2024年に鑑賞した映画のベスト10選
今年も残すところ、わずかになりました
2024年に鑑賞が出来た映画の中で、特に思い入れを感じたり、語ったり、ものを考えるきっかけになったりした作品を選出してみました
基本は映画館で鑑賞した作品ですが、配信サービスで鑑賞したものも含まれています
ほぼ鑑賞した日付順に紹介していますが、一部は書きたい内容のために順番を変更しています
ファースト・カウ
西部開拓時代のオレゴン州を舞台にした、ごく小さくてささやかなお話
その地方では未だに珍しい存在であった乳牛から、夜な夜な牛乳を盗んで、ドーナツを作って揚げて、その美味しさが評判になりすぎて牛乳どろぼうがバレて追われてしまう、ふたりの男性の話でした
重めの熱量でまとまりのない感想記事を書いてしまったのですが、それでも書いといて良かったなあとしみじみしています
ボーはおそれている
ホアキン・フェニックスがすごく可哀想な目に遭い続ける話かと思ったら、どんどん何を観せられているのか分からんくなる話でした
次はどんな災難に見舞われるんだ? って加害を楽しむかのような思考になってしまう、ある意味まっとうな恐怖映画かも知れない
『不思議の国のアリス』を連想する話でもあった気がしてます 即興と連想と、主人公の好きなものや怖いもので出来た、夢の中のおとぎ話
レオノールの脳内ヒプナゴジア
映画監督のおばあちゃんが自分の作品の世界に入ってしまってさあどうする!? という話
わりと無茶苦茶で強引で荒唐無稽な話のはずなのに、親子愛の場面にジンときてしまったり、尖鋭的なギャグに唸ったり、みんなが歌って踊る劇終に泣いちゃったりした
2024年のベスト映画を1本選びなさいよ、と言われたらこの作品にします
他にベストで上げてる人がいなさそう、という理由もありますし、何でこの作品がこんなに愛おしいのかよう分からんというのも決め手です
ドラえもん 新・のび太の日本誕生
『ドラえもん』はもちろん、昔から好きな作品でしたがアニメを観ることよりも、てんとう虫コミックスの読み込みの方に重きを置いていて、アニメをちゃんと観る、ということをしていませんでした
この作品は声優さんが交代する以前の作品のリメイクですが、昔の作品も観ている人も、ドラえもんを観たことがない人も、アニメをいつも楽しんでいる人も、どんな方にもおすすめしたい大長編ドラえもんでした
旧作からの変更点、新たな作画で描かれるドラえもんたちと石器時代の風景、時代も種族も越えた友情が起こす奇跡、何もかもが完璧な作品です
新しく生まれ変わった『ドラえもん』は、これからもきっと、ずっと作られ続ける
ならばそれを追わねばなるまい! そう決意できました
来年3月公開予定の新作映画も楽しみです
ディス・マジック・モーメント
今年はいつになく映画館での鑑賞が出来た年になったのですが、その主な理由として、長野県上田市の古い映画館の上田映劇さんで鑑賞をするのが楽しすぎた、ということが上げられます
日本全国のミニシアターを巡り、その成り立ちや個性あふるる取り組みを取材し、劇場のスタッフさんのインタビューも行うドキュメンタリー映画なのですが、上田映劇さんとスタッフさんも出演されていたのが嬉しかったです
映画館を語るドキュメンタリー映画を、その映画館で観られるなんて、贅沢な体験でした
アフター・サン
思い出すと悲しくなってしまうし、悩ましい映画なのですが、それこそ彼女が抱いていた感情そのものなのではないか、そう思います
憐れみの3章
今年の2月に鑑賞をした『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督の最新作だったのですが、『哀れなるものたち』の記憶も生々しい中で鑑賞できるのが良かったです
10選にどちらを上げるか迷ったのですが、こちらの作品の方が不条理なギャグとして凄まじいのと、イカれ映画として強いのが好きです
辞書で調べたのですが、哀れみは悲しみの意味が強く、憐れみは同情のニュアンスが強いのだとか
シビル・ウォー
ポスターには“ディストピア・アクション”とありますが、むしろ自分は(今年よく観た)ドキュメンタリー映画のように鑑賞してしまった作品でした
元々の政府機関と独立した軍部により分断され、内戦状態に陥った架空のアメリカを舞台にした作品ですが、その手触りのリアルさ、明日にでもそうなるかも知れない恐ろしさを生のままに伝えてくる
主な登場人物は4人で、全員がジャーナリストであり、目的は軍事的な攻略を受けて、その明暗が風前の灯である合衆国大統領へインタビューをすること
そんなテーマで、重く受け止めるべき映画であるはずなのに、エンタメとして観てめちゃくちゃ面白い、
報道のコンテンツを娯楽として処理して観てしまう背徳感と楽しさがいっぱいの映画でした
役者さんの魅力も凄くて、主演のジャーナリストはキルスティン・ダンストなのですが、常に眉間に皺のよった無愛想だが気骨のある女性でめちゃくちゃ良かったです
また、『憐れみの3章』にも登場していたジェシー・プレモンスがその世界観を引きずったような不気味さと不条理さをいっぱいにした人物像でそこにいて、妙に嬉しくなりました
瞳をとじて
ビクトル・エリセ監督の約30年ぶりの新作であり、過去作の『ミツバチのささやき』と『エル・スール』と同時に上演されていました
この2作は、はっきり“少女”の物語であり、自我を持ってこの世に現れる“誕生”を描いていたのに対し、『瞳をとじて』は老いた男性の(亡くなる前の)心残りを清算する物語であることに驚きました
ビクトル・エリセ監督がそこにいて、何もかもさらけ出してくれてるように見えるくらい
『ミツバチのささやき』と『エル・スール』を語り直すような場面があちこちにありましたが、その用いり方はとても怖く、残酷とも言えるやり方で、こんな映画を撮れてしまうビクトル・エリセ監督の事が心底恐ろしくもありました
でもこの映画の、いや、『ミツバチのささやき』と『エル・スール』を経て『瞳をとじて』の結末にたどり着いて見出だせた感情は、映画館で映画を観ること、生きることの喜びと幸せに溢れたもので、実はそれはいつでも、誰もが手にできることなんだって、そんな体験をした映画です
映画であるからこそ成しえる、奇跡のような作品でした
親密さ
上演時間がとても長い、4時間にも及ぶ作品でしたが、その長さは冗長さでは決してなくて、なぜ4時間も必要なのか、それに納得のいく作品でした
文章でも、会話でも、手紙でも、歌でも、詩でも、脚本でも、小説でも、言葉はすべて、ままならなくて、もどかしい
人の頭や口から出るものは、発し手の思考や感情をそのまま伝えられるものではない、むしろ出力から上手くいく事なんか無くて、目にしたり聞いたりした側の人の中でも解釈はいかようにも変わってしまう
言葉を介してコミュニケーションすることの限界や、それに疲れはててしまった人の姿に身につまされる場面もある作品で、強く共感を憶えました
この1年、映画や読書をしてそのたびになるべく感想は記録していますし、ひとさまの感想などもこのnoteという場で拝見していますが、自分が書くことも、ひとさまの記事を拝見するのも、楽しいけど難しい、悩むばかりの年だったように思ってます
そんな時にこの映画を観たものですから、何だか気が楽になれました
言語によるコミュニケーションのしんどさと限界をテーマに、様々なままならなさ、齟齬を見せてくれることで、不思議とほっとしてしまう
そして話すことも書くことも、大好きだからまたやろうって、単純な前向きさを得られた作品でした
以上、2024年の映画10選でした
なお、今年鑑賞した映画で上田映劇さんで観たものは全件リスト化した記事もありますので、よろしければそちらもご覧頂けると嬉しいです