「いい思い出」を独り占め
都内に、大学二年生の頃からお世話になっている韓国コルギサロンがある。
未だに顔の歪みやエラが気になるため、25歳になった今でも定期的にここに通っているのだ。
ずっと担当してくださっているメグミさんは韓国人だが、日本人の旦那さんがいるため、韓国の発音ながらもとても流暢な日本語を話す。
この前、数ヶ月ぶりにそのサロンに訪れた。
ドアを開けて私を一目見た瞬間、
「アラ!カミ、キッタノネ!オトナッポクナッタ!マサカ、シツレン??」
と笑いながら、冗談っぽくメグミさんが聞いてきた。
「失恋じゃないですよ〜ただ雰囲気変えたくて!」と、約20cm切ってベリーショートになった自分の頭を触りながら、私も笑い返した。
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『失恋したから髪を切る』
よくドラマや映画でもこんなシチュエーションを目にするが、あれは忘れたい過去を切り捨てたいからなのだろうか?
それとも単純にイメチェンをして、切り替えて新しい恋に進むマインドセットを作るためなのだろうか?
私は、失恋したとしても、当時の思い出たちはずっと「いい思い出」として記憶の奥底にそっと残しておきたいタイプ。
次へと切り替えるのは大事だけど、その過去があるからきっともっと良い未来が待ってる訳だし、未練がある訳でもないから別に完全に切り捨てる必要もないと思ってしまう。
その反面、「いやな思い出」はすぐにでも忘れたい。
忘れるというより、私の場合はネタにしておもしろ話として女子会で話す、という傾向に走ってしまう。
私は、自分が所属している仲良しグループ全てにおいてお笑い・盛り上げ担当的なポジションにいる。だから恋愛トークになるともちろん惚気たりもするが、それ以上に、ネタとして機能する話や何かの出来事をネタ化して話してしまうことが多い。
そのため、友人達の中では私の過去の恋愛は全て「面白いネタ話」として認知されてしまっていると思う。
だから、当時好きだった人達の素敵なところや、それこそ「いい思い出」の話もみんなはきっと覚えていない。
そもそも、「いい思い出」たちは自分の中で独り占めしていた、とすら思う。
例えば、
サークル終わりに彼の家に帰宅すると、キッチンを散らかしながら慣れない手つきで私が大好きな辛口のアラビアータを一生懸命作っていてくれたこと。
旅行先でご飯を食べながらひと笑いした直後に、じっと見つめてきて「本当に愛おしいんだよね」と言われて周りの雑音が消えてしまうくらい二人の世界に入り込んだこと。
「デートプランもう全部任せてな!その代わり、おもんなくても文句言いっこなしやで!」と土曜の夜届いたラインを読んで京都弁が一層好きになったこと。
私が前雑誌で見て可愛いと言ったベリーのケーキを求めて、バレンタイン当日にわざわざ昼休みを使って行列に並んで喜ばせようとしてくれたこと。
全部何気ないけど、全部愛おしい、「いい思い出」たち。
でも、私の中に残っているこの大切な思い出は、それを上回るネタ話によって、幸せな過去として周囲に認知されていない。
そりゃ独り占めしてたんだから仕方ないでしょ!と突っ込みたいところだが、どこか悔しくて、周囲に伝えていなかった自分のことが、なんだか今さら憎い。
二人の幸せなんて二人が分かっていればそれでいいのだけど、ちゃんと自分も愛に溢れた恋をしていたことを、もっともっと周りに知らしめたかった。
…と、地雷男に塗れてしまった今になってそんな感情が湧いてくる。
こんなちょっとした後悔があるから、次の恋ではちゃんと相手のいいところや楽しかったことは胸を張って周囲にも伝えていきたい。
そして次の恋こそは、「過去の面白かった恋愛」として私含めてみんなの記憶に残るのではなくて、「いい思い出」としてそのまま未来へと繋がりますように。
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