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黒龍 ―「真潮の河」四月からの新章
今回は、房州日日新聞愛読者だけしか楽しめなくて恐縮です。
伍話「おんなの極め道」は、思いの外、購読地域からの評判もよろしかったご様子で、安堵しております。このパートの大きな目玉は、醍醐新兵衛の嫁取りという部分。ここは明らかに創意であることを、皆さんは承知の上でお楽しみ頂いております。なぜならば、ここで最初の妻となる存在が、安房には程遠い設定を帯びているからです。
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黒龍
はじめて本編にその名と存在を漂わせたのは、連載5話目。ここから、醍醐新兵衛の両親にとっての因縁がつきまとい、その宿業を背負って生まれた新兵衛によって討たれた。
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101回目の連載、長い間、悪魔の鯨との死闘が醍醐一家や勝山の漁師たちを一丸とさせた。組織捕鯨の仇花という、美味しい設定であるが……死した黒龍にはもうひとつの設定がある。
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黒龍を倒した男が死ねば、次の黒龍となって生まれ、大いなる厄災となる。
呪術で生み出された忌むべき悪魔という設定であることを、連載5か月目でようやく露見。倒した男は醍醐新兵衛、その身に刻まれた呪い。これは幾重に及ぶ、半世紀以上も前からの呪法。その源は紀州、江戸の徳川将軍家が絶えることを望む存在による因果。その内偵者である柳生宗矩は死に、意思は十兵衛に引き継がれ、その意を信州祢津の〈ののうの里〉が探る。このとき安房へ渡り巫女がきたというのは、作品上の設定で史実ではない。この渡り巫女が、〈ののう〉を統べる宰相の采配で安房に来て、感情を捨てたにも拘らず新兵衛への想いを抱く。ここまでも宰相の洞察と筋書き通り。
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醍醐新兵衛を守護するための結界。術を封じるための秘策は、安房に移り住んだ新兵衛の新妻や共に渡った巫女たちにより錬成。そのための紀州からの調査が来る。効果はあった。
これまでの大事な点。
醍醐新兵衛の負った呪いは、本人が全く知らない。
妻と、共にきた巫女、新兵衛の両親、居候で護衛役の源流師範・赤井又五郎のみ。
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次の6話は、いよいよ史実の事件と創意の絡み合いで、この一件についてのひとつの区切りとなる。
ひとつだけいえるのは、忌むべき天と運命の象徴として、こののちも黒龍という存在が江戸湾を脅かすということ。
ただ組織捕鯨のために邁進したというのではドラマにならぬゆえの、サスペンス・エッセンスです。まだ、ハラハラして頂きたい。
そして青年から大人へと変わりゆく醍醐新兵衛、未完全な人間形成の物語も楽しみにして欲しい。
もう一人の対なる存在である二人目の主人公・菱川師宣。
5話でやっと二人は友情を確かめ合った。
馴れ合いよりも刺激を……あいつが頑張っているのに、負けてらんねえ……そういう二人の、生ぬるさや薄っぺらさを廃した、魂の友情物語も、これからの見どころとなる。
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江戸は4代将軍、5代将軍の時代を迎えていく。
大江戸バブルの繚乱と、喧騒と活気。
大火、大地震、大津波、富士噴火といった天災。
史実の事件も多く重ねてくる。時代を表現するためには、こういうものが描かれるのだ。これを創意と誤解するものか、あの天下の副将軍が勝山にやってくる……!(誰、副将軍って?アレ?)
房州日日新聞連載作品「真潮の河」。
今後とも、目を離さずに……!