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いや、それもっとはよ言って!と息子にツッコんだ話

金曜の夜、珍しく夫が一人で出かけていった。大学院時代の同窓会に参加するためだった。

聞くと、その同窓会には、全米各地だけでなく、海外から飛行機で駆けつける人がザラにいるんだとか。学校が主体となって開催する大がかりなもので、お金もかかっているようだ。金曜から土曜の2日間にわたり、立食パーティ、講演会、懇親会、BBQランチなど、様々なイベントが開催されていた。

さて、夫が家を出て行った後、残されたわたしと子どもたち2人で、今夜の夕飯をどうするか話し合った。息子が口火を切った。

「そうめんが食べたい」

夫が夕飯を外で食べるのは、年に数回ほどしかない。こんな滅多にない機会ではあるのだが、夫のいない夜は、わたしたちはいつも決まってそうめんを食べる。

なぜなら、わたしと子どもたちはそうめんが大好きなのに、夫一人が食べたがらないからだ。味がどうこういうより、歯ごたえがなくて嫌なんだとか。だから、我が家では、鬼のいぬ間に洗濯をするのではなく、そうめんを食べるのである。

「そうめんか…」

わたしは斜め横をにらんでつぶやく。まあ簡単だし異論はないけれど、金曜夜にそうめんというのも、なんだか頼りない。

金曜夜だぜ。パパは外で楽しんでくるんだぜ。だから、わたしらも楽しもうぜ。

ふと、娘が数日前に、「ポットベリー(POTBELLY)のサンドイッチが食べたい」と騒いでいたのを思い出した。

ポットベリーというのは、サンドイッチのチェーン店である。お手頃価格だけど、まあまあちゃんとしたサンドイッチが食べられるので、わたしは気に入っている。

金曜夜にサンドイッチってちょっとパンチが足りないが、家でそうめんよりはましだろう。非日常感があっていい。ポットベリーのサンドイッチはわたしも好きだ。わたしも食べたい。そして何より、夕飯を作らなくて済む。

というわけで、巧みに子どもたちを誘導し、ポットベリーの店舗へ食べにいくことにした。

行ってみると、店内は何組かお客がいて、そのうちの一組が、うちと同じくらいの歳の子ども2人とお母さんという同じような構成のファミリーだった。

アナタも今晩はここで手軽に済ませちゃえと思ってきたのね、きっと。

向こうのお母さんに妙なシンパシーが湧く。すれ違いざまに目があって、無言の微笑みを交わした。

さて、3人分の食事に、どのサンドイッチをどの大きさで頼もうか。壁に書かれたメニューとにらめっこしながら考えていると、息子が横でやんややんやと話しかけてくる。

マック&チーズが食べたい!
チップスも頼んで!
このジュースも頼んでいい?

息子よ、ママはいま考えているからちょっと黙って。マック&チーズもチップスもジュースもあかん、今日はサンドイッチを食べにきたんや。

(注:マック&チーズとは、アメリカでよくある子ども向けメニューで、パスタにチーズを絡めた食べもの。高カロリーで体に悪い)

わたしは、普通サイズのアボカド・ターキーサンドイッチと、小サイズのレック・サンドイッチを頼んだ。

アボカド・ターキー
レック

このお店の普通サイズは、わたしと娘が半分こしても十分お腹いっぱいになる量である(実際、娘は半分を食べきれずに残した)。

レジの横に並べられていたチップスを見て、子どもたちが買って買ってとピイチク騒ぐ。あかん、と言いかけたが、わたしも食べたい。ざっとまたメニューに目をやって、さっと確認してから、息子のサンドイッチを単品ではなく、コンボに変更した。サンドイッチのほかに、スープ、チップス、飲み物がついてくる。

お会計を済ませて、サンドイッチができるのを待っていると、息子が「ねえ、ママ」と話しかけてきた。

「夜は子ども用のセットがタダなんだよ」

……え?なにその耳より情報。

わたしが真顔で反応したのを見て、息子が「ほら」とメニューを指さした。

その指に操られるように顔を向けると、メニューには、「平日夜はキッズメニューが無料!」と確かに書いてあった。さらに、もくもくとした線で囲まれている。

なんでさっき気づかなかったんだ。

でも、どうせマック&チーズにレモネードとか、他人の子どもの健康なんてこれっぽっちも気にしていないような内容なんでしょ。そう思って、そのラインナップに目を凝らすと。

キッズメニュー

マック&チーズも確かにあったが、サンドイッチを選べば、そんなに悪くなさそうだ。いや、これが無料ならもちろん頼むっしょ。7ドルのこのセットが無料になるなんて太っ腹やないか……

などと考えていたところに、

「はい、お待たせしましたー」

と絶妙のタイミングで、わたしが頼んだ3人分のサンドイッチがどさっと出てきた。わたしは、無言で受け取った。

……まあ、別にいいけどな。今回は許したるわ。でも、息子よ、そういう大事なことは、今度から真っ先に言うんやで。

(おわり)


読んでくださり、ありがとうございました。
我ながら、なんて小さい、セコイ話なんだ…

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