「お願い、お口はミッフィーちゃんで!」
色々なマッチングアプリを試す中で、興味本位でpatersというアプリも一時期インストールしていた。
これは、言ってしまえば「パパ活」用のアプリである。
しかし、アプリ側もパパ活とは大声で公にすることができないため、【夢を追いかける女性と、それを応援する男性のためのマッチングサイト】として宣伝されている。
暗黙の了解を理解した上でアプリに登録している男性が多いため、やはり年上のおじさん世代ばかり登録されているように思えた。
以下、私が試してみた上での肌感や偏見等を書いていく。
まず、他の恋活・婚活アプリと異なる部分は、写真に大きく反映されているように思えた。例えば、普通なら自分の顔や趣味の写真を登録するところ、patersにいる男性の多くは、ナンバープレートを隠した外車や、高級なレストランの熟成肉の写真でプロフィールを埋め尽くしている。顔写真を載せている人ももちろんいるが、企業の社長さんや身バレすると困る人もたくさん登録しているため、顔にスタンプを施したり、目だけモザイクをかけている人が結構いるのが特徴的だ。
そのため女性側は、車や食事のキラキラした写真達、そして基本情報にある男性側の年収で大体判断することになる。
また、これらの判断基準以外にも、プロフィールに多くの男性が記載している「条件を教えてください」という言葉もポイントのように感じた。これは、女性側が提示する金額や条件次第で、男性側が会う頻度や会った時の内容を決めるというものになる。
…まさに、パパ活の闇(笑)
私はこのアプリをインストールしてすぐに、怖いもの見たさで顔写真も載っていない年収6000万円と記載された60代の人にいいねを送ってみた。すると、すぐに届いたメッセージには、
「はじめまして。3月に2年お付き合いした子とお別れしました。餞別にハリーウィンストンをせがまれましたがエルメスで勘弁してもらいました。あなた様は別れた子の何倍もお綺麗なので、パパ就任できたらのプレゼント何がいいか今から思案中です。ランボルギーニでお近くまでお迎えに伺えたり、私の住む六本木タワマンにてUber宅配などによる二人ホムポ、またはロブション、うかい亭、久兵衛、叙々苑などに行くのもありかと。パパ就任決まりましたら1ヶ月分前金大丈夫ですので、助っ人にもなれます。まずは空き日時お知らせください。今月でしたらリスケ調整可能なので、連絡待っています。」
と記載してあった。
ハリーウィンストン、エルメス、ランボルギーニ、タワマン、ロブション…
魅力的な言葉ばかり並べることで女性を釣れると思っているこの安直な男性も恐ろしいが、顔も分からずにこれで揺らいでしまう女性が実際にいることがもっと恐ろしい(笑)
メッセージのスクショだけ残してからこの男性をブロックし、お金の匂いがプンプンとしないような、身元が判明している男性を一先ず探すことにした。
もちろんpatersで付き合いたいほどの男性を見つけられるとは到底思っていなかったため、慎重になりながら、パパ活のリアルを探るための市場調査的な感覚でやってしまったのは否定できない(笑)
数日スワイプしていく中で、情報通信の会社で代表取締役をしているという男性を見つけた。年齢は40代後半とかなり上だったが、パッチリ二重の童顔で清潔感もあり、「おじさん」というイメージはあまり抱かなかった。
事前にネトストしてもちゃんと顔と名前が一致していて、会社情報も全て記載してあり、嘘がなさそうだったので連絡を取り始めた。
そんな中で何気なくフェイスブックでも検索をかけてみると、なぜか私の大親友が共通の友達として画面に表示された。
パパ活とは一生無縁であろう、大真面目でピュアな女の子だったため驚きを隠せず、その子に思わず連絡してみた。
すると、この男性は友達が昔インターンしていた会社の社長さんだということが分かった。
偶然すぎて本当に驚いた。
しかし同時に、これはかなりの有力情報だった。
パパ活アプリで実際に会うとなると、お金と引き換えに身体の関係を求められる可能性があるかも…と内心不安になっていたが、彼の元部下が私の大親友であるという超有力な安心材料を私は手に入れたのだった。
万が一何かされそうになった時はこれで脅そうと決めて、さすがに割り勘じゃないだろうし、ただ美味しいものを食べに行く感覚で、二週間後に東京駅で会う約束を取り付けた。
**
当日、その人はお店の予約も特にしておらず、新丸ビル内をぶらぶらしてお店を決めようと言ってきた。結局入ったお店はカジュアルイタリアンで、グラスワインを飲みながら肉料理やパスタを食べた。
話を聞いていくと、彼はパパ活など興味なく、本当に出会いを求めているタイプの男性だった。
…会って早々に、市場調査が終了した(笑)
そんな食事中は、ひたすら自慢話をされた。
某有名国立大学を出た後、海外の名門校へ留学して、難しい研究をして成績も優秀で、帰国してすぐに会社を立ち上げて、社員数は何人いて、年商と年収はいくらで…と鼻を高くしながら、自慢話がつらつらと2時間も繰り広げられた。
この時点で20時半を回っていた。
二軒目には行かずに、私はこのまま帰ろうと思っていた。初対面のおじさんの自慢話に長時間付き合うのはかなり堪える。
しかも実際に、翌日の正午までに提出しないといけない仕事の案件があったため、私は代官山のスタバに深夜2時までこもって作業をしようと思っていた。鞄の中にはiPadも装備されていたし、このままスタバに向かえば閉店までの時間、充分に仕事ができる。
イタリアンのお店を出て、私が先頭を歩いて下へと向かうエスカレーターに乗った。
すると後ろから、「この後、また飲み直そうよ、東京タワーが見えるところで」と彼が言った。
私は振り返って、仕事のためにこのままスタバに向かうのですみませんと正直に二軒目の誘いを断った。
少し困った顔をした彼は、「東京タワー見ながらちょっとだけ飲もう?美味しいシャンパン飲めるところ連れて行きたい。東京タワー見えるから」と東京タワーを全面にゴリ押ししながら何度か誘ってきた。
最初は渋ったが、40代の男性が連れていってくれる【東京タワーが見える場所】は一体どこなのか気になってしまい、結局私は彼の後に続きタクシーに乗り込んだ。
しかし走ること数十分で着いた場所は、まさかの住宅街だった。
「東京タワー見えるから」
そう言われて連れてこられた場所は、おしゃれなバーでもレストランでもなく、彼のマンションだった。しかも、それはタワマンでも何でもなく、ごく普通の、言ってしまえば少し古びたマンションだった。
普通の女の子ならここで、もしくはここ以前に怖くなって逃げるはずだ。しかし、地雷男を散々見てきて免疫のある私からすると、この時点でこの展開は相当面白いし、続きが気になって仕方がなかった。※良い子は真似しないでください
「東京タワーが見える場所って家ですか〜?!」と驚いたフリをしながら、エレベーターに乗り込んだ。
8階に着き、部屋に向かう廊下を歩いていると、左手に東京タワーが見えた。それはドカーンと前に構えている訳でもなく、「あ、東京タワー今日よく見えるね」くらいの距離だった。
そして、お気付きだろうか。
問題は、まだ部屋に入っていない時点で東京タワーが左手に見えているということ。右手側には部屋の入り口がいくつも連なっている。つまり、部屋に入ってしまえば東京タワーの面影など一切なくなるのだ。
「東京タワー見えるから」という彼の言葉はいくらなんでも盛りすぎで、これは完全に詐欺だった。その誘い文句を使おうとした度胸がすごい。
しかしもっと驚くのは、部屋に入ってからだった。
殺風景な部屋の端には、薄い敷布団が4、5枚重ねてあるベッド代わりのようなものが置いてあった。床には山積みになった本があちこちに広がり、カーテンのない窓の先には東京の住宅街の明かりが点々と広がっていた。
こだわりが一切ない男子大学生の部屋と言われても全く疑わないような出来栄えだった。
そこら辺座ってて、と言われて私は仕方なく床に腰を下ろすと彼はキッチン側から折りたたみ式の小さなローテーブルを運んできた。
キーーーという嫌な音を立てながら、彼はテーブルの脚を4本引っ張り出し、私の前に置いた。そしてその上に小さなシャンパンのボトルと、ワイングラスを2つ並べた。殺風景な部屋だったが、ワイングラスだけは素人の私から見ても高級感があり、キッチン奥の食器棚には他のグラスもキラキラと輝いていた。素敵なワイングラスと、テーブルのミスマッチ感がすごくて、私は早く友達に共有したいとうずうずしていた。
そんなことを考えながら表面的な話を適当に交わしていると、彼が何の前触れもなく、いきなり抱きついてきた。
はいはい始まりましたと内心思いながら、私は至って冷静さを保っていた。なんせ、私には秘密兵器があるのだ。抱きついてきた彼をそっと離し、まさか家に連れてこられると思っていなかったし、部屋に入っておいて申し訳ないけどその気は一切ないと伝えた。
すると、「僕は君を抱いてあげたいと言ってるんだ、分かるかな?嫌なら断ってくれてもいいんだが、僕がわざわざ抱いてあげたいと言ってあげてること、分かってる?」と言い出したのだ。
ローテーブル引っ張り出しておいて何様???wwwww
それ以降もしつこく迫ってきたため、ついに秘密兵器を使うときがきた。
4回目床に押し倒されそうになった瞬間、私は大きな声で「◯◯ちゃん!!」と親友の名前をフルネームで叫んだ。
その直後の彼の顔は、一生忘れないだろう。
一気に青ざめて、「え…なんで◯◯のこと知ってるの?」と聞いてきた。
私は正直に、会う前にフェイスブックで彼のことを調べていて大親友が元部下として共通の友達に出てきたことを伝えた。
これらを伝える直前まで彼は卑猥なことや上から目線で話してきたり、嫌がってるのに誘ってきたりしていたため、相当焦ったのだろう。私と少し距離を取り、改まって正座をして私の名前を呼んでから、「お願い、お口はミッフィーちゃんで!」と言って自分の口元の前で指でばってんを作った。
さすがに吹いた(笑)
世のおじさん達はライン上では変な絵文字をチョイスしてくると噂には聞いてきたが、まさか対面でもこの類のことをしてくるとは思ってもいなかった。
このあとどうやって家を飛び出したかはあまり覚えてないのだが、18時半に待ち合わせをして、21時にマンションに連れて行かれ、21時半には帰路に着いていたのは確かだ。
短時間での出来事にも関わらずネタが濃厚すぎて、今でも振り返って声が出るほど笑ってしまう。
パパ活の真相は結局分からなかったが、ある意味お金では買えない経験ができた。
今後も、おじさんと、「東京タワー見えるから」という誘い文句には要注意だ。
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