見ていた事は、本当…?
サッカーの試合
「今日はワールドカップの日本対ブラジルのサッカーの試合があるね〜」と同僚の原と話していると、原が「そうだよ山科、地上波放送がないからネット放送で観なきゃいけないな、相葉は休みとって観に行って相変わらず熱い奴だな!」
同僚で同期の3人はサッカー好きでそんな同僚との会話をしながら家路へ向かい、独身時代はよく同期の3人でスポーツバーで騒いでいた事を思い出し、原に「また、明日!」と足速に家へ向かう。
家に着き「ただいまー」と言うと、息子の波瑠に「おかえりなさい!」と迎えられ、疲れた身体が波瑠の声で聞き、一瞬にしてパワーチャージされた。
波瑠が「アレクサ、日本とブラジルのサッカーの試合!」と言うとネットテレビの画面が変わり、波瑠に「ありがとうねー」と言うと、少し照れている。
私は少しソワソワしながら波瑠と一緒に小さなソファに並び観戦をしていると、少し離れたとこから妻の璃子が「キミ達、コピーみたい!」と笑いだしている。
試合が始まり日本があっと言う間に先制し、ぞくぞくと2点、3点とゴールを決めて、「よしっー!!」と叫び、波瑠と璃子とハイタッチをして…、試合終了で8ー0で日本の完勝でゴールシーンは全て絵に描いた様な空中からのボレーシュートで綺麗さに気を良くしていたら、「お父さん、アニメみたいだね」と波瑠が言った…。
リターン
携帯電話が震えて「お父さん、携帯…、」と息子の波瑠が持って来て、「波瑠ありがとう!」と言うと波瑠がニコッとし横に座った。
携帯電話は同僚の原からで”ライン“でガッツポーズのスタンプがあった。
万歳スタンプで直ぐにリターンし、原もやっぱり今日の試合を観ていたなとニンマリしていた。
携帯をテーブルに置いて直ぐに携帯が振るえて、有給休暇をとって現地で今の試合を観戦していた営業の相葉からのラインは、“号泣スタンプ"と“惜しかった〜、負けちゃった!"と、短く書かれていた。
“日本を応援していた相葉がブラジルの応援してる??"と、モヤモヤとしていたけれども、ネットテレビで観た試合内容は日本が完勝、ブラジルは“惜負"じゃないけどなと思いながら、 “ブラジル残念!"と短く相葉にリターンした。
相葉から直ぐラインでリターンは、“??、日本1ーブラジル3"、
スコアボードの写真と“日本負けた〜"と…。
“あれ〜、?"内容が食い違ってる。
不思議顔をしていた私に璃子が「どうした〜?」と話すので、「日本が勝った試合なのに…!」璃子も観ていたので「そうだけど、?!」私は相葉からのラインのやり取りを璃子に見せると首を傾げ「今、ネットテレビで観ていた試合は…?何…?」
そんな話しをしていたら原から携帯電話が…、原が「山科、相葉からのラインの写真見たか?」と問いかけられて「家で今、その話をしていとこ…。 現地で観戦してる相葉が送ってきた写真だからな…、じゃー、俺達の観てた試合は何だった…?」
狐につままれた様な妙な違和感で朝を迎えた。
新聞紙
通勤電車の駅前のいつもはそんなに気にする事のない新聞売り場の前を通り、新聞の1面の見出しは、“ウクライナとロシア AI戦争"と書かれいて、電車まで時間がなくて新聞は買わずに新聞売り場を通り過ぎた。
出社した私に「山科さん、昨日の試合見ました…?」と、後輩の茂木夏菜に話しかけられ、「観たんだけど、…」と言い切る前に「凄いシュートでしたね」茂木が…、「茂木さんも観てたんだ!」と言うと私は妙な安心感、それはクラス全員風邪で学級閉鎖になった時に、自分も風邪をひいていた様なヘンテコな気持ちと似ている…。
あのサッカーの試合を茂木さんも観ている、恐らくは大勢があの試合を観ていたんだ、“あの試合、日本の勝ちなのか…?"
原が先に会社に着いていて、新聞のスポーツ欄を確かめる様に見ていて、「山科、昨日の試合結果載ってるぞ!」と…、新聞を覗き込むと昨夜のサッカーの結果が報じられていて、紙面に“日本惜しくも敗れる1ー3でブラジル勝利!!"
原と私は顔を見合わせ「じゃー、あの試合は、造られた映像だったのか…!」原が呟いた。
原の呟きに新聞をちらり茂木が見て、「えっ!、新聞が間違うなんて…」茂木さんは自分の目で見た事を疑わない…。
サッカーの試合結果を原と私はスポーツ欄で見終え、茂木が不思議顔で新聞をたたんだ。
そこには朝の新聞売り場で見掛けた1面目の記事に“ウクライナとロシア AI戦争"と載っていた。
実際はウクライナの戦車なのに、映像ではロシア軍の戦車にすり替えられていて、戦場にはロシア軍の戦車が大多数をあるような戦場の映像にAI技術で捏造され、戦争の状況をすり替え人々を迷わす。
AI技術を使いインターネット上で配信して、ロシア軍の士気を高める目的と…。
人の心を簡単に惑わす。
目で見たもの
昨夜、私と原が観たサッカーの試合は…「AIで造られた映像…?!」と顔を見合わせ同時に言った。
自分の目で見たものは簡単に信じられ、見えないものは信じられない…。
茂木さんもあの試合を観ていた。 インターネットだもの大勢が観てあたり前…、大勢があの試合を観て勝利を喜んだり、敗北に嘆いたり…。
あのサッカーの試合を原の目と私の目で確かに見ていたけれど造られたニセモノで、相葉の目で現地で観た試合はホンモノ…。
同じ時間に同じものを見ていたはずなのに全く違う…。
リアルと画面越しの温度差に怯えて、目を閉じた…。
見た事すべてがホンモノとは限らない時代、
偽物が偽物で、本物が本物と理解出来るラインを飛び越えている。
AIが学習する事が正しい真実でなければ、虚像が本物をなってしまう。
目を凝らしても解らないAIの創る世界が、静かに音をたてずに忍び来て、未来すらもAIが創るのかも知れない。
仕事が終わり帰宅すると璃子が「おかえり…、昨日の試合、日本負けなんだー」、波瑠がそれを聞いて「えー、アレクサ、ニュースを見せて」と言う…。
アレクサも身近にあるAI…!
…………………… 終 ……………………