詩)「ら」の人
月あかりがきれいな夜 その人がやってきました その人は自分のことを「ら」の人と名乗るのです 「ら」の人は「僕ら」の「ら」の人だと言うのです 僕でもなく僕の中にあるボクでもなく 「僕ら」でもなく 「ら」の人だというのです
その人がそこにいるのはごく自然に思えました 「さあ」と「ら」の人が言いました 「僕から言うのも変なんですけど」と少しはにかみ笑いしながら「さあ一緒に行きませんか」と言いました 「最近言う機会がなくて」その人は照れたのです
「ら」の人は「ら」と「僕」の関係性について長いこと悩んでいたんだそうです 独り語り始めました
今日オデーサの石畳の上にいた2歳の少女が「ら」の人に話しかけて来たんだそうです。
その少女がまだ生まれて1カ月のとき お母さんは「私たちの娘は今、生後1カ月です。パパは彼女に初めて花を贈った。新しいレベルの幸せよ」と話しました。
少女は「ら」の人に「ステキなお花よ 私はもう見ることは出来ないけれど」と言って遠ざかっていきました。徴笑の気配だけが「ら」の人をつつんだそうです
気がつくと「ら」の人は「僕」の前に立って「僕」と「ら」の人は朝の岸辺で立っていました。「僕」と「ら」の人はヒロシマでピカドンで銀行の石段に焼き付けられ人影となってしまった人や名も知らぬ多くの「影」にされた人たち そしてオデーサの少女が蘇って来る夜を待って 一緒になり「僕ら」になることにします それではまた
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