旅する建築家。 「イギリス1~ロンドン編~
私には代々「お世話係」の女性が居る。
初代は美術大学時代の「コミヤマ」さんだ。
大学に行くときも帰るときも一緒。
講義の間も一緒。
呑みに行くときも一緒。
という間柄であった。
当然周りの人々は「男女交際」をしていると普通に思っていたのだが、これが私と歴代のお世話係の不思議な関係で、「指一本触れていいない」のである。
歴代のお世話係の特徴は「自立した女性」で、いつも一人で行動できるタイプであった。
そして私の方も、お世話係を一ミリも「女性として」見たことは無かった、いや、普通に外ではモテる魅力的な女性なのであるが。
そして、「何故かいつもベッタリ」の我々は、一緒に映画に行ったりもしていた。
しかし、お世話係も妙齢になっていくと、いつも私と居る訳にはいかなくなる。
二代目のお世話係は「カツヲ」さんという女性だった。
休みの日は二代目の部屋に入り浸って夕飯をつくってもらい一緒に食べた。二人で布団の上でストレッチとかやっていた。
そして、スパーリングはやったが笑、男女の関係は一ミリもなかった。
そして、三代目が「クドー」さん。
月に一度中目黒で二人で食事をし、クラブで踊り、毎日メール交換をしたいた。
そして、男女の関係は一ミリもなかった。
次が四代目の「アキヤマ」さん。
二人でプールで泳ぎ、オセロをやり、映画を観に行った。
その四代目がイギリスに留学する、というので、早速年末年始の休みを使ってイギリスへと私も向かった。
四代目はロンドンでハウス・シェアリングをしていたが、冬休みで同じ日本からの留学生は居らず、四代目一人で過ごしていた。
そこへ私が訪れ、一緒にマーケットで買い物し、パブでビールを飲み、洋服を交換し、クラブに踊りに行った。
そして、そして、男女の関係は一ミリもなかった。
イギリスの美術大学に通っていた四代目は、オシャレな美大のオシャレ・イギリス人たちとつるんでいた。
ハウス・パーティーに一緒に行き、本場ロンドンのドラムンベースで踊ったりもした。
そんなロンドン・オシャレ・ライフであるが、
迎えた大晦日の夜に一緒にパーティーに出かけた。
毎度のオシャレな「アーティスト予備軍たち」が集まっていた。
カメラマン、ファッションデザイナー、グラフィックデザイナー、建築家、モデル、、、
(こんな大晦日も悪くないな、、、)と思った。
さて、いよいよカウントダウンを迎えた。
クラブ中がカウントダウンを始めた。
「10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1...」
その刹那、
「へい~じゅ~~~♬」
聞き覚えある男の声が鳴り響いた。
「どんれっみ~だ~~ん♪」
クラブ中大合唱が始まった。
(まさか!?)
と思っていたらその瞬間がやってきた、、、
「な~な~な~♪ ななななっな~♬ ななななっな~♬ へいじゅ~♪」
(なんじゃこりゃ!?)
さっきまでの「ロンドン・オシャレ」の空気は跡形も無く吹き飛び、
「イギリス人どもが集団でザ・ビートルズを大合唱する」
という、とんでもない空間が立ち現れてきた。
(その瞬間、私の脳裏には紅白歌合戦で神輿に乗りながら紙吹雪の中『祭』を歌う北島三郎の姿が浮かんだ)
私は一人で大爆笑し、
「な~な~な~♪ ななななっな~♬ ななななっな~♬ へいじゅ~♪」
と一緒に合唱した。
完。