幽玄深淵なる金田一の世界
劇場版の金田一耕助シリーズは、片岡千恵蔵や高倉健などの銀幕スターが演じたものが初期のもの。
定着したのは、角川春樹事務所第一回作品とされる、「犬神家の一族」ではなかろうか。
テレビの古谷一行、映画の石坂浩二。それくらいのインパクトで線引きされたのは、やはり原作の持つ一種独特の世界観をどれほど忠実に再現できたか、によると思われる。
学生時代は、横溝文学に傾倒した時期があった。中学2年生から高校3年くらいまでは、金田一の長編・短編を問わずハマった。そして、おどろおどろしい世界観に酔った。勿論、その当時は文筆など頭の片隅にも思ってもいない、純粋な観客のひとり。
当然、劇場映画も隈なく見入った。ほぼ寅さんのような「八つ墓村」や、世界観を構築できた西田敏行の「悪魔が来りて笛を吹く」、時代の空気をビートルズの歌で演出した鹿賀丈史の「悪霊島」など。見比べてそれぞれの長所も短所も納得はできた。
が。
市川崑の個性的な映像美と、音楽。「犬神家の一族」にイチコロとなった方は大勢お出でのことと思う。金田一のイメージは、このとき定着したのだろう。
市川崑×横溝正史×石坂浩二は
5作品を銀幕に飾る。
映画と相まってヒットした角川文庫。カバー絵の恐ろしさは華麗なものでもあった。
その後、市川崑は豊川悦司で金田一を撮ってみたが、
石坂浩二にはやはり敵わない。
NHKでも頑張ってドラマに試みているが、やはり銀幕に刻まれた伝説は越えられるものではないと思う。石坂浩二版の金田一耕助は、こののちも愛されていくのだろう。