フィールドワーカーの目を通して歴史と出会う――清水亮『「軍都」を生きる:霞ヶ浦の生活史1919-1968』(岩波書店, 2023)
この記事は
前田麦穂が書いた、清水亮『「軍都」を生きる:霞ヶ浦の生活史1919-1968』(岩波書店, 2023)の感想、面白かった点の覚え書きです。
本書の概要
面白かった点と感想
1 地図や写真から伝わる「フィールドワーカーの目」
前著『「予科練」戦友会の社会学:戦争の記憶のかたち』(新曜社, 2022)でも(配置図なども含め)その場所・地域がどのような空間なのか、に焦点が当てられていましたが、今回は更に多くの地図や写真(屋内や物品なども含め)が用いられています。
これにより、歴史研究者であるとともにフィールドワーカーである著者の「目」を通して、読者が阿見町と出会うことができる本になっていると思いました。
2 軍都への進歩的概念による意味づけ
第1章 軍都への「空の港」=「文化」「国際」の意味づけ(pp. 26-28)
第2章 プロペラの爆音を「文明」の音とする意味づけ(p. 58)
→私が最も衝撃を受けた軍都の「魅力」がこれらの点でした。このような人々の意味づけを明らかにしているからこそ、終章での丸山眞男の議論と本書の問題意識(軍事化の「平凡化」を内側から描き出す)の部分に非常に説得力がありました。
また上記の意味づけは第5章(戦後)の霞ヶ浦駐屯地パレードの描写でも想起され、「人々は戦前も戦後も、外来の科学技術のスペクタクルに魅了された。」(p. 158)という一文に集約されていくことで、「軍都」への意味づけの重層性と通時性がわかりやすく示されていると思いました。
3 戦後初期の「軍都」の切実さ
→私もこの時期を研究しているため、第4章のこの部分はその「切実」さがありありと想像でき、強く印象に残りました。
4 図注・章末注の遊び心
この本はとにかく注が熱い(笑)
無粋を承知で挙げるとすれば、
図2-8の寄せ書き屏風に「解脱煩悩にはほど遠い」(p. 75)というツッコミ
第1章注64(著者と郷土史家との温かい関係性がよくわかる)
第2章注57(国会議員のつけ未払いへのツッコミ)
エピローグ注3(泣ける…)
が面白かったです。
5 「遅く生まれた」こと
コラムがどれもすごくいいんですが、コラム1が「私は遅く生まれすぎた。」(p. 44)から始まるのめっちゃいいですね。
「遅く生まれた」ハンデがありつつも様々な人の縁を著者が大事にして、このような研究を書き上げたことが本書の随所から伝わってきて、阿見町の歴史を通して著者の人となりも同時に読んでいるような、不思議な気持ちになりました。コラム1末尾の生活史を「文字の声」からも描いていこうという点も、すごく説得力がありました。
あとコラムの中ではコラム2(さらにいくつもの芋掘り)も好きです。
6 終わりに
これまでの著者の研究の展開を知っているからこそ、前著『「予科練」戦友会の社会学』とは別に、今回のような形で本にまとまり世に出たことを(勝手に)感慨深く思いました。
以上、まとまりのない感想となりましたが、ご興味を持った方はぜひ本書をお手に取ってみてください。