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ツィゴイネルワイゼン(1980)SEIJUN RETURNS in 4K
ツィゴイネルワイゼン/ZIGEUNERWEISEN(1980、シネマ・プラセット、144分)
●原作:内田百閒
●監督:鈴木清順
●出演:原田芳雄、大谷直子、藤田敏八、大楠道代、麿赤兒、樹木希林、真喜志きさ子
面白い映画には2種類あって、一つは脚本やあらすじだけ読んでも面白さが分かる映画と、もう一つはあらすじだけではいまいち面白さが伝わらない映画。
前者は例えばヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』とかコーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』、ビリー・ワイルダー『アパートの鍵貸します』など他多数。
後者ではコッポラの『地獄の黙示録』だとかアントニオーニの『欲望』、そしてこの『ツィゴイネルワイゼン』!
浪漫三部作の最初の一編、自分の日程の関係もありこの4K上映では最後に観てみた。(本格的に鑑賞するのは最初にDVDで観てから約20年ぶり)
ポイントを絞って印象に残った点を挙げていく。
[1] 死のイメージ
とにかく映画全編に渡って「死」に纏わるイメージショットが繰り返し現れる。
◆女の水死体の股から出てきた真っ赤な蟹
◆血を溜め込んだために赤くなった骨の話
◆登場からして死の影を纏って登場する人々
・女を死なせた中砂
・弔い帰りの小稲
・病院見舞い帰りの周子
◆生首のイメージショット
・テーブルから顔を出してこちらを見る中砂
・扉のガラス部分から顔を出す豊子
◆両手で「幽霊ポーズ」をする中砂
◆踏みつけられた六文銭
[2] 音
BGMはほとんどないが、ノイズというか変な音、このシーンではこんな音は聞こえないはずだというような違和感のある効果音が繰り返し現れる。
冒頭からめくらの門付け芸人3人が合間合間に現れることから、「視覚情報だけでなく聴覚情報にも注意!」という監督からのメッセージとして読み取れる。
そもそもが「サラサーテの盤」に紛れ込んだ、謎の声を何と言っているかというところから映画はスタートしている。
・シャン、シャン、シャシャシャン
・波の音
・食事中に聞こえた「だめだよ」の声
・太鼓
・拍子木
・柱時計の音
・ひぐらしの声
・鈴
・寺の鐘
[3]境界線
清順映画の特徴とも言えるが、扉やふすまの様な住居における境界から、メタファーとしての境界も繰り返し現れる。
・橋(冒頭)
・中砂の宅へと続く切通
・中砂の宅の玄関の小さな扉
・トンネル
・病床の小稲の蚊帳
・窓ガラスに映って顔が歪む場面
・病室のベッドのカーテン
・橋(終盤)
[4] 食事
トウモロコシ、ウナギ、すき焼き、こんにゃく、水蜜桃・・・とやたらと多い食事シーン。どういう意図があるんだろう?
◆時間経過
通常一日のうちに何度も食事はするはずないので、食事シーンを映すことで時間の経過や、日にちが過ぎたことを表している?
◆生と死
「入口」、「勝手口」など「口」は内と外の境を表す言葉として使うことがある。
食事を通して死者(ウナギなど)が生者の世界へ行き、その血肉になることで生を獲得することを暗示?
冒頭の「カニが死体を食った」も人間と人外が逆転しているだけでほぼ同義。
そういえば節分の豆まきで「鬼は外、福は内」というシーンも描かれていた。
色々挙げていったけどつまるところ、わかるようなよくわからないような…でも面白いというのが感想。
悪夢の映像化かな、と最初は思ったが、お化け屋敷の映像化という形容の方がふさわしいかもしれない。
意味や正解などないと思うが、またふとした時に見て新たな視点が発見できればいいなあと思う。