枯れ葉(2023🇫🇮)
原題: KUOLLEET LEHDET(2023、フィンランド=ドイツ、81分)
●脚本・監督:アキ・カウリスマキ
●出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・バタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイブ、アンナ・カルヤライネン、カイサ・カルヤライネン
アキ・カウリスマキは最高のアーティストでありながら、最高のマッサージ師だと思う。
つまり、余計なサービスは一切せず、こちらが押してほしいツボだけを見事に押してくれる。
クリエイターに対して「観ていて安心できる」というのが褒め言葉にならないケースもあるが、マッサージ師に対してはこれ以上のない褒め言葉ですよね(?)
欲張って変な付け足しなどはせずに淡々と始まって淡々と終わる。
これぞカウリスマキ!と唸ってしまうような、彼の美学を痺れるくらいに味わえた一本。
本当に小津安二郎のレベルに到達しているんじゃないかと。
カウリスマキ監督のファンも、初めて彼の映画を観る人にとってもオススメです。
映画の内容のことについて触れると、割とセリフが多いなという印象。
『マッチ工場の少女』あたりは開始15分セリフなしというのもあったので過去の作品に比べれば、テンポは良いような感じがした。
ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが冒頭だけではなく映画のところどころでラジオから聞こえてくる。それに対してアンサが批難めいたリアクションを取るシーンもある。
戦争を憎むことと、目の前の人を愛すること。
ミクロとマクロが共鳴しながらその焦点に向かって進んでいくような印象を受けた。
カウリスマキ監督の作風の特長として、何か大きなドラマがあるわけでもなく淡々と黙々と映画は進んでいくというものがあるが、よくよく考えてみれば決してドラマがないわけではない。
電話番号をなくしたホロッパが映画館の前アンサと再会した時。彼がトラムに引かれたとアンサが知った時。目が覚めたと聞かされた時。すべてほぼノーリアクション。
いや、ノーリアクションのように見えているだけで彼らの心の中では大きく感情が動いている。
目に見えないところで確実にドラマは動いている。
それを見つめようとする、それを捕えようとする、それを物語ろうとするのがこの映画の主眼。要点。エッセンス。つまり全てだ。
二人がデートで観る映画はジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』。
僕もこの映画は観ましたが、ジャームッシュ監督の中ではかなり変な作品というか正直ハテナ??というか。劇中の人物がブレッソンの『田舎司祭の日記』のようにすばらしいだとか、ゴダールの『はなればなれに』だとかこれまたヘンテコな感想を言い合っていたのが面白かった。
そしてその映画館の壁には『ラルジャン』や『気狂いピエロ』のポスターが張ってある。
劇中で演奏も披露していた女の子2人組のマウステテュトット(Maustetytöt)も良かった。
台詞は少ないけれど音楽でその感情を表現するという姿勢も一貫している。
美術、衣装、照明などの視覚表現もカウリスマキ美学に則ってトータルプロデュースされている。
「良い映画観たな~」と心から唸れる一本です。