子育てエッセイ : 幼稚園の運動会のかけっこでビリにならなかった長女と1位になった次女

長女が幼稚園の年長さんになり運動会の日が2週間後に迫っていた。
長女は走るのが遅く、2年連続でビリだった。
それも他の子どもたちに圧倒的な大差をつけられてのビリだった。
僕は長女が万年ビリのまま幼稚園を卒園して行くのを可哀想に思っていたが、余りにも大差をつけられていたので諦めかけていた。
ところが、その話しを奥さんにすると、

「あなた、今年からね、幼稚園の運動会のかけっこの組分けの仕方が変わったの。走るのが遅い子が大差をつけられて負けるのは可哀想だということになってね。走るスピードが同じ位の子どもたちを集めた組分けになったの。ユリカは1番走るのが遅い組で走ることになったのよ。」

希望が出て来た。
運動会までに後2週間ある。
僕は毎朝、長女を近くの公園のグランドに連れて行き走る練習をさせた。
僕は長女の走り方が気になった。

「ユリカ、かけっこはマラソンとは違うんだよ。
腕をもっと大きくそして早く振って走ってみて。」

思った通りだった。僕が言った通り長女が走ると
格段に走るスピードが速くなった。
僕はその走り方が身につくまで、時間の許す限り
長女に走る練習をさせた。
そして2週間後、運動会の前日の練習の後
僕は長女に言った。

「ユリカ、明日の運動会は、お父さんが教えた通りに走るんだよ。いいね。」
「わかった。」

迎えた運動会当日、長女のかけっこの前に、年長さんの園児とその子のお父さんが一緒に参加する障害物競争が始まった。
僕は長女と出場した。

僕と長女はスタートすると、まず最初にテーブルにのった大きな四角い箱があった。その中には大量の小麦粉と飴が入っていた。父親が手を使わず、小麦粉の中に顔を突っ込み飴を加える。
どのお父さんも顔を真っ白にさせた。観客の間で笑いが起きた。僕も顔を真っ白にさせ走った。
次に父親が手を繋いで子どもに平均台を渡らせ、
その次に手を繋いで跳び箱を飛ばさせた。
最後に待っていたのは、高い所に吊るされたパンの
パン食い競走だった。
高い所にあるので、父親が子どもを肩車し、子どもは父親の肩から手を使わずパンを口でくわえて取る
長女の、お父さんパンが取れた、という声が聞こえたので、長女を肩車から降ろし、また手を繋いで一緒に走ってゴールした。2位だった。

「ユリカ、一生懸命走ったから2位になったんだ。
ユリカ、次のかけっこ、一生懸命走るんだぞ。」
「うん、わかった。」

障害物競走の後、15分の休憩を挟み、年長さんの
かけっこが始まった。
走るのが遅い組からのスタートになった。
「あなた、ユリカが走るわよ。」
走るのが遅い組の子どもは4人いた。
スタートの合図とともに4人一斉に走り始めた。
最初のコーナーを回るまでは団子状態だった。
最初のコーナーを回ると他の2人の子どもが前に出て、長女ともう1人の子が並んでその後ろを走っていた。
最終コーナーを回ると長女が身体1つ分前に出た。
「ユリカ!そのまま行けー!」
「ユリカ!頑張ってー!」
「お姉ちゃん!頑張れー!」
長女はそのままゴールした。3位だった。
良かったと思った。ビリにならなかった、と思った

お昼休みになった。
長女がお弁当を食べに僕たちのところに来た。
「ユリカ、頑張ったね、3位だったぞ。」
「うん、一生懸命走ったら3位になれた。
お父さん、ありがとう。」
僕は長女を抱きかかえ、よくやった、よくやった
と何回も言った。目に涙が浮かんで来た。
周りの人たちは僕を不思議そうな顔で見ていた。
でも僕は、そんなこと全然気にならなかった。
僕は長女がビリにならなかったことが、嬉しくて
嬉しくて、仕方がなかった。

翌年、次女が幼稚園に入園した。次女は早生まれだったこともありクラスで1番小柄だった。
幼稚園の運動会が2週間後に迫り、僕は心配していた。
「運動会まで後2週間だから、クルミに走る練習をさせようと思うんだ。」
「あなた、クルミは走るのが速いのよ。」
「えっ?」
「リレーのメンバーにも選ばらたのよ。」
「ホント?・・・」

迎えた幼稚園の運動会当日、年少さんのかけっこが始まる前、次女は僕たちのところに走って来て、
お母さん、ハチマキ締めて、と言った。
次女はピカチュウのイラストの入ったハチマキをすると、厳しい目になった。
年少さんのかけっこが始まった。
次女が走る番になった。
スタートの合図で走り始めると次女はすぐに先頭になり、最初のコーナーで他の子どもたちと差を広げた。直線コースになると次女は他の子どもたちとの差をどんどん広げていき、観客の間からどよめきが起きた。僕はあっけにとられていた。
最終コーナを周りそのままゴールした。
ぶっちぎりの1位だった。

爽快な気分だった。
自分の子どもがかけっこで1位になると、
こんなに爽快な気持ちになるんだと思った。
僕は自分の子どもが幼稚園の運動会のかけっこで、
ビリにならなかった感動と1位になった感動の
両方を経験することが出来た。





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