46)糖質の甘味は中毒になる
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術46
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【動物は快感を求めて行動する】
人間を含めて動物は「気持ちがよい」とか「快感」を求めることが行動の重要な動機になります。ある薬物が動物にどの程度の快感を与えるかを評価する方法として「薬物自己投与」という実験法があります。
ラットやマウスなどの動物に、レバーを押すと薬物がインフュージョンポンプから自動で投与される(あるいは経口摂取できる)ような装置を作成して実験を行うと、積極的にレバーを押す場合とレバーを押さない場合があります。
前者は摂取することによって快感を引き起こす物質と考えられ、このレバー押し行動の強さでその物質の快感を引き起こす程度が評価できます。
初めはレバーを1回押せば薬物が1回投与される条件でレバー押しをさせ、その後薬物が1回投与されるまでにレバーを押さなければいけない回数を徐々に上げていくことによって、その物質に対する要求度がどの程度強いかが評価できます。
摂取したい欲求が強ければ、何度もレバーを押して何度も摂取し、快感が大きければ薬物を摂取するために必要なレバー押し回数が増加してもレバーを押します。
このような実験で、オピオイド(モルヒネ)、コカイン、アンフェタミン、ニコチン、アルコールが強い快感を引き起こすことが示されています。甘味はコカインよりも快感が強いことも報告されています。
図:ラットを2つのレバー(操作棒)があるケージに入れ、一つのレバーを押すと快感が得られる薬剤が静脈注射されたり、そのような薬剤の入った水を何秒間かだけ飲め、もう一つのレバーを押すと活性のない物質が投与されるような仕組みを作って実験すると、ラットは快感を得られる物質が得られるレバーを多く押す。薬物が1回投与されるまでにレバーを押さなければいけない回数を徐々に上げていくことによって、その物質による快感の程度が評価できる。
【脳の一部を刺激すると快感を得られる】
前述の「薬物自己投与」と似た方法で「脳内自己刺激」という実験法があります。
ラットの脳のある部分に電極を差し込み、レバーを押すと脳に電流が流れるような仕組みを作って実験すると、ある部位に電極があると、ラットは猛烈なスピードでレバーを押すことが見つかり、その電極が刺激した脳内の部位が「快楽の中枢」と考えられました。(下図)。
図:ラットの脳に電極を埋め込んで、ラットが自分でレバーを押すと電気刺激が起こって電極のある部位の脳を刺激する装置を使った実験を脳内自己刺激という。電極が脳内報酬系を刺激する部位に電極があるとラットはレバーを押し続ける。特に、腹側被蓋野と側坐核を結ぶ内側前脳束に電極を埋め込むと、ラットは猛烈な勢いでレバーを押すようになる。
このような実験から、脳内に非常に強い快感を呼び起こす仕組みがあることが明らかになり、これが脳内報酬系の発見となりました。
脳内報酬系は、人や動物の脳において、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快感の感覚を与える神経系です。 腹側被蓋野から側坐核、および、前頭前野などに投射されているA10神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)と呼ばれる神経系が脳の快楽を誘導する「脳内報酬系」のメインの経路となっています(下図)。
図:中脳の腹側被蓋野にはA10細胞集団と呼ばれるドーパミン作動性ニューロン(神経伝達物質としてドーパミンを放出する神経細胞)が多く存在する。側坐核は快楽中枢の一つ(報酬系)に属する神経核で、腹側被蓋野のドパミン投射を受け、前頭前野に投射して快感を感じる。この神経経路は脳内報酬系と呼ばれている。
前述のラットの実験で、この神経系に電極を埋め込んで電気刺激をすると、ラットは盛んにレバーを押して電気刺激を求めたことから、この神経系が活性化すると快感を感じることが発見されました。
A10神経系で主要な役割を果たす神経伝達物質がドーパミンです。ドーパミンはアミノ酸のチロシンから作られるアミンの一種で、人間の脳機能を活発化させ、快感を作り出し、意欲的な活動を作り出す神経伝達物質です。
A10神経系が刺激されると、ドーパミンが放出され、脳内に心地良い感情が生ずると考えられています。このシステムは、正常な快感とともに、麻薬や覚せい剤のような薬物による快感や、そのような薬物への依存の形成にも関わることがよく知られています。
【強い甘味はコカインよりも報酬系を刺激する】
この脳内報酬系システムは、正常な快感(食事やセックスなどによる)とともに、麻薬や覚せい剤のような薬物による快感や、そのような薬物への依存の形成にも関わることが知られています。
脳内報酬系においてドーパミン放出を促進し快感を生じると、それが条件付け刺激になって依存症や中毒という状態になります。
コカインのような覚せい剤やモルヒネなどの麻薬のように依存性をもつ物質は、ドーパミン神経系(脳内報酬系)を賦活します。
このような依存性のある薬物は連用すると、薬剤耐性によって同じ量を摂取しても快感の度合いが次第に小さくなります。そのため、快感を得るためにさらに摂取量を増やすようになります。 さらに、その薬物が入ってこなくなると、ドーパミン神経系が低下し、不安症状やイライラ感などの不快な気分が生じます。これが禁断症状(離脱症状)です。
図:依存性を生じる薬物は脳内報酬系のドーパミン放出を増強して快感を高める
繰り返し摂取したい欲求を惹起する作用は強化効果や報酬効果といい、依存性薬物や嗜好性の強い食品にも認められます。
油や砂糖などの甘味はネズミの実験でも強化効果が認められています。つまり、「甘味は中毒(依存性)になる」ということは脳内報酬系の活性化という点から証明されています。ネズミの実験では、甘味の強化効果(報酬効果)はコカインより強いことが報告されています。次のような論文があります。
Intense sweetness surpasses cocaine reward.(強い甘味はコカイン報酬に勝る)PLoS One. 2007 Aug 1;2(8):e698.
【要旨】
背景:
多くの人々の食事において、精製した糖(蔗糖や果糖など)は、人間の歴史において、つい最近まで存在しなかった。今日では、精製した糖の豊富な食事の過剰な摂取は、他の要因とも一緒になって、肥満を増やす原因となっている。
砂糖の多い食品や飲料の過剰摂取は、甘味による快感によって引き起こされ、これはしばしば薬物依存と比較される。甘味の強い食品と中毒を起こす薬との間には多くの生物学的な共通性があるが、甘味による依存性(甘味中毒)と薬物に対する依存性(薬物中毒)のどちらが強いかは知られていない。
方法と主な結果:
カロリーゼロの強い甘味料であるサッカリンの入った水と、高度に中毒になる有害な薬物であるコカインの静脈注射をラットに選択させると、多くのラット(94%)はサッカリンの入った水を選択した。
同様の依存性(コカインより嗜好性が強いということ)は天然の砂糖(sugar)である蔗糖(sucrose)でも認められたため、サッカリンに対する依存性は、カロリーを伴わないで甘味を引き起こすという特殊な作用によるものではない。(甘味そのものが依存性を引き起こすということ)
最後に、サッカリンに対する嗜好はコカインの投与量を増やしても変わらなかった。さらに、サッカリンに対する嗜好は、コカイン中毒になったラットや、コカインを好むようになったラット、コカイン摂取が増えている(薬物中毒の特徴)ラットにおいても観察された。
結論:
我々の実験結果は、コカインに依存性や中毒になったラットにおいても、強い甘味はコカイン報酬に勝ることを示している。強い甘味に対する依存性は、甘味物質に対する先天的な過敏性によるものと推測している。
ラットやヒトを含めて多くの動物において、甘味に対する味覚受容体は砂糖の少ない太古の時代の環境で進化したため、高濃度の甘味物質に対しては適応できていない。
現代社会において日常的になっているような砂糖が豊富な食事によって味覚受容体が過剰に刺激されると、脳において過剰な報酬シグナルとなるので、自制のメカニズムを超えてしまい、中毒になってしまう。
この実験では、ラットを2つのレバー(ドアの取手)があるケージに入れ、一つのレバーを押すとコカインが静脈注射され、もう一つのレバーを押すとサッカリンの入った水を20秒間だけ飲めるような仕組みを作って実験しています。するとほとんどのラットはサッカリンの入った水を飲むレバーを多く押したという結果が得られたと言うことです。
サッカリンはカロリーがゼロの人工甘味料です。サッカリンの代わりに砂糖でも同じ効果でした。すなわち、この実験結果は、甘味に対する中毒はコカイン中毒よりも勝るということを示しています。
ブドウ糖(グルコース)は脳神経の主なエネルギー源です。したがって、糖質の多い食事で血糖が上がることは脳に取っては快感となり、報酬系を活性化するように糖質を求めるようになります。つまり、覚せい剤中毒と同じメカニズムで糖質中毒になることが知られています。
また、甘味自体が、味覚神経系を介して報酬系を活性化することが報告されています。そして、甘味に対する中毒はコカイン中毒よりも強いことがラットの実験で示されたということです。
さらに、甘味物質や糖質は脳内麻薬と言われるβーエンドルフィンの産生を増加させることがラットを用いた実験で報告されています。
エンドルフィン(endorphin)は「体内で分泌されるモルヒネ」という意味です。マラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚してくる作用「ランナーズハイ」は、エンドルフィンの分泌によるものとの説があり、性行為をするとベータ・-エンドルフィンが分泌されると言われています。
つまり、甘味物質や糖質は脳内報酬系のドーパミンと、脳内麻薬のエンドルフィンを増やすことによって、強い快感を感じるようになります。
蔗糖はブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が繋がった2糖です。ブドウ糖は脳のエネルギー源として報酬系を活性化し、果糖はブドウ糖の2倍の甘さがあるので甘味によって報酬系を活性化すると考えられます。つまり、砂糖は中毒になりやすい食品と言えます。甘い果物も蔗糖とブドウ糖と果糖が一緒に含まれるので中毒になりやすいと言えます。
果糖自体は吸収が遅いのでグリセミック指数が低く、インスリンの分泌を促進する作用も弱いので、ブドウ糖よりも健康的と考えられています。しかし、果糖はブドウ糖のインスリン産生を増強するという報告もあります。果糖の摂り過ぎが肥満やメタボリック症候群のリスクを高めることも報告されています。
甘味や糖質に対する中毒は、甘味や糖質を断つことによって克服することは可能です。糖質や甘いものが止められない人は、自分が中毒になっていることに気づいて、甘味や糖質依存から脱却する努力が必要です。
【人工甘味料が肥満や糖尿病やメタボリック症候群を増やす】
人間が食品中の甘味を感じるのは、砂糖などの甘味を起こす物質が、舌の味蕾にある甘味受容体に結合するためです。この甘味受容体は、体のエネルギーになる食べ物(糖質など)が体に入ったという情報を脳に伝えるためにあります。
しかし、たとえカロリーにならなくても、甘味受容体に結合するものは、人間には「甘い」と感じられます。これを利用したのが、人工甘味料です。
人工甘味料(サッカリン、アスパルテーム、スクラロースなど)はエネルギーにならないため、ダイエットコーラやダイエットソーダなどの飲料に使われています。エネルギーにならず、インスリン分泌を刺激しないので、糖尿病や肥満の原因にならない、むしろ、肥満や糖尿病を防ぐ目的で使用されるようになりました。
しかし、最近の多くの研究で、人工甘味料の入った飲料を多く摂取している人は肥満や2型糖尿病やメタボリック症候群が多いということが明らかになっています。そのメカニズムはまだはっきりとは分っていません。いろんな説があります。
例えば、消化管粘膜や膵臓にも甘味受容体があるので、これらを刺激してインクレチンやインスリンの分泌を刺激する可能性も報告されています。インクレチンは食事を摂取したとき小腸から血液中に分泌される消化管ホルモンの一種で、膵臓β細胞からのインスリン分泌を増加させたり、膵臓α細胞からのグルカゴン分泌を抑制したりします。インスリンが分泌されると肥満や発がんを促進することになるのですが、人工甘味料はインスリン分泌を刺激しないという報告の方が多いので、何とも言えません。
甘味自体がブドウ糖のインスリン分泌能を増強するという報告もあります。
人工甘味料が体の代謝に何らかの影響を及ぼすという考えもあります。甘味の情報が来て、体はエネルギー産生の体勢に準備しているのに、エネルギーが増えないので、次第に食事の量が増えるというメカニズムです。実際にラットの実験などで、人工甘味料の入った飲料を日頃から摂取させると食事摂取量が増えて肥満になる事が報告されています。
いずれにせよ、今までブドウ糖(グルコース)より健康に良いといわれていた果糖も人工甘味料も、最近はむしろブドウ糖より健康に悪い可能性が指摘されているようです。
【米国では脂肪とタンパク質の摂取を減らして肥満が増えた】
米国では1960年代に生活習慣病の増加により医療費が膨れあがり、がんや心臓病の予防を目指した研究に巨額の予算がつぎ込まれるようになります。その成果の一つが1977年の「アメリカ合衆国上院栄養問題特別委員会報告書(通称:マクガバン・レポート)」という5000ページにも及ぶ膨大なレポートです。
このレポートでは、「諸々の慢性病は肉食中心の誤った食生活がもたらした食原病である」とし、肉や脂肪の摂り過ぎが心臓病やがんや脳卒中などの生活習慣病の発生に深く関与していることを指摘しました。
そこで、健康的な食事の基本は、肉と脂肪を減らすことが目標になりました。しかし、肥満が逆に増えてしまうという結果になっています。
1971年から2006年にかけての食事の内容(炭水化物、脂肪、タンパク質の摂取比率)の推移と人口の肥満率の推移を調査した論文があります。
(Trends in carbohydrate, fat, and protein intakes and association withenergy intake in normal-weight, overweight, and obese individuals:1971–2006. Am J Clin Nutr 2011;93:836–43.)
この論文では、ボディマス指数(BMI)が19~25未満が正常体重(normal weight)、25~30未満が体重オーバー(overweight)、30以上が肥満(obese)としています。
この評価で1971–1975年の肥満の率(BMIが30以上の割合)は男性が11.9%で女性が16.6%でしたが、2005~2006年の調査では、BMI30以上は男性が33.4%で女性が36.5%に増えています。つまり、30年くらいの間に男性では3倍近く、女性では2倍以上に肥満の人の率が増えています。
この論文では、炭水化物と脂肪とタンパク質のカロリー比について年代別に検討しています。
1971年~1975年と2005年~2006年の比較では、食事中の炭水化物のカロリー比率は44.0% から 48.7%に増えています。一方、脂肪のカロリー比率は36.6% から 33.7%に減っています。タンパク質のカロリー比率も16.5%から15.7%に減っています。
つまり、マクガバン・レポート以降、肉と脂肪の摂取を減らすような食事指導が行われ、実際に、脂肪とタンパク質の摂取が減っているのに、肥満が爆発的に増えています。
米国では、喫煙率が著明に低下したためにがんは減少傾向にありますが、最近は肥満に関連したがん(大腸がんや乳がんや膵臓がんなど)が増えています。
この論文では、炭水化物を減らしタンパク質の摂取を増やすべきだと言っています。
脂肪摂取を減らすと炭水化物の摂取量が増えます。炭水化物はインスリンの分泌を刺激するので、肥満を起こしやすくなります。また、甘味の強い(糖質の多い)食事は報酬系を活性化して快感を生むので、食事の量を増やす作用があります。つまり、糖質の多い食事は食事の量も増え、摂取カロリーが多くなるので、さらに肥満になるというストーリーです。
「肉や脂肪の摂り過ぎが健康に良くない」というのは基本的には間違いではないのですが、その結果、相対的に糖質摂取が増え、糖質には報酬系を活性化して中毒になる作用があり、人間は快感を求めて食事の量が増えて肥満が増えてしまうという落し穴があったということです。
そして、カロリー摂取を減らすために、人工甘味料を使ったダイエットソーダやダイエットコーラを推奨したら、甘味自体に報酬系を活性化する作用があるのと、甘味受容体を刺激してもエネルギー源が入ってこないことを学習した人間はさらに食事摂取量を増やす結果になったので、人工甘味料の摂取が肥満や糖尿病の原因になったという、予想外の結末になったということです。
人間に快感を与え、しかもダイエットになると考えられた人工甘味料は、動物に脳内報酬系という薬物中毒にさせる機能があったために、理論通りにいかなかったという結論です。
がん予防の食事の基本となったマクガバン・レポートも、結果的には肥満を増やし、肥満に関連するがん(大腸がんや乳がんなど)を増やす原因になった可能性はあります。
図:糖質と甘味(人工甘味料を含む)はA10神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)や甘味受容体・味覚神経などを介して、脳内報酬系によるドーパミンの分泌や脳内麻薬のエンドルフィンの分泌を刺激して快感や幸福感を引き起こすので中毒になる。人工甘味料はカロリーがゼロでも肥満の原因になることが報告されている。甘味受容体が刺激されるとエネルギーになる食物が体内に入ったという情報になるが、人工甘味料はエネルギーにならないので、体は次第に食事摂取量を増やすようになるためと考えられている。
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