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私はまだいちびりの何たるかを知らない

「箱根駅伝見いへんのか?」

元旦の朝、テレビを見ていると夫に声をかけられた。
夫よ、何回言えばわかるのだ?
箱根駅伝は1月2日と3日に行われるのだよ。

私はけっこう箱根駅伝を楽しみにしている。

花の2区で前を走る選手たちをごぼう抜きし、区間新記録を打ち立てたりするアフリカからの留学生を見ては、
「うぉ~~~、キタ、キタ、留学生キターーーーーー!!山梨学院エグいな~~~!!」
などど大騒ぎするのが大好きだ。
先導する白バイ隊員の紹介では、「箱根駅伝は憧れでした」的なお決まりの文句が正月気分を盛り上げ、10区あたりの中継所では、繰り上げスタートになり、たすきをつなげなかった選手ががっくりと倒れこむ姿が情緒があってザ・箱根駅伝だ。

今年は残念ながら2日も3日も仕事だったので、箱根駅伝を見ることはかなわなかった。

「箱根駅伝は2日と3日だよ!」
と告げると、夫はちょっとむくれて言い放った。

「関西人は箱根駅伝なんてそんな知らんねん!」

これは夫の個人的な感想であって、関西の方すべてが箱根駅伝を見ないわけではないと思う。そんな知らんねん、などと言いながら、2日に私が仕事を終えて帰ってくると開口一番、
「青山学院、勝ったで!」
と言ってくるあたり、好きじゃん箱根駅伝、と突っ込まざるをえない。




突然だが、私には長年気になってしょうがない言葉がある。

夫と出会って間もない頃、大阪からやってきたばかりの彼は、時々その言葉を口にしていた。

「○○はいちびりやな~」
「いちびってんな~」

いちびり』または『いちびる』。
その言葉を初めて聞いた私は、当然その意味をたずねた。

「う~ん‥‥調子乗りとか調子こき、みたいな意味なんやけどな、こっちの言葉では正確には表現でけへん。でまた、こっちではそういうやつ見たことないわ~。いちびりは関西にしかおれへん。」

これも当時の夫の個人的な感想なので、異論はあろうかと思う。
こちらでは「いちびり」と発音しがちだが、「いちり」とするのが正解なのだという。

『いちびり』について興味をもった私は、愛読書である「大阪呑気大辞典」の「いちびり」の項目を引いてみた。

【いちびり】いちび・り 名
小学生時分、ぼくの通知表の短信欄には必ずといってよいほど「明朗快活」と記されていて、ぼくはそれが満更ではなかった。所がある担任が父兄懇談の折「南端くんはちょっといちびりですね」と母に告げ、それを聞かされたぼくはいちびりではない明朗快活を心掛けていくうち、次第に暗くなっていった。                          (南端利)

私の『いちびり』についてのイメージは、さらに迷宮に迷い込んでしまった。

私はテレビにそれっぽい人が出ていると、
「これが『いちびり』なんじゃない?」
と夫に聞いてみる。しかし、彼は考え込んで、
「う~ん、ちょっとちゃうねんな~‥‥」
と歯切れの悪い言葉を返すばかり。

「『いちびり』っていい意味で使う言葉なの?悪い意味なの?」
「それは悪い意味やなー。」
「有名人でこれがいちびりっていう人は誰?」
「西岡やな。」(※西岡剛。ロッテ、阪神などに所属した元プロ野球選手。※夫の個人的な感想です)
‥‥ちょっと見えてきたか?

夫の意見や検索した結果をふまえ、私なりに考えた『いちびり』のニュアンスをまとめると、
「場違いにはしゃいでちょっとイラっとされる調子乗り」
という感じだろうか。
関西の方が聞いたら、
「う~ん、ちょっとちゃうねんな~」
と言われるかもしれないが。

こういう標準語には直せない、そこで生活する人でないと理解できない言葉というものは多々あろうかと思うが、調べれば調べるほど奥深く、その土地の人々の気質まで表しているようで、つくづく言葉っておもしろいなあと感じる。

『いちびり』に関して言えば、私が知っている人で一番近いのは、若い頃の夫のような気がする。

夫に言ったら、
「う~ん、ちょっとちゃうねんな~」
と返されるだろうか。









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