鑑賞の思い出その4 『厨房のありす』

基本情報

主演:門脇麦
脚本:玉田真也、野田慈伸
演出:佐久間紀佳、鈴木勇馬、瀬野尾一、猪股隆一
主題歌:miwa「それでもただ」
あらすじ:定食店「ありすのお勝手」を営む八重森ありすは自閉スペクトラム障(ASD)を抱えており対人コミュニケーションは大の苦手だが、料理の腕と化学の知識は本物でお客さん一人一人に合った即興料理を振る舞うことが出来る。ある日、ありすのお勝手に住み込みで働きたいと言う酒江倖生という謎の青年が現れる。

24年冬クール、日テレ系日曜ドラマ。いずれ感想が上がるだろうけどこのクールは実写ドラマを3本も観てて濃い3ヶ月だった……。
何でこのドラマを見ようと思ったのかというと、主人公が自閉症という設定に興味があったというのが一番だった。というのも自分は訳あって発達障害とかそういう方向性のことに関しては結構詳しいんですよね。当事者とも当事者の親とも接したことがあるし、その辺の人達に比べればかなり識見の有る方だと思う。
そういう訳で3学期の寒いリビングに毎晩観に来てたこのドラマなんだけど、結論から言っちゃうと面白くは無かったかな、うん……。そうなった理由というのが自分の中では結構明確で、それはひとえに盛り込む要素を徹底的にミスってるから。

まずそもそも視聴するきっかけだった自閉症描写に関してはまあ申し分無かったと思う。曜日ごとに決まった色の食器を使いたがるとかはテンプレだし、一度信頼した人(ありすの場合前田敦子演じる幼なじみの三ツ沢和紗)には脳死でついて行くところとか歩き方に漂うそこはかとない違和感とか結構リアル。これについては素直に門脇麦の器用な演技が光ったと思うし、そもそも企画の段階で門脇麦さんならこういうのもいけるだろ、っていうのが念頭にあったのでは。因みに倖生を担当した永瀬廉くんも芯のある眼差しが全体的に雰囲気に合ってて良かった。

ところがこのドラマには主に並行して進む2つの要素があって、この2つを上手く1つのストーリーとしてまとめられてない印象だった。具体的に言うと、ありすが料理人として化学の知識を使った料理で人々を笑顔にするハートフルパート、そしてありすや倖生の過去の秘密を握る大企業、五條製薬との対峙を描くミステリーパート。
このうち後者のミステリーパートは昨今の考察ブームを受けて盛り込んだものなんだろうけど、ここが作品の完成度を大いに下げていたように思われる。粉飾決算とか火事の秘密とか色々描いてはみたものの、1クール引っ張れるほどの考察意欲を出すには登場人物が少なすぎたし、謎解きもそこまで本格的じゃ無くて普通に火事当時の警察が捜査したら判明するだろって感じの真相だったし、散々敵役として存在感を放っていた(特別出演扱いの北大路欣也などが演じる)犯人候補が真犯人を除いて最終回で超唐突に改心するのもカタルシス無いし……。
そしてミステリーパートに尺を割きすぎて料理ドラマとしての体裁が怪しかったのもまたマイナスポイント。毎話ごとに化学の知識に基づいて色んな料理が出てくるんだけど、あの料理を出したありすが早口でその化学的有効性を説明するシーンこそ自分の好みに合致してたんだけど、いかんせん駆け足で済ませるのでハートフル方面でもやっぱりカタルシス不足になる。料理は本当に美味しそうだったけど料理に主眼を置いてなくてミステリーの途中に寄り道として料理を作ってる感じ側したんだよね。

まとめると、自閉症・化学・料理・家族の秘密・大企業との対決・ジャニタレ俳優との恋愛描写・LGBT……これらの濃い要素を拡大放送もせずに全10話で無計画に描こうとして事故った作品だったかな。ミステリーを入れたいというのなら五條製薬パートはバッサリ削って、例えば食べ物系の話だったら小説「和菓子のアン」みたいな感じの日常の謎形式にすれば少なくとも自分の好みには合致しただろうし、料理がついでみたいになることも無くなって主人公の職業が料理人であることの必然性も出てきたはず。和紗の妊娠に絡んだ一連の流れとかグッと来る部分もあったことを思うと、やっぱりわざわざ自閉症という弱い立ち位置の人を主人公にするならもっと市井の人々の毎日に目を向けて作って欲しかったな。

主題歌は作曲に杉山勝彦(乃木坂46ファンから名曲メーカーとして知られる)が携わっているだけあって結構耳に残る良い曲。♪テーテテーテーテテテテそれでもただぁぁぁ⤴
そして、実写ドラマの感想記事がACMA:GAME、厨房のありす、と遡っているということは次は…………?

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