詩)尾形亀之助とぼくの煩悩
昨日 尾形亀之助の詩集を引っ張りだした 亀之助の死に方を辿ってみたくなった
押入れを開けると 真白な瀬戸の便器と洗面器に尿が淀んでいた
しかも容器の外には一滴の漏れもなかった
亀之助の体は硬直したように自由にならなかった
戦争という死の強制
自死でもない寿命でもない最小限の生を保ち最小限の死を選んだ亀之助
2020年7月 弟の死 コロナの中 勤め先の姫路で1日だけの簡素な葬儀を行った
何回かやり取りしたときの葬儀屋のスマホの音声の悪さ 汗をかきかき「コロナではありませんでした」と状況を説明した警察官 弟の会社の社長は「よくやってくれていました」と職場での様子を教えてくれた。
それから 弟が勤務していた立ち食いうどん店でうどんをごちそうになった
人の死はあっさりと過ぎていく
誰も泣きわめくようなこともなく淡々とことは終わると思っていた
斎場に1人の20代の女性が現れた
私たち家族と一組の親族 会社の社長しかいないところにやってきて
どうしても死んだ弟の顔を見たいといい「ずっとお世話になりっぱなしでした」と声をあげて泣いた
弟の写真 僕ら兄弟はずっといつも若々しい弟と老けた兄だった
遊びのうまい弟とくそ真面目な兄だった
だから弟の方が人生は上手くいくだろうと母はそう思っていただろう
女性には弟の顔を見せてあげられなかった 最期はきっと苦しかったのだろう 弟の顔の上には優しい笑顔の写真があった 女性は写真の弟に手を合わせ1通の手紙をおふくろに託した
写真の中でいつまでも歳を取らない弟に嫉妬する
亀之助の詩集を亀之助はいそいで読んで欲しくないという
本箱のすみへでもほうり込んでおいて、思ひ出したら読んで欲しいという そんな風に生きられたら
そんな風に思い出してもらえたら やっぱり幸せだろう
煩悩だ
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