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【人生最期の食事を求めて】鮮烈の白と衝撃の柔和が奏でるとんかつの深淵。

2023年11月5日(日)
とんかつわか葉(福岡県福岡市中央区)

飲みたくもない香ばしいコーヒーを飲みながら、窓辺に広がる川端通商店街の行き交う人々を望む。
秋らしからぬ熱をはらんだ日差しを避け、午後からの案件に向けてWi-FIを求めPCのキーボードを叩いた。
そうするうちに昼が迫っていた。
資料を作ることに集中したせいか空腹を覚えたものの、これといって何を食べようという計画を持っていなかった。

まずはコーヒーを飲み干し、秋らしからぬ熱をはらんだ日差しが降り注ぐ川端通りに出て、思いつくがままに歩いてみる。

博多ラーメン店の行列、もつ鍋や居酒屋ランチは満席、そして相次ぐ店の日曜日定休。
無意識裡に焦りを覚えたせいか、私は俄に足早になり額や首元が薄っすらと汗ばんでいるのを知った。

日陰の路地の車道に数人の行列が見えた。
迷いの中で私はその行列を成している正体を知りたいと思い、その店の前で立ち止まった。
頭上にはとんかつというシンプルな看板が青い空に伸びている。
これ以上彷徨ったところで焦りだけが増すだろう。
他方、この行列に準ずることで誰だけ待たされるのだろう?

とんかつあお葉

意を決して最後尾に続いた。
10分ほど経つと、若い女性スタッフの朗らかな声音で
「2階へどうぞ」
と案内された。

1階のカウンター席の賑わいを横目に2階へと伸びる急な階段を昇ると、2階のテーブル席に導かれた。
メニューを見えると、肉は沖縄産と鹿児島産のいずれから選べるシステムである。
私の直感は「沖縄産琉香豚ロースカツ定食」(1,800円)を惹きつけられた。
そして雑穀米を選んで待つことにした。

メニュー表の上部に、低温油で揚げるためそれなりに時間がかかるという注意事項が目に入ってきた。
周囲の席では、若い女性同士や子供を連れた若夫婦が談笑に勤しんでいる。
この客の後にとんかつが到来すると思うと、再び私の中で幾許かの焦燥感を襲ってきた。
ともあれ、注文を終えた以上たじろいでも仕方あるまい。

すると、思ったよりも早くとんかつが運ばれてきた。
通常のとんかつとかけ離れた白っぽい衣と艷やかな桃色の肉の見事なほどの対比は、とんかつの未知の領域に足を踏み入れたような気分を招いた。

まずは軽くソースを注いたキャベツに、そして岩塩を付けたとんかつに箸を伸ばした。
そのひと口目の口中に押し寄せる衝撃は実に優しい。
さらに肉から溢れ出る肉汁の風味は誠に豊かなのだ。
まさにとんかつでは未知数と私は対峙している。
落ち着きを取り戻すように雑穀米に箸を伸ばした。
とんかつとは異なる歯応えを噛み締めながら、赤味噌の味噌汁で落ち着きを取り戻した。

沖縄産琉香豚ロースカツ定食(1,800円)

けれど、再びとんかつを噛むとまたも新たな感動と興奮を呼ぶのは何故だろう?

フランスの政治家にして美食家のサヴァランは言った。
“新しい料理の発見は、新しい星の発見よりも人類を幸福にする。”

そもそも人間というものは、歳を重ねる度毎に見たことのないものや食べたことのないものと遭遇すると、言葉を失いばかりで感嘆詞だけのシンプルな表現しかできない。
私は美食家ではないことを自覚する。
それにもかかわらず、幸福の真髄に触手を伸ばしたことは確かだ。

雑穀米
味噌汁

とんかつを半分ほど残したところで、キャベツと雑穀米をおかわりした。
まるで最初から食べるようにキャベツ、とんかつ、雑穀米という循環で頬張った。
食べ終わる頃には満足と完食の分かち難い感情が立ち昇り、それを打ち消すように水を飲み干した。

ひと時計に目をやると13時を超えたところだった。
食べすぎたことによる後悔は微塵もなかった。
川端通に溢れる日差しに身を寄せながら、午後の緊張のひとときへとゆっくりと足を踏み入れた。……

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