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短編小説 なぜ、生かされて来たのか 其の二最終回(1388字)

「まだ、やる事があるぞ」
と聞いた感じがする。

そうだ、あの時に感じた声に似ている。


命の自分史

青い空、ジリジリと熱波が吹き付ける夏、高校二年の通学中の時だった。

三メートル程先を歩く男子高校生が、突然膝から崩れるようにして

仰向けに倒れた。

後ろを歩いていた僕たちは、駆け付けた。

男子高校生は、隣のクラスのCだった。

Cは、かっと眼を見開き一点を見つめ、口から泡を吹きながら、

胸をおさえ、何か言おうとしていた。

大丈夫か、しっかりしろ、すぐ救急車が来る。

僕らは、見守るしかなかった。

幸い救急車はすぐに来た、Cは手早く収容され、サイレンと共に去った。

その日の昼休み、Cの死を全校放送が伝えた。

僕にはあの時Cが、

「なんで、俺なんだ、俺は死ぬのか」

と叫んでいた気がする。


60歳となった僕は、直腸末期癌、転移した肝臓肺癌で手術を2回行った。

担当医師は全国の標準データから推測し余命半年と宣告した。

死を覚悟した僕は、ボランティアに勤しんだ。

純粋に残された命を、人のために使いたいと思った。

もう6年が経つた、今は

「なぜ生かされて来たのか」

考えない日は無い。

あの声の主

その夜、白い煙の中で僕の頭は朦朧としていた。

僕は、私は全ての死をコントロールしていると言い放った声の主に問うた。

「どうして、善良なる、未来ある若者を殺すんだ。」

もやもやとしている煙の向こうから、その声は感じられた

確かに私は全ての死をコントロールしている、

しかし、それは善悪で区別しているのではない。

あなたたちホモサピエンスが、生きるすべとして、

創り出した戒律に私は左右されない。

人間社会は戒律に叛く者には罰を与え、しかもその最高刑は死刑だ。

私に言わせれば、それは欺瞞に満ちた、綺麗事だよ。

僕は反論した。
「ホモサピエンスが栄える為には戒律が必要なんだ、それを守る事のどこが
欺瞞、綺麗事なんだ、意味が全く解らないね」

声の主は捲し立てる様に言った。

全生物の中で、大脳皮質の発達したホモサピエンスだけが死を恐れる、

生き長らえようとする。

つまりその為にホモサピエンスには戒律が必要に成る。

更に戒律維持のために、生死を利用する。

例えば、
善行を積み重ねれば徳を獲て成仏する。

悪人、罪人は死刑にする。

社会に貢献し生きなさい。

ホモサピエンス以外の生物は死を恐れない、

何故ならば、彼らは大自然に内包されている事を知っているからだ。

自身が大自然の中で循環している事を知っている、

だから死を恐れず身をゆだねる事が出来るのだ。

つまり、善良なる未来ある若者を殺すな。

と言う考えは、戒律から来るホモサピエンス人間の勝手な幻想、欺瞞だ。

僕は反論した。
「人間は、文明を作り出して、賢明に自然との調和を目指して努力しているじゃないか、神様みたいな事を言うな」

声の主は続けて言った。
あなたが言ったその言葉に、返す言葉は、
「人間め、何をちょこざいな」と言う所かな。

僕が返した。
「じゃー、教えてくれ、なぜ、僕は生かされているんだ、あの時まだやる事があるぞと、言ったじゃないか」

声の主は冷静に言った。

私は神様ではない、

私の存在は無い、

敢えて言えば、
大自然の子分みたいなものだ。

私がコントロールしている死の判断の源は、これだ。

もやもやした煙の中から、

くるくる回転する賽子が二つ現れすぐ消えた。

僕は一瞬見えた賽子に絶句した。

暫く立ち尽くし、やっと、発した。

「そんな、馬鹿な」


おわり。


















 





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