堅実性と非日常/映画『本日公休』と『プリンセス・シシー』の感想
だいたい週に1~2回でお邪魔している上田映劇さんとトラゥム・ライゼさんでの鑑賞レポートシリーズです
今回は台湾の『本日公休』と、約70年前の名画『プリンセス・シシー』を鑑賞してきました
本日公休
昔からの常連の顧客のために、遠方へと旅をする理容師さんの話
長年に渡り理髪店を切り盛りし、3人の子供を育て上げた母親でもある主人公は、季節毎にお客さんに営業の電話をかけて予約を取り付ける、SNSとは無縁の昔ながらの商売を続けており、新興のビジネスに手を出しては失敗してるらしい息子や、当世風の低価格のファストサロンの経営を目指す娘とは意見も姿勢も合わないと、お互いに感じている
世代間のギャップに悩む親子関係であったり、それぞれの仕事や金銭に対する違いを尊重するのが難しい、つまりはどこのおうちにもありそうなエピソードで、台湾も日本も変わらないことがあるなって共感がすごい話でもありました
ポスター画像にもあるように、理髪店の雰囲気が日本とほぼ同じだったのも親近感をおぼえます
話の前半は、主人公とその子供たちのそれぞれの関係性とスタンスの違いについての描写を丹念にし、後半ではトラブル続きながらも色んな人の手助けを受けて、常連さんの暮らす家にたどり着くまでのロードムービーになっていて
だからこそ、たくさんの想いを込めて、寝たきりになってしまってる常連さんの髪を切って、それまでの思い出と感謝をゆっくりゆっくり話す場面では、込み上げるものがありました
もし、誰かにこんな仕事を成すことができて、感謝してもらえたら
こんな仕事をしてあげたいって、誰かに感じてもらえたなら
それだけで、きっと満足して死ねる
でもこの映画のいいところは、そんなとびきりのクライマックスを経た上で、日常に戻ってちょっと子供らとの関係も変わったような変わらんような、他の常連客との会話もそれまでと違わなくて、いつもの、これまでと同じ堅実な仕事をこれからも続けていくんだっていうパートがまあまあ長かったことです
映画として鑑賞していて、感動のピークがとうに過ぎ去っても日常パートがしっかり長くて面食らったのですが、観終わるとすごく腑に落ちました
人生も仕事もそういうもんですね
自分も仕事をこんなふうにやっていきたいって素直に思えてくる いい映画でした
プリンセス・シシー
目にも綾で豪華絢爛な、シンデレラストーリーの映画
フランツ・ヴィンターハルターの肖像画で有名なオーストラリア皇后エリーザベトが、夫となるフランツ・ヨーゼフ皇帝に見初められ、宮廷入りするまでの物語です
エリーザベト(この映画内ではエリザベート表記で、愛称がシシー)を演じるロミー・シュナイダーの愛らしさが素晴らしく、初めて登場する場面での赤い乗馬ドレス姿で横乗りしながらの快活な笑顔、父親に甘えながら狩りに出かけ、自邸では動物の世話に走り回るおてんばぶりの魅力がいっぱいで目が離せませんでした
そこから打って変わって、求婚を受け入れてからの薄幸の姫君ぶりときたら、諦念に溢れた眼差しの憂いの深さがたまらん美しさでした
ヨーゼフ皇帝との予期せぬ出会いの場面への展開の強引さも、こういう世界観だから…と納得を持って受け入れられるし、とんまな警備兵長のコメディアンぶりもいい味出してます
エリーザベト皇后の逸話は一般的な範囲内でしか知りませんが、苦境に晒され続けた生涯であったことや、その幕を閉じる原因は反王政主義の若者によるテロであったことなどを踏まえると、はっきりと不吉な行方を示すフリをあちこちに感じました
でも映画としては結婚式の場面で終わるし筋書きもシンプルです
というかむしろシンプル過ぎました
約70年近く前の映画ですが、とにかく役者さんとお衣装とプロセインの豊かな自然とオーストラリア宮廷の絢爛さ、そして豪奢な結婚式を眺めるだけの内容です
しかし、それで映画がもっているので昔の名画って凄いなとしみじみしました
麗しい花嫁姿のシシー姫が手を振る姿の麗しさは
「我が国にお綺麗な姫様が来てくださった!」と熱狂するオーストラリアの国民たちに感情移入しました
とは言え、映画館で鑑賞できたからそう思えるのであって、自宅のテレビ鑑賞では寝てしまったと思います
フランツ・ヨーゼフ皇帝とシシーの出会いの場面が『アナと雪の女王』のアナとハンス王子の会話の元ネタのように見えたことや、本来ヨーゼフ皇帝に嫁ぐはずだったシシーの姉が婚約を破棄された場面での苦悩はすごーく見ごたえありました
シシーと姉は、お互いを想って気遣いする姉妹でありつづけて和解も出来たので、我を通すだけのヨーゼフ皇帝の方がよほど思慮が浅いだだっ子に見えてしまった
シシーも姉も、ヨーゼフ皇帝の何がいいんだろう
シシーの姉の状況って、現在の日本の漫画に山のようにある婚約破棄から始まるやつの原点だったりすんのかな~なんて思ったりもします
シシーたちの実母のルドヴィカさまは朗らかで夫とラブラブだし、その夫も優しくていいパパで、牧歌的な雰囲気のシシーの実家が居心地良さそうなのがいい
こんなおうちで育ったら、そりゃあ厳格な王宮が辛いに違いない
あと、シシーから見て姑にあたる、ヨーゼフ皇帝の母親のソフィー大后も大変お美しかったし、未来のオーストラリア皇后を教育する、という姑と教育ママ属性と厳格さの要素がもりもりなので、推しはソフィー大后です
そんな訳で、
日常の仕事を堅実に積み上げるおばさまの映画と
波乱に満ちた生涯を送った姫君の始まりの物語の映画を同じ日に続けて上田映劇さんで鑑賞したので、女の一生はいろいろであることよ、と帰宅してはんこを眺めながら思う次第でありました