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『光る君へ』第八話『招かれざる者』のネタバレ含む感想
前回は、作中での猫の扱いについてめちゃくちゃ腹が立つ事があり、登場猫の小麻呂の安否が心配されてましたが、今話の冒頭で無事が確認されました
じゃあ何で前回はあんなだったのか、全く分かりませんが、とにかく良かったです
例によって、書きたいことをドラマ内のエピソード順に書いており、ネタバレに考慮していない内容なので、閲覧にはご注意ください
弓を調整しながら月を見上げる道長と、書を読みふけってると思いきや月を見上げるまひろからのスタートでしたが、この二人って思えば、第一話から月を見て互いに相手を想っている、というストレートな演出が入るんですよね、本当の子供の頃から…
でも、まひろは(道長さまへの想いは断ち切れたのだから)と、はっきり思考している ぜんぜん断ち切れてないのに、そうしようとしている意志の強さと頑固さが良いんですよね
左大臣家の恒例の姫様たちの書語り会は、小麻呂がにゃ~っていうショットからだった、良かった
小麻呂たんのフォローが何もなかったら、このドラマが嫌いになるところだった
でもどうやって帰って来たのだ小麻呂よ
前回はそのシーンを省略しただけで、まひろは実は小麻呂を見つけてたのか
それとも賢い小麻呂たんは自分で帰ってきたのか(猫あるある)
この日の姫様たちは、書語りはそっちのけで、打球の日の貴公子たちの噂話でもちきりで、なんと道長への好意の矢印がたくさん発生しており、まひろがめちゃくちゃ複雑な顔をしているのがいい、ちっとも断ち切れてなくて心中穏やかでない(でもそれを顔に出さない)顔…
何気なく、赤染衛門さまが直秀推しだったのも面白い、センスありますね衛門さま
衛門は人妻じゃないの、と言う倫子さまの言葉を受けて“人妻であろうとも心の中は己だけのもの”と、大胆な表明をする衛門さまでした
盛り上がる姫君たちと、まひろにもしっかり刺さっている表情の変化が可愛い
そうなんだよ、これから先、まひろは道長のこと想ったままでもいいんだよって励ましてあげたい
(その道はしんどいけど)
前回の打球の催しで、人数が足りなくて困ってた道長の組に、大胆にも“最近見つかった弟”と称して直秀を呼んで参加させ、その後自邸に連れてきて改めて紹介しているシーンが始まったのはなかなか驚く
直秀は散楽師の一団にして盗賊団のひとりですが、道長は盗賊って部分は知りません
きちんと貴公子らしい直衣と烏帽子の直秀はなかなか様になっていました
直秀は“最近見つかった弟”らしく振る舞い、あまりにもそれが違和感がないし、館を案内してほしいと道長に言うのですが、そこで「兄上」なんて呼んじゃったりする
道長もわりと満更でなく嬉しそうで、友達のような本当のきょうだいのような空気になる
すると、改めて直秀の素性が気になってきます
他の貴公子たちの前では「母親の身分が低いので、このような立派な邸宅を見るのは初めて」だと言っていた、それは案外本当の話なのかも知れない
実際に直秀は上流の貴族の落胤で、それが貴族を嘲笑う散楽師の仕事に繋がってるし、貴族を狙った義賊の行為も上流層への怒りと憎しみがあるがゆえだと思うと納得がいきます
そもそも直秀は馬にも乗れるし武芸にも秀でているし、幼少の頃にはちゃんとした教育を受けていたのでは? と思うとしっくりくるんですね
そしてまひろ(とお供の乙丸)は、また散楽師さんたちの稽古を見に来てたのでした
そして近いうちに京を離れると言う直秀に、京の外はどんなところ? と目を輝かせて聞くまひろ
直秀「一緒に行くか?」
まひろ「行っちゃおうかな」
直秀「…行かねえよな(苦笑)」
んんん、なんだこのシーンは
直秀がわりと本気っぽくイケメソ顔で「一緒に行くか」言うてるんですわ
直秀のまひろへの感情って、どうも掴めないんですよね、ずっとそうです
まひろのこと助けてやってたり、かと思えば利用してなくもない
以前、道長に対して、まひろに手を出すのは止めておけって警告もしてたのですが、それは身分差のある男女間の恋愛で女の身分が低い場合は、ろくな扱いをしないだろって諦観のようにも見えたんですね
直秀の母親がそうだったのかも知れない、という匂わせがあるように感じました
右大臣、左大臣、関白の会議では、権力をのばしつつある藤原義懐への対策を話し合いしてましたが、我々が手を携えていれば恐るるに足りん! などと言っていた左大臣さんが、妻から道長と倫子の婚姻の提案を受けると、めちゃくちゃ右大臣さんらの悪口を言い始めて面白い
右大臣の娘で先帝の女御で今や皇太子の母である詮子に先日してやられたことも、妻に口が滑って喋ってしまった
そして道長の評判を赤染衛門から聞いていた話も喋ってしまった
赤染衛門と話していた…? と妻が不快感を示すのに、更に狼狽して墓穴をどんどん掘る左大臣さん、すごくかわいいですね
そして道長との婚姻を、いなくなった小麻呂(またか!)を探しに来た倫子さまに(妻が独断で)打診すると、倫子さまは素晴らしい、素晴らしい反応をされたのでした
色重ねが繊細にされた袖口で口元を隠し、頬を赤らめる仕草が、これぞ平安時代の姫君よ…!! と納得の可憐さでした
殿方に興味がなく、猫を愛するのに夢中とされていた倫子さまが道長には初恋しちゃってるってエモいわ…とほのぼのします
この婚姻には、右大臣家と左大臣家が手を結んで花山帝を排斥する布石や、右大臣家出身の女御であった詮子さまが道長を通じて左大臣家を取り込もうとしているとか、色々と陰謀が絡み合っているのですが
その中心には純真な恋情があるってのが良いじゃないですか!
まひろのことも心配ではあるのですが、倫子さまが可憐すぎて推したい気持ちも出てきてしまった
(でも小麻呂からは目を離すな)
しかし、義懐を排斥したい右大臣さんたちでしたが、あえなく当の右大臣さんが倒れてしまったのでした
(義懐に怒りながら立ち上がったから卒中なのでは?)
すぐに会議をする道隆、道兼、道長、詮子の四人きょうだいでしたが、兄上(道隆)もまだ参議になってませんから困りましたわね、と言う詮子に、父上の後ろ楯が無ければ東宮(詮子の息子)の即位すら危ういのですぞ、と言い返す道隆、という早くも団結の気配が微塵も見えない四きょうだいなのでした
でもこれは、父と兄ふたり(道隆と道兼)が詮子の夫の円融天皇に毒を盛る計画(父)をして実行犯(道兼)とそれを知りそのままに置いた(道隆)三人だったから仕方ないのです
それに対抗するために愛する弟道長と左大臣家を婚姻させようとする詮子さまですが、でも父右大臣も現在の帝の花山帝を排斥するために左大臣と手を結ぼうとしてるから…もう一歩話し合って和解してほしいな
こうなったら目的は同じなのだから、禍根は置いて協調したほうがいいと思うのですが、でも人の世も政治も、根本は人同士の感情で動いてしまうんだってことなんですね
右大臣を回復させるために、以前まひろの家に呼ばれた祈祷師とよりまし(悪霊を下ろす巫女)とは違う、ちゃんとしたのが呼ばれてて、あっちはやっぱりインチキ臭が強かったな、と改めて確認しました
何せ阿倍晴明なので一味違います
よりましには以前、呪詛を受けたとされ、お腹の子もろとも亡くなった女御が悪霊となって取り憑き、右大臣への憎しみを口にしました
そして晴明が指を鳴らすと同時に、よりましは倒れるのですが、この辺のカット割りなどの見せ方がとても巧みでした
この物語では、実際には“ない”けど、信じられて皆が“ある”としていたから、悪霊や呪詛が現実に作用している…という演出だと見えました
女御の呪詛を指示したのは右大臣なのは事実です
そしてそれに同調していたのは、関白と左大臣、他の参議、そして道長を除く息子の道隆と道兼でした
なのに、よりましに取り憑いた女御が真っ先に暴力を振るったのが道長なのはおかしいし、そもそも呪詛の実行犯は晴明でした
自分の呪詛で亡くなった人の悪霊を、今度は鎮めることなど出来るんでしょうか
でも、右大臣家としては悪霊を鎮めてもらわねば困る、だから依頼するのだしそれらしい解決を見せて安心もさせないといけない
晴明が花山帝とその側近の義懐に呼ばれ、右大臣家で祈祷を行ったら女御の悪霊が出たことを説明した上で、
「右大臣が女御さまを呪詛しお命を奪ったということか!?」と聞かれて「それは分かりませぬ」と堂々と回答するのは強く面の皮が厚い さすが晴明だと思う
愛妃だった女御が悪霊となってしまったと聞いて悲嘆にくれる花山帝は、さすがに可哀想です
花山帝役の役者さんが線の細い顔立ちのお綺麗な方なので、よりその悲壮感が強まります
しかし、そもそも花山帝が入内している妃たちへの寵愛を平等にしてなかったり、自分の側近ばかり偏って権力を与えたり、親政にこだわったり、実質的な政治権力を持つ関白や両大臣をないがしろにしているからこうなったんであって、愛妃を死なせたのは巡りめぐってあなたのせいなんですよと誰か言ってみてほしい
『源氏物語』の冒頭の【桐壺】とそっくりですしね
と思ってたら、まひろの家でハキハキと、まひろ弟が
「右大臣家と手を切っておいて良かったですね!」
とか言ったのでほっこりしました
そして政治に関わらず学問で静かに身を立てたいと父上は思っているのよ、と姉まひろがたしなめると、学問への興味がまるでない弟は
「本当に(おれは)父上の子なのかな?」などと愚痴るのでした
学問にめちゃくちゃ強い父と姉がいるのもしんどいなと、まひろ弟の事も案じられてきました
その一方で、この家の貧窮していた時代の記憶があまりない弟は、周りの大人と姉に本当に大切に育てられたのだとも分かります がんばれ弟
その後、宮中の書庫で道兼と会う父為時でしたが、道兼はあくまでも穏やかに話しかけ「父が世話になった」と礼までするのでした
まひろたちの母で、為時の妻のちやは は第一話で道兼に惨殺されましたが、その時の凶暴な面影は道兼には今や無く、為時もその現場は見ていないため、心底戸惑っているようです
そして突然、道兼は父から暴力を振るわれていること、死に瀕していてもなお自分を打擲すること、昔から自分だけが父に嫌われていたと告白するのでした
口に出さなくても、先ほどのシーンでまひろの弟が言っていた
「本当に自分は父の子なのか?」が、ここでも繰り返されているのです
道兼は家族の中でも居場所はなく、宮中でも帝に(右大臣の息子)だと嫌われているのだと訴えます
何でよりによって為時に? と思うのですが、穏やかで聞き上手で誠実な(政治の闘争には向かない)性分に惹き付けられたのかも知れない
帝もそうだもんな、それが出世に全然活かせてないな、と面白くもあります
しかし、さらに面白いことに
道兼が為時の家に、つまりはまひろの住む家に突然訪ねて来たのでした
動揺するまひろでしたが、部屋に置かれた母の形見の琵琶を見つめ、思わぬ行動に出ます
道兼にその琵琶の演奏を聞かせたのです
美しく響くその調べに、まひろは
お前は私の母を殺した、あの日の事は生涯忘れない
決して許さない、一生、呪う……!
きっとそんな想いを乗せて、堂々と奏でていました
これは、まひろなりの呪詛なのだ
実際に殺してしまえる力など無くても、それでも決して許さない、呪い続けると決意を込めていた
そしてその気迫が皮肉なことに、道兼にはどこまでも麗しい調べとして響いてしまった
道兼はまひろに、「琵琶は誰に習ったのだ」「母上はご病気(で亡くなったの)か?」と心からいたわる言葉をかけるし
まひろはあくまでも、道兼を糾弾することはしないのでした
とんでもない、しかし、素晴らしいシーンです
第一話ではすごいトンデモ展開だと思ってしまった、母が殺される展開ですが、ここに来て手を下した道兼は琵琶の調べに涙するし奏者のまひろの母を気遣う人間でもあったと示すし
あの日泣きじゃくっていた小さな女の子だったまひろは、堂々と道兼の前に立って見せたのでした
それはかつて母にたくさん愛されて育てられ、つかの間道長と心を通じ合えたからこその強さだと分かるのです
あの日、六条の廃屋で道長は「まひろの言うことを信じる」と言っていた、それがまひろにとってどれだけ力を与えていたのだろう、大切な記憶なんだなと改めて心に迫ってきたのでした
道兼が帰宅した後に、為時はまひろに謝るのですが
「私はもう、あの男に自分の気持ちを振り回されるのは嫌なのでございます」
と、まひろははっきり告げたのです
“あの男”というのは道兼だけでなく道長のことも含まれているんだと感じました
道兼への憎しみも、道長への恋情も、忘れないけど絶ち切るのだと宣言するまひろは、頑なで強い、強すぎる子です
ある日ぽっきりと折れてしまいそうな危うさも共に感じます 心配でなりません
で、この回の締めくくりのエピソードは、散楽師の一味の盗賊団が道長の実家の邸宅に忍び入って捕まって、この回の冒頭で仲良くなった…と道長は思ってた直秀が盗賊だったと知るシーンで終わるのですが
その道長の顔が、なんかすごい顔だったんです
憎しみとか怒りとか悔しさとか悲しみとか驚きとか、色々と含まれてるように見えて、普段ぼややんとしてるだけに、お前、そんな顔できたん? って驚く顔でした
ひろうすさんが描いて下さってるので、ぜひご覧下さい!
ひろうすさんの光る君へ絵巻は絶品なんです! いつも!
道長を特にひいきに想ってらっしゃる、ひろうすさんならではの表情の描写が素晴らしいんです!
道長は本当に、直秀に「兄上」って呼ばれて嬉しかったんでしょうね
自分は右大臣家の嫡男だけど、政治的な権力の中枢に居て我が物顔で専横してることに反発心が昔からあって、子供の頃から散楽師たちの芸を見に行っていた(一話参照)
きょうだいたちが嫌いなわけじゃない、でも心から通じ合えるわけでもないし、まひろに歌を贈っても返事もない、心の拠り所を失ってる状態だったから、直秀と仲良くなれた(ような気がして)すごく嬉しかったんでしょうね その点は道兼と通じるものがあります
なら道兼と和解できればいいけどそれは無理だし、本当に可哀想なきょうだいです
それにしても道長、いや三郎って、まひろの美しい見せ場をことごとく見てないのが気になります
五節の舞姫として舞ってたところでは居眠りしてるし、琵琶を奏でるところは(不可抗力ですが)よりによって道兼に一人占めされてしまった
道兼がまひろのことを「麗しいが無愛想だな」と何も知らんと評しているのは悔しいですね どっちも良いところだろ!
三郎とまひろは魂の奥底で通じあっているソウルメイトってやつだから、表層的な誰の目にも止まる美点を称え合う必要は無いってことなんですかね
でも、どこか少女小説のようなラブストーリーの甘さを出すこのドラマなんだからさ、三郎に見てほしいよ、まひろのうるわしいところをさ!
あと、まひろが琵琶を奏でるシーンは『源氏物語』で言う【箒木】のエピソードを思わせるのも気になります
【箒木】では貴公子どもが女君への図々しい理想を口々に語るシーンがありますが、その中に、“寂しく荒れた草深い家に思いがけない優れた姫君が住んでいたら趣ふかい”なんて話したりしてるんです
その後に、光源氏は方違えで先触れもそこそこに中流貴族の邸宅に出かけてちょっと迷惑がられるシーンなんかもあったりして、今回の道兼の行動と、まひろの琵琶の演奏は【箒木】の引用も込められてるのかもと思います
だとしたら、道兼がまひろに今後恋文とか贈ったりするんかな…と考えると、地獄の地獄の展開なので、ちょっとやってみて欲しいな、なんて勝手に想像してるのでした
最後に、今回の感想記事の下書きメモ写真も一緒に貼っておきます
先日、この『光る君へ』メモ写真をお菓子のつぶやきのネタに少し乗せたら、意外にメモへのコメントを頂いたので、ひょっとして需要ある? といい気になったので貼ってみます
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