京タワーをねじ曲げる事件」では、ギフテッド特措法を改正する法案を出し、しかしその改正案に反対した非ギフテッドの民衆からの圧力で法案成立を先延ばしにしたり・・・・。
この一連の日本の政治のグダグダぶりは、悲しいけれどリアルだと思った。
終盤、国会を占拠した「村山直美」の台詞。
古来からの対立構図を繰り返してしまう人類、そしてその解決方法を未だに持っていない人類に、読みながら絶望してしまう。
だが、著者はそうは思っていない、かもしれないシーンがあった。
国会の中、村やんが最後の警告を発した際の、伊佐木議長の言葉。
著者からのメッセージがあるとすれば、このシーンかな、と感じた。
現代日本に暮らす我々は、どうしても政治を「遠くにあるもの」と感じてしまっている。
特に都心に近い所に住んでいると、衣食住とはほど遠い仕事をしていたり、細分化されすぎた作業に従事していることから、自分の立つ位置が分からなくなってしまっている。
食べることや生活に直結した仕事であっても、それだけをやっていては、やはり全体が見えてこない。
自分たちの暮らし全体を俯瞰してみることができず、何と何がつながっているのかが分からないままに生きている。
だから、政治が「遠くにあるもの」に思えてしまうのではないか。
政治も、社会も、マーケティングも、デザインも、すべてがここに帰結する。
「相手の考えや気持ちを想像する力」が必要だということだ。
ギフテッドという持つ者と、非ギフテッドという持たざる者とが、話し合い共存することができないかと奔走する「達川颯人」と仲間たち。一方で同じく共存を望みながらも絶望した「村山直美」。
どちらも想像力が足りなかったのだ。
そして、犠牲になったのは未成年者の「上原夏希」。
ただ、同時に世界の秩序を元に戻すきっかけとなった「ねじまがった東京タワーを元に戻した」をやったのも「上原夏希」だったと示唆されている。
これは、わずかな、最後に残った、次代を担う若者への希望、なのかもしれない。
クライマックスで、「達川颯人」が「村山直美」を道連れにテレポートした先が火星だった、というオチは、賛否が分かれるところだろう。
ネットでのレビューでも「あれはない」「やりすぎ」といった意見がやや多かったように思う。
ただ、これは伏線がいくつもあったので、ある程度読めていた、ともとれる。
「達川颯人」が理科の教師であったこと、タケルの息子が天体の図鑑を持って現れた件、テレポーテーションの説明のときに月や火星でもイメージできれば行けるらしいといった台詞があったことなど、いくつもちりばめられていた。
ただ、あれは物語の中で最善のラストだったのか、どうか。
他に代替案が浮かばない(ああ想像力が欠如している・・・)ので、やはりあれはベターなラストだったのだろう。
とても興味深い著者を発掘できた気分だ。
他の著作も読んでみたい。
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