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山崎孝明「精神分析の歩き方」紹介
精神分析やそれに関連するセラピーはその密室性やコストといった観点から、認知行動療法に心理療法の王道の座を譲ることになった。といっても日本で市民権を得た日はないみたいなのだが。
本書は衰退する精神分析を気軽に観光する人向けのガイドとして、また精神分析や心理職に向けた内省を与える書として書かれている。私は心理学科に学部学科を変えたいくらいのビギナーだから、この本はうってつけといえるだろう。
だが、この本は買った時の期待とは良くも悪くも少し違った。「精神分析の歩き方」と銘打っているくらいだから、どのように精神分析を学べばいいのか、おすすめの本などが書いてあると思った。精神分析の学び方、精神分析はどういうものか、どう治療するのか(精神分析は治療ではないみたいだが)についてはあまり触れられていなかった。たぶん精神分析に関連する本や紹介本はあまりあるほど存在するからこの本の目指す役割ではない、また精神分析とほかの心理臨床、社会と比較して相対化するというアプローチを試みたのだろう。といっても、入門書の紹介をしているところもあるし、論文だけではなく、一般向けの本から引用が数多くされているので、引用をたどれば精神分析だけでなく、興味のあるセラピーや本に出合えるだろう。私もこの本に紹介されているものをいくつか読んでみたいと思っている。
あとがきでも触れられているように、盛り込みすぎという感じはしなかったものの、シンプルに観光客向けの本にしては高くて、厚い気がする。それでも僕は買ってよかったと思うのだが、値段であきらめる人が多そうだ。大学図書館などで借りるのがいいかもしれない。
構成
以下の4部構成からなる
第1部
・筆者の精神分析をどう歩んできたか/臨床家としての研鑽の仕方
・日本精神分析の歴史 / 精神分析、精神分析的心理療法、力動的心理療法の違い
・精神分析の学派
第2部
・精神分析だけでなく、日本における「心理臨床全体」の歴史
第3部
・精神分析における援助者の過度の介入について(パターナリズム)
・クライエントをどう良くするかではなく、クライエントにどう精神分析を適応するかという考えが中心の独りよがりな治療者について
・特定のセラピーではなく、「ふつうの面接」について(臨床においてはふつうの面接が大きな部分を占めているらしい)
第4部
・この時代に精神分析が存在する意義について
・カルトと精神分析の類似点と違いについて
感想
私はほとんど精神分析をどうやるのか、精神分析とは何なのかについては知らないのだが、それでも読みやすかった。精神分析の相対化と内省がしっかりとなされていて、筆者がいろんな分野を勉強しているんだなとスペシャリストとジェネラリストとしての尊敬と憧憬の意を感じた。筆者には申し訳ないのだが、僕は当事者でもあるので、症状を取り除く心理臨床である認知行動療法に興味を惹きつけられた。といっても精神分析の勉強をしないわけではない。公認心理士の時代になって、ジェネラリストが求められている中、特定の専門に「固執」するのは私のしたいこととは合わない。いろんな分野を勉強して、専門を軸としながらもできるだけ広範な心理療法について知っておくべきであろう。自分の専門分野外の治療法がクライエントに合うと思ったら、自分の治療法の範囲を拡大するだけでなく、ほかの治療者に任せることも必要であろう。
社会や心理臨床の中で精神分析を知りたい人、心理臨床の系譜について知りたい人、単純に精神分析を知りたい人にはおすすめだ。