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マリーゴールド (ショートショート お題:チョコニート)

 (573文字)
 「センセ、ほら、種ちょうだい。」
 笹原は差し出された依里よりの凍える手を、右手で包んだ。
 「大丈夫だよぅ、センセ。ほら、蒔いちゃおう!」

 1週間前。
 生徒会で下校が遅くなった依里は人気ひとけのない花壇で笹原を見た。
 それは、まだ柔らかい16年の日々を粉々にする衝撃的な恋だった。
 固まった依里にギリシャ風の真っ白な彫像は、微笑みかけた。
 「やぁ、確か2年生だね」人懐こく手招きする。「種を撒こうと思うんだ。」

 そしてバレンタインデーの今日、約束通りマリーゴールドの種を持って依里は花壇に来た。

 種を撒き終わり、「ね、センセのクラスどこ?」依里は笹原にチョコを渡す。

 笹原は手にしたチョコを眺めて言った。
 「僕は毎年、学生からチョコを貰うんだ。
どんなに断ってもね。ある日校長に呼び出されたよ。
 チョコを受け取って貰えなかった生徒が、いたずらされたって訴えたらしい。
 怒ったPTAに追い回された。訴えた生徒の父親は大きなシャベルを振り回していたっけ。僕は、今ニートだよ。」笹原はほんの少し、ニヒルに笑って見せた。

 花壇に小さな芽が溢れかえったので、依里は早く昼食を切り上げて間引きをした。

 すると土塊に見えていたチョコレートが地面から一つ、また一つと出て来る。

 カチッ

 依里はそれをつまみ上げた。
 右手だった。

 マリーゴールドの花言葉は変わらぬ愛ー。



参加させて頂きます。
たらはかにさま
いつもありがとうございます!
 
 
#毎週ショートショートnote #書庫冷凍 #チョコニート


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