ギリシャの断食期間の話
近年は日本でも知名度が上がってきたイースター。
キリスト教の行事で復活祭のことですが、ギリシャ語ではパスハといいます。
クリスマスと違って復活祭は移動祭日なので毎年日付けが変わるのに加え、西方教会と東方教会では日付の算定方法が違うのでややこしいです。日本でおなじみなのは西方教会の日付で今年2021年の復活祭は4月4日でしたが、ギリシャを含む東方教会は5月2日。現在はまだ復活祭前の断食期間(大斎)の半ばです。
宗教的な断食というとイスラム教のがよく知られますが、キリスト教では食事の節制を行うことが断食にあたります。ギリシャではクリスマスよりも復活祭の方が盛大に祝われるので、その前の40日もの断食も、ちゃんと実践する人が結構います。
今回の記事ではギリシャの断食期間、特に「メガリ・サラコスティ」と呼ばれる復活祭前の断食についてのあれこれを書こうと思います。ちなみに私はキリスト教徒ではないし、家族も宗教は気にしない人たちなので、細かい部分間違っていたらすみません。
ギリシャ正教の「断食」って?
まず最初に、ギリシャ正教で言う断食とはどんなもの?って話ですが、ざっくり言うと動物性の食品を断つというのが主です。
肉はもちろん、卵や乳製品も禁止。魚介類は魚は食べてはいけないのですが、血が出ない(とされる)タコ、イカ、エビ、貝、魚卵などはOK。魚については3月25日の生神女福音祭と復活祭の一週間前にあたる聖枝祭(パームサンデー)には食べていいということになっています(後者については魚食はしないという宗派もあります)。
本来の意味では、節制をするのは精神を高めたり心身を清めるのが目的。日によっては全く調理をしていない食べ物だけで過ごしたり、油を使わず茹でたり煮たりした料理で質素な食事をします。
実際のところ、現代ギリシャではそこまで厳しくやっているかは疑問で、私の周りでは断食期間の最初と最後の週だけ実践するという人が多いです。ある程度はきちんとやっていても、「ニスティシモ(禁止食品を使ってない)の料理やお菓子をいっぱい食べてかえって太ってしまう」と言っている人もいました。また、断食期間の初日や先に挙げた魚食が許可される日などは、食べて飲んで歌って踊ってのパーティーになることも多く、節制の意味とは……と問いたくなります(笑)
それはともかく、動物性の食品を控えたり意識を高めて過ごすというのは悪いことではありませんし、栄養バランスを考えて実践すると健康やダイエットのためにもよさそうです。
聖灰月曜日の食事と習慣
断食期間のその前には3週間のカーニバルがあり、お祭り騒ぎのほかにはまず肉をたっぷり食べ、そこから徐々に節制していきます。動物性食品を完全に断つ断食のはじまりは、聖灰月曜日(清浄の月曜日)。断食メニューの中でも、この日は特に決まったものがあります。
・ラガナ:ごまをまぶして焼いた、平たくて大きいパン。元々は発酵させないパンだったそうですが、まあ普通のパンです。
・タラマ:たらこに似た魚卵で、ペースト状になっている。本来は油も禁止されるのでタラマそのままをパンと食べますが、現代ではタラモサラタにして出されます。タラモサラタはタラマにレモン汁と油、好みで玉ねぎやつなぎ(ふやかしたパンか茹でたじゃがいも)を加え作られるおいしいディップ。
・ファソラーダ:豆料理もよく食べられ、特に白いんげん豆のスープであるファソラーダが定番。これはトロトロになるまでよく煮込んで作るとノンオイルでもとってもおいしいです。
・ハルヴァス:ハルヴァと呼ばれるお菓子はいろいろあるのですが、この日に特によく食べられるのはタヒニというごまペーストを原料とした、見た目はレンガみたいにどっしりしてるけど食感はサクサク軽いヌガーのようなタイプが定番。ちなみにタヒニは油禁止の日も食べていいことになっていて、断食メニューにはタヒニを使った料理やお菓子がいろいろあります。
これらの基本のメニューのほか、シーフード料理がいっぱい並び、ワインやウゾ(アニス風味のお酒)も飲んで……というのが現代ギリシャでは定番で、家族や親しい人と集まって楽しく過ごす日です。
また、ピクニックをしたり凧揚げをするのも伝統なので、ラガナやタラモサラタ、オリーブやピクルスなどを持って野山や海辺へ繰り出す人も多いです。
3月25日のダブル祝日は、干しダラフライの日
先にも書いたとおり、3月25日は生神女福音祭。受胎告知の日ですが、ギリシャがオスマン帝国からの独立に向け1821年に蜂起したことを記念する独立記念日でもあります。
宗教的にはこの日は魚食が許され、とくに干しダラのフライが全国的によく食べられます。干しダラが食べられるのは流通が発達していなかった時代に海から遠い土地でも入手できるお手軽な食材だったこと、血が抜かれているので穢れがない感じがするということが理由のようですが、いろんな調理法がある中でもフライが好まれるのがなぜかはよくわかりません。ただ単に人気メニューだから?
ギリシャの干しダラフライは水に浸けて塩抜きしたタラに衣をつけて揚げた、何の変哲もないものなんですが、スコルダリァというニンニクディップを添えるのが特徴。セットでバカリァロス・スコルダリァといいます。フライ自体は天ぷらの衣みたいなタイプ(ビールや炭酸水を使うとサクッと揚がる)だったり、シンプルに小麦粉をまぶしただけだったり。卵は禁止食品なので入れません。
スコルダリァは、塩と一緒にニンニクをつぶして(普通にすりおろしニンニクでOK)、つなぎになるものとワインビネガー、オリーブオイルを加えて作ります。つなぎは茹でたじゃがいもまたはふやかしたパンが基本で、アーモンドやくるみといったナッツを加えるタイプも。私はくるみとパンを入れたスコルダリァが好きです。伝統的にはすり鉢でつぶして作りますが、フードプロセッサーがあると楽々。深いお皿に入れて、フォークでつぶしながら混ぜるだけでも作れます。ナッツを入れる場合は、市販のアーモンドプードルなど細かく挽いたのを使用。
干しダラフライの副菜には、こちらもスコルダリァがよく合うビーツのサラダがおすすめ。ギリシャでビーツは葉つきで売られていることが多いので、茹でて一緒に食べます。
ちょっと楽しみな断食メニュー
期間中はさまざまな断食メニューがあるので、断食を実践していなくとも試してみたくなります。
ベーカリーで売っている野菜のお惣菜パイ、レストランやファストフード店の期間限定メニューなど。スーパーでも乳製品や卵を使わないお菓子が売られていたり。最近ではミルクやチーズの代用品も一般的になり種類が増えたので、昔と比べ動物性食品を断つのもそんなに大変ではなさそうです。
断食ファストフードメニュー(すごく矛盾する言葉)では、たとえばマクドナルドはこの時期「マックサラコスティ」という特別メニューを毎年出しています。サイトのスクリーンショットを貼っていいものかわからないので控えますが、ベジバーガー、エビバーガー、エビフライ、春巻き、エビフライ入りサラダというラインナップ。ギリシャ最大手のファストフード店グッディーズではイカリングフライのバーガーやピタサンドなども。期間限定エビバーガーの存在をすっかり忘れていたので、買いに行かなければ(笑)
自分でも断食メニューはいろいろ考えたりするのですが、昨日は昼ごはんにマッシュルームギロスのピタサンドを作りました。ギロスはケバブのギリシャ版みたいなもので、最近ではベジタリアン&ヴィーガンカフェでもこういうのを出していたりします。
ブログにレシピを載せたので、よかったら作ってみてください。