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嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~参の歌~

《出会うん遅すぎたんや》 原
今、逢いたいなぁ・・・けど、あかんねん。でけへん。
ワイはアンタに惚れてる。・・・けど、そんなん言われへん。
どないしょ。
長い夜が明け初めて薄明かり、布団かぶって、次に逢える日ぃを数える。
そん時、アンタ守れるんやろか、わし自信ないわ。
(注)ワイ、わし=私。アンタ=あなた。どないしょ=どうしよう。

定家 「苦しい胸の内や」

蓮生 「忍ぶ恋は哀しい。恋焦がれる哀しみが積もり積もって狂ってまいそうや。せやから、この次、逢った時、アンタにむちゃくちゃしてまいそうで自分が恐い。そんな男の歌やな。あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かも寝む。この歌聞いたら、なにかしら大津皇子を思い出すわ」

定家 「恋してはいけない石川IRATSUMEに恋をした?」

蓮生 「そうや。IRATSUMEは大津皇子にとっては、母親は違えど兄にあたる草壁皇子の愛人やさかいな」

定家 「あしひきの やまのしづくに 妹待つと 我立ち濡れぬ やまのしづくに。<貴女を待ちわびて濡れそぼつ俺自身>、大津皇子はこないにIRATSUMEに書き送った。けど、彼の姫君は逢瀬の約束はせぇへんかった」

蓮生 「けど、我を待つと 君が濡れけむ あしひきの やまのしづく ならましものを、と返してはる。<あたしが降りしきる雨のしづくになって貴方自身を包んであげる>って、艶めかしいなぁ。恋する女の歌や」

定家 「そやな。とはいうても、最初っから、逢瀬の約束は無理やった。というのも、IRATSUMEはその夜、草壁皇子の訪いを受けることになってたさかい。草壁皇子は知っていたんやろな、大津皇子とIRATSUMEの秘め事を」

蓮生 「愛も憎しみも……、難しいな」

定家 「愛は惜しみなく全てを奪う。憎しみは惜しみなく愛を奪う。そうなんやろか?」

                                                                                                 To be continued 





 

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