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読書感想『少女を埋める』

今週読んだ本
『少女を埋める-桜庭一樹』




母がはっとし、『ファミリーポートレイト』という母と娘の暴力を伴う愛がテーマのわたしの小説について、「じゃああの本に書いたことは現実だって言うの?」と恐怖と嫌悪の入り混じる表情でわたしを見た。(引用)


お友達から『ファミリーポートレイト』という本を紹介してもらったが、近所の図書館で見つからなかったので同じ作者さんの別作品『少女を埋める』を読んできた。

小説というよりほぼエッセイ。前半は主人公の父がコロナ禍中に亡くなる話。後半は前半の内容を文学誌に載せたら曲解されたんでレスバする話。
構成がややこしい。とりあえず全部作者の実体験ということで進める。

冒頭引用にあるよう、ふぁみぽは作者の経験からきている作品らしい。俺読んでないけど。
そんな歪んだ関係のまま離れて暮らしていたが、父の病状悪化を機に地元に集う。微妙な空気感が漂うなかそれでも母娘が結託し看取りから葬儀まで行う。

テーマは「家族関係」「共同体での差別意識」「作家の権利」あたり。
俺も俺で人並みに家族とは問題があった方だが、この主人公のような、程度の重い関係を見たり、増してや母娘にある呪縛に関してはよりいっそう同じレイヤーで語れんなあと思った。俺に知識がない。

が、思い当たる点もあった。
作中とほぼ同時期に母親の父、俺にとってのじいちゃんが亡くなった。残された母とばあちゃんの様子を思い出す。
少し経ってから、母が「ばあちゃんと、前はちょっと関係悪かったけど葬儀を機に仲良くなった」と言っていた。
作中で死の間際まで必死に声をかける2人と、火葬前に泣き叫ぶ母とばあちゃんは被るものがある。叫びは神聖なものだと感じた。

また、都内に住む作者は地方に蔓延する差別意識が気になっていた。
家父長制やジェンダー論。従わないなら村から出ていけと。時代錯誤な圧力に嫌気がするという。
いちおう俺も不登校経験者の1人として同調圧力苦手プレイヤーではある。
こちらの論調がマジョリティになるのもそれはそれで怖いが、とはいえ作者の「共同体は個人の幸福のために!」という明確な主張は力強さを感じた。

もうちょいつづく。後半は、前述のできごとを小説にして出したら朝日新聞の書評でめちゃくちゃ書かれ、キレる作者。この書き方では地元の母が完全な悪者になる!訂正しろ!というバトル。大量の大人を巻き込む。
正直、ちょっとこれ怖い。ひとりひとりの人権を守ろう、みたいなのが膨らみすぎて、言い方は悪いが「たかが一個人の発言」が尊重されすぎでは?と感じてしまった。

いや確かに朝日新聞も悪いけど、そこまで私見を大ごとにする必要あるかなあと思う。そう考える俺みたいな人にカウンターを作中で打っていて、納得はするものの、もう少し穏便にさ…と思ってしまう。
俺も結局、圧力に降参してしまう側の人間なのかもしれない。

俺もある媒体で文章を書かせてもらってことがあるのだが、文章1つ表現1つの変更でとにかく気を遣われる。大したこと書いてないしそっちのイメージに合うように雑に書き直していいよ〜って思うけどやたら尊重される。
自分が思ってるより個々の発信に重み、権利があるのかも。もしくは周りが思いすぎてるか。


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