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一生ものの罠
20代の小娘当時、私はB.C.B.G(ボンシック、ボンジャンル)という事に夢中だった。それは大好きなフランスのスタイルのあり方で、イメージするとしたら、16区に住む品のいい女性。流行りに乗る事なく、定番の洋服を上手く着回し、数を絞る。その普段着を格上げして見せる3種の神器はエルメスのバッグ(この当時がケリーと記されていた)J.Mウエストンのローファー、オールドイングランドのカシミヤのストール。
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パリ好きでお金のない私にはぴったりのファッションに思えた。これらさえ、手に入れば、一生、洋服で困らないかもしれない、
朝から晩まで、エルメス、ウエストン、オールドイングランド、そればっかり唱えていた。
その当時、東京でウエストンを扱っていたのはシップスで、ローファーが68000円だった。高い!毎月1万円づつウエストン貯金をして、七ヶ月経った時、紙幣を握りしめて、駆け込んだ渋谷のシップス。ぎり68000円しか持ってないのに、店員さんは冷たくこう言い放った。
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ウエストンを買われる方は必ずシューキーパーも買っていただいております。
ええ?そんなトラップ(足枷)があるの?
何とか靴だけ売ってもらおうとしたが店員さんも一歩も引かない。
J.Mウエストンはご存知かと思いますが、グッドイヤーウェルト製法で、底を張り替えると一生履けます。ですがシューキーパーを使わないと型が崩れます。
おお、それはいけない、私の一生もの作戦が崩れてしまう、買います!買います!シューキーパー買います!
8800円!チーン。すぐにATMに行き代金を用意した。
その夜は嬉しくて嬉しくて靴を履いて寝たのを覚えてる←ばか。
それから、私のB.C.B.G熱はさらに高まり、翌年パリに行き、後の二つの神器を手に入れたのだった。やったー!一生ものを手に入れたー!!!これでもうファッションに困ることはない。
そのはずでした。
が、同じことを考える方は多かったようで、
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ある日の代官山で、同じ場所に同じバッグを持つ人が5人も居合わせることがあり、気まずい。も、持ちにくい、、、、。
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ローファーは底を張り替えることでずっと履いていけると言うことでしたが、その費用がまさかの一回26000円(当時)またしてもトラップ!
減るのが怖くてできるだけ底を地面に着けないように歩く始末。こんなにメンテナンスにコストがかかるなら、他の靴を買い直しても同じだ!に気づく。
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大事に大事に使っていたストールもさすが15年経った頃には、薄くなっていたし(防寒に難あり)、グッチのモカシンも今のデザインは、トムフォード時代とは違い、先がやや細い。定番デザインも時代によって変わってくる事が多いことを知った。
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ああ、バーバリーのトレンチさんですら、無情だ。
また、メンテナンスをしていても“味“と言う名のくたびれ感は免れない。これが若い方が持つとアンバランスな魅力が出るんだけど、
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私のように人間が古くなってくると、経年ものばかりで固めるとただの“よれた人“になるので注意も必要。定番だからーの闇雲な安心は禁物だ。
つまり、一生ものはないんだな。
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昨年は、サンフランシスコのバーニーズが閉店セールで、何もかもがセールになった。マルジェラの定番バッグも対象になってて、
あ、これはずっと持てる、一生使える←自分の背中を自分で押す←自殺行為
と思ってしまった。このフレーズ、今でもつい選ぶ判断に使いがちだけど、
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一生ものだからーは、買いたい自分への言い訳。